福岡市長選 前例なき分裂選挙へ(2)現職への低評価 混戦招く [2010年11月5日14:29更新]

タグで検索→ |

noimage

(10年10月号掲載)

福岡市長選の構図自民党など保守系会派がまだ候補者選定を進めていた8月上旬、いち早く現職・吉田宏氏の推薦を決めた福岡商工会議所の政治団体「福岡商工連盟」(河部浩幸会長)。 

だがその直後、所属する中小企業から「会長の独断だ」「自民が選考中なのに拙速すぎる」などと批判が噴出、「おれはやらない」と公言する者も出る事態となった。 



9月29日に開かれた植木とみ子氏の政治パーティー。集まった約1000人の中には地元中小企業経営者の顔が。元市幹部の植木氏を支えるのは、前市長の山崎広太郎氏である(写真下、中央)。 かつての支持者や知人らを巧みに取り込んでいるようで、関係者からは「さすがは山崎氏」との声が漏れた。  

植木とみ子氏の政治パーティー(9月29日)

 

もちろん、自民が推す高島宗一郎氏の陣営も黙ってはいない。10月5日には自民市議らが河部会長をたずね「推薦をもらえないか」と“揺さぶり”をかけた。決定が覆ることは当然ながらなかったが、裏で高島氏の支援に回る者もかなり出てきているという。  

 

このように経済界・企業団体などが分裂してしまったことは、これまで長きに渡って保守政党を支援してきた勢力が、自治体・国政における「政権交代」という急激な変化に対応し切れていない実態を如実に示している。

政権は選挙によって一夜にして交代することはできても、人の心はそう簡単には変えられない。従来の方針を180度転換した上で、内部の意思統一を図るのは極めて難しい。そのため、保守政党が現職に相乗りしない限り、表向きは現職支援を表明しながらも一部は他候補を応援するという事態が生じるのも、ある意味当然と言えよう。

こうした状況は、吉田氏が民主推薦で初当選を果たした時点で、ある程度予想できたこと。2期目を狙うに当たっては、従来の保守基盤をいかにして取り込むかが、現職の課題の1つでもあったわけだが・・。 

こども病院問題 他候補から集中砲火  

前回選挙で大きな争点となった市立こども病院移転問題。山崎前市長が打ち出した人工島への移転計画を白紙に戻すとの公約を掲げた吉田氏は、病院移転や人工島事業に反発する市民の支持を集め、山崎氏有利との下馬評を覆し初当選した。 

だが吉田氏は08年、人工島への移転を正式決定、これに対し多くの市民から批判の声が上がった。民主県連で現職推薦をめぐり内紛が起きるという異例の事態を招いたのも、この問題が大きな要因となった。 

新人候補はほとんどが、移転計画を中止するか見直すよう公約に掲げている。唯一、推進の立場を取っていた高島氏も先月末、「計画は半年間凍結する」と“微調整”。公開討論会などで吉田市長は、新人の集中砲火を浴びる形をなった。

 

「明らかな公約違反だ。市長は期待はずれだったとしか言いようがない」。人工島移転に反対し、前回選挙で吉田氏を支援したある市民団体関係者は9月末、本紙にこう語った。「今回は絶対に吉田氏を応援しないが、かと言って誰に入れればいいのか・・」 

移転に反対する患者家族・医師らは一時、「新人候補が多すぎる」「これでは批判票が割れてしまう」と、誰を支持するか明確に打ち出せずにいた。だがここへ来て患者家族らの多くは、元佐賀市長・木下敏之氏の支援に回っている模様だ。

麻生元総理も体たらくぶりを揶揄

「皆さん、今回の立候補者は8人ですよ、8人。普通、2期目の選挙でこんなことはありえない」。高島氏の出陣式(10月31日)に駆け付けた麻生太郎元総理。集まった支持者の前でこう語り、吉田市長の体たらくぶりを揶揄した(写真下)

高島氏の出陣式で挨拶する麻生太郎元総理(10月31日)

戦後最多、8人の候補者が乱立し、政党・各種団体がかつてない分裂状態となった福岡市長選挙(冒頭図参照、クリックで拡大)。今回のような事態を招いた要因はこれまで述べてきたようにいくつかあるが、最大の原因は現職・吉田氏への評価があまりに低いことにあると言っていい。 

通常の選挙であれば、対抗馬の数が多ければ多いほど、現職に有利に働く。批判票が各候補に分散されてしまい、支援政党・団体から一定の票数が見込める現職に届かなくなるからだ。だが今回は、本来であれば現職に行くはずの政財界・各団体の票の一部を、対抗馬が奪い合う形となっているのが実情である。

それでも、地元紙をはじめとするマスコミ各社は「事実上の民主VS自公」「国政の対立構図を反映」などと報じている。多くの読者・視聴者の方が思っているほどマスコミ記者の知的レベルが高くないことが、これでお分かりいただけるのではないだろうか。

 *               *               *

選挙戦は現在、リードする現職を高島氏、そして木下氏が激しく追い上げる展開となっている

候補乱立の混戦で厳しい状況の新人も、一歩抜け出て反現職票の受け皿になれば、勝ち馬に乗りたい経済界やいわゆる無党派層の票が一気に流れ込む-といった展開もありえるだけに、予断を許さない。

いずれにしても残りわずか1週間。勝利を手にするのは現職か、あるいは新人か。はたして-。

福岡市長選 立候補者一覧

★本稿は10月号掲載記事にその後の動向などを加筆・修正したものです