好評につき~口福探訪シリーズ;鮨職人③ [2015年10月16日14:30更新]

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『ここまで来れたのも、皆さんのおかげです。』最後に鉄砲を食した後、思わず口をついた「旨いッ!」の一言に、はにかみながら28歳の若い大将は、仕入れ先や同業の方々に対する感謝の言葉を返してきた。

世間では、新鮮でうまいなどと言って味の解らぬ中高年が相手の、寿司屋と称するつまみ屋が横行する中で、“真の和食とは、鮨とは何なのか”改めて気づかされた。“これを食べずに死に行く方はかわいそう。仮にこれが最後の晩餐になったとしても、成仏できない人はいないだろうな”。店を出る時、自然にそう思えた。

JR九州の高額列車、七つ星に和食を提供する老舗やま中。その支店である博多駅くうてん店の元店長、田中一矢氏が今回取り上げる大将。中学校卒業後13年間の宮仕え期間を経て、満を持して4月21日に独立開業を果たした叩き上げの職人。大将田中さんの同店在職当時は、「やま中の田中」ではなしに、『田中のやま中』とも呼ばれていた、絶対的エースであった。

マグロが弱いと言われる当地区であるが、生の赤身は二種類の産地から。そしてトロもまた違う魚体で異なる産地。つまり、同じマグロでも、異なる三本を仕入れている。聞けば、マグロ以外にも魚それぞれに仕入れ先が多岐にわたっているようだ。味の向こうに、仕入れ先との信頼関係が透けて見える。

豊前の赤貝と紐は、閖上産並みの堅い食感が感動的。対馬産のアナゴは出身母体の味そのもの。白みる貝も地元産。岡山産とは異なり、磯の香りが口いっぱいに広がる。いくらには唐津産のウニをのせて。のどグロ(赤むつ)は炙って四種類の薬味を掛けて。烏賊は包丁で味付け。玉は葛が入っているのかと思うようななめらかなプルプル食感。すべてのネタにシゴトを施し、単に薬味をネタに乗せるだけのトッピング鮨手法のそれとは全く異なる深い味わい。目でも喰わせる至高のシゴトを、店主許諾の上でアップする。

カワハギと肝添えに自家製紅葉おろし

今が旬の小アジ

珍しい生のカンパチ 粕酢との相性が最高

生からの炙りトロ  薬味が四種

オクラ+まぐろの削り節+梅肉少々

旨いには理由があるが、旨いにも程がある。
本年4月21日開店の鮨かず矢
福岡市中央区薬院四丁目15-29 香ビル一階 店主田中一矢氏28歳
昼11時30~14時 3,240円&5,400円 夜17時~21時 10,800円~
(KKRホテル裏)

◆掲載後店主からは予約殺到という声が入り、また読者諸兄からは面白い、興味深い等との声が寄せられ筆者として汗顔の至りである。『マズかった。無駄だった。気分悪い。金返せ!』読者がそんな失敗をしないよう、炭鉱のカナリヤになるべく、愚生は今日も食べ歩きを重ね、大きな分母からの一店舗を紹介していきたい。