頭抱えるTV業界 アナログ停波、2011年にできない!? [2007年12月21日11:15更新]

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 (07年12月号掲載)

電器店に並ぶ地デジ対応テレビ先月、本紙は「見返りなき投資」と題して、地上デジタル放送への移行が、特に地方テレビ局の経営を圧迫している、という関係者の声を紹介した。

だが現実はより深刻だ。地デジ対応テレビの普及が遅れ、アナログ放送の停止が「2011年に間に合わない」と識者が指摘。そうなればデジ・アナ両放送を続けなければならず、さらなる費用負担を強いられる。

また、CM料や視聴率といった、経営の前提となっていた重要事項にまで影響を与えるとの声も。

民放各局は、間近に迫る様々な課題に頭を抱えている。



どよめく民放関係者 「地デジ対応テレビの普及 遅れる」

「アナログ波の停止は、2013年から18年にずれ込む可能性がある」。パネリストの発言に、会場を埋めた民放関係者からどよめきが起こった。

先月東京で行われた、ある民放キー局と系列局が開いた勉強会。全国のテレビ関係者が参加して識者や関係者を講師に招き、地デジの普及に伴い今後予想される問題点について学んだ。その会合での1コマだ。

2011年7月にアナログ放送は停止し、すべてデジタル放送に変わる-これが現在、テレビなどで大々的に宣伝された結果、ごく一般の視聴者が持っている認識だといえる。だが、冒頭の識者の指摘はそれを根本から否定するものだった。

現在、全国に普及しているテレビは約1億6000万台といわれている。アナログ波の停止は、これらがそっくり地デジ対応のものと入れ替わる、ということを前提にしている。だが、この識者は「家電メーカーの現在の生産ペースでは、11年までに5000~6000万台しか普及しない」と予想する。 

「この話は外でするな」 

現在販売されているテレビのほぼすべてが地デジ対応のもの。だが完全にデジタルへ移行すれば、その時点でいったん需要の伸びが止まるのは明らかだ。今増産体制を取れば将来的にメーカー側の負担となることが予想され、そのため過剰な設備投資を控えているからという。

これは、いわゆる「地デジ難民」の問題とも関連する。11年にアナログ波が停止すると、生活保護を受けている世帯などテレビを買い換えられない視聴者が大量に発生する、といわれる。まして、テレビそのものが足りないとなると「停波を先延ばしにしろ」という世論が高まる可能性がある。

そうなると、テレビ各局はデジタル・アナログ両波による放送を続けなければならず、メンテナンスなどのコストは莫大になる。そしてその費用に対する「見返り」は、既報の通り事実上まったくないのである。

「正直みんなビビッてました」。そう語るのは勉強会に出席した、ある地方局関係者だ。「局の幹部は『この話は絶対に外でしてはならない』と言っています。アナログ停波の時期は、経営側にとって死活問題。下手に世間が騒いで、本当に先延ばしになったらまずい、ということです」 

CM料の値下げも

地デジ対応テレビの普及が遅れていることは、民放の経営側にとって頭が痛い、もう1つの問題を招いている。それはCM料金だ。

勉強会では、広告業界から招かれた講師が「現在の1億6000万台が、最後の1台まで地デジ対応テレビと入れ替わって、はじめて今と同じ商売の土俵が整う。少なくとも1人1台まで普及しないと、実質的には商売の規模が縮小する」と、このままの状態ではCM料の値下げにつながると指摘した。

つまり、こういうことだ。現在のCM料は、1億6000万台のテレビで視聴できるという前提で設定されている。だがその数が減り、地デジ難民などテレビを見ない人たちが増えたら、同じ「視聴率10%」でも、母数が違う以上価値は相対的に低下する。広告主からすれば「CMという商品の価値が低くなり、当然料金も今より下がるはず」となる。

これについては、民放側も反論する。「たとえテレビの数が少なくなっても、不特定多数に情報を発信するというテレビの重要性は変わらないはず。少しでもCM料金を下げたいスポンサー側の駆け引きですよ」(ある民放制作部関係者)。 

視聴の実態が変化

むしろ問題は、テレビを見るという環境がこれまでと大幅に変わり、視聴率そのものの信頼性が揺らいでいることにある。

例えば「ワンセグ」。携帯電話などで地上デジタル波を受信・視聴できるサービスだ。また、特に若者を中心に、パソコンでテレビを見るケースが増え、この傾向は続くとみられている。

こうしたテレビ以外の機器については、現在のところ視聴率調査の対象となっていない。「家族が居間に集まってテレビを楽しむ」という状況が減りつつある中、地デジの普及などで変化する視聴環境を、視聴率という数字にどう反映させるかが課題となるだろう。 

勉強会では多くの講師が「地上デジタルを取り巻く環境変化を再認識しなければ、民放テレビ局は危機的状況を迎える」と結論付けたという。「だから前から言ってるんですよ。こんなことをやってくれと、一体誰が頼んだのか、と」(民放営業関係者)。