<写真特集> 知られざる屋久島【中】 [2008年2月12日11:21更新]

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雪を頂いた宮之浦岳

世界最大の暖流である黒潮の中にある屋久島は、冬でも海水の温度は20度近くになる。暖かな海にはサンゴが広がり、海中の森となって生き物たちに住処を提供している。

そんな、「亜熱帯の島」を感じさせる光景が見られる同じころ、山では逆に吹雪となり、雪に閉ざされる。屋久島が「日本の気候の縮図」といわれる所以である。
(写真=雪を頂いた宮之浦岳)



世界遺産に登録されて15年。島を訪れる観光客の数は増えつづけ、年間30万人を突破した。

「洋上のアルプス」とうたわれ、「秘境」だった島は、今や都会の人々が「癒される」観光地となった。そのおかげでさまざまな問題が生じ、地元も「魅力の発信」と「環境の保護」を両立させる方法を模索している。メジャーなコースである縄文杉には、たとえばゴールデンウィーク中には1日に1000人近い人が訪れる。

根を保護するために作られたデッキには人が溢れ、ラッシュ時の駅のホームかと見まごう。歓喜の声、カメラのシャッター音、ガイドの声が響き渡る。

もはや、そこに縄文杉を育んできた、森の静寂と神聖さはない。

  

かつて島人が「奥岳」と呼び、神の住む場所として信仰の対象だった山岳地帯にも、中高年の登山客を多く見かける。

地元ガイドたちの努力もあって、マナーはよい方だと聞く。それでも、古の人々が祀った祠の近くに、プラスチックの弁当箱が残されているのを見たことがある。

稀有な例かもしれない。だが実際、避難小屋に残されたゴミを、仲間たちと下ろしたこともある。そこには、屋久島の人々が大切にしているような信仰はなく、山の頂上に立つ喜びだけがあるのだろう。

こうした状況は、整備された道路が山奥まで伸び、それまで2日がかりだった九州最高峰の宮之浦岳にも日帰りで登れるようになってから顕在化した。

登山客が大幅に増えた結果、登山道は踏み固められ1メートル以上も沈み込んだ。そこを大量の雨が流れ、さらに削り取るという悪循環を繰り返している。

地元ではガイドや観光関係者を中心に、自然との共生を模索する動きもある。まず、5月や夏休みなどに集中する登山客を、年間を通して分散させる方法だ。踏み荒らされる森や登山道への負荷を軽くし、回復する時間を与えようという発想からだ。

もう1つは、尾瀬ヶ原のように入山する人の数そのものを規制するやり方だ。その前段として、レンタカーやマイカーで山に入ることを禁止して、登山口まではシャトルバスで送るという計画もある。これは、業界内で一部合意を見ている。しかし一方で、鹿児島からプロペラ機しか飛ばない空港を、東京や大阪からもジェット機で来られるように拡張すべきだという声も、根強くある。

いずれの場合も、まだ「屋久島方式」ともいえるような、統一されたやり方が見えてこない。一線の現場で活躍するガイドたちも、島外から来た「よそ者」組と、「俺たちの島」の意識が強い「地元」組とで考え方に違いがあると聞く。

観光客の増減は、企業の利益や自身の生活に直接影響するだけに、「すぐに入山規制をすべき」と、単純にはいかないのだ。

<【下】へ続く>

★屋久島とは?