医師の反発招いた会見 杉町氏らの思惑はずれる [2008年12月4日09:58更新]

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(08年11月号掲載) 

こども病院 人工島移転案 「賛成」表明も・・

福岡市立こども病院(福岡市)人工島(福岡市東区)への移転をめぐって揺れている市立こども病院(写真)。このほど、県医師会の“重鎮”4人が会見し、「人工島移転案賛成」を表明した(既報)。 

だが彼らはいずれも外科が専門の「門外漢」。その裏には、根拠となる情報やデータを提供するなど、移転を推進する市当局の存在が見え隠れする。 

一方、この会見を受け小児科医会は、臨時総会を開いて移転反対を決議。人工島案への賛成表明は皮肉にも医療界トップのレベルを露見させ、あらためて医師たちの「NO」の意思表示を招く結果となった。 



 

「今までは反対の報道ばかり。人工島移転もいいんじゃないかという意見を述べさせていただきたいと思った」。九州中央病院の杉町圭蔵院長は会見の理由についてこう説明した。 

10月17日、同病院で会見したのは杉町氏のほか県医師会の池田俊彦副会長ら。いずれも九大医学部出身の外科医で医師会や学会の要職を務める「権威」。特に杉町氏は脳死移植推進の第一人者として知られる。

「東区にもぜひ子どもが入院できる病院がほしい」「人工島なら広い土地が取れる。400台以上の駐車場スペースが取れるし、家族のための簡易宿泊施設やヘリポートも。隣に公園もあり療養環境にいいなど利点がある」「場所が遠いという感覚は私にはない」 

杉町氏らはこう述べ、「いろんな立場から考えて非常に望ましい」と、人工島移転案を支持した。 

市の情報に丸乗り   

メディアを通じ「有名な医者が賛成している」と認識した方も多いだろう。だが会見内容の「おかしな点」についてはほとんど報道されていないのが現実だ。 

杉町氏らが一通り意見を述べた後、あるマスコミの記者から「内容が市の主張と同じだが、市がそちらに説明に来たのか」との質問が出た。 

杉町氏は最初「いいえ」と答えた。だが「福重(淳一郎・こども病院)院長が説明にあがったと言っているが」「私が行った。いろんな数字は公表されたもの。福岡市からも取り寄せた」「9月12日、福岡市保健福祉局の恒吉香保子理事が説明にあがったと」「そうですか、私が行ったり向こうが来たり、何回も行ったことがあります」 

記者に追及された結果、根拠となる具体的な数字は市側が発表した物であることを認め、しかも事前に市幹部と密に連絡を取っていた事も明らかにしたのだ。 

これらの数字は根拠が不明であったりいつの間にか修正されたり、「まず人工島移転ありき」のいい加減なものが多いことはすでに報じた通りである。 

「ほいほいと来た」 意識の低さ・知識のなさを象徴

「杉町氏らの意識の低さ、知識のなさにはあきれましたよ」。あるマスコミ記者はこう眉をひそめる。 

池田副会長は「杉町先生とは学生時代のホッケー仲間で、『ちょっと来い』というからほいほいと来た」。また八木博司・県病院協会会長は「東区同様、西区にも小児救急施設はないが」と問われ「具体的なことは詳しく知らないので答えようがない」とかわした。 

会見後記者に囲まれた杉町氏は、1週間前にも市幹部が同氏を訪ねたことについて問われ「市役所のことも知らないし、決議されたことも知らないし、市の方針も知らないし、だからいろんなデータをくれと言った」。要するに、まず賛成という結論があり、知識やデータは後から市に提供してもらった、というわけだ。 

これが、福岡の医療界では知らない人のいない重鎮たちの言動である。その裏には、権威の力を利用して反対派の声を封じ込めたいという市当局の思惑があることは言うまでもない。 

市と「重鎮」らの思惑とは逆に・・   

この会見を受け、小児科医や産婦人科医からは「専門外なのに何を言っているのか」などと反発の声が上がり、両医会は今月、臨時総会をそれぞれ開催した。 

福岡地区小児科医会は10日、人工島移転に反対することを賛成多数で可決。医師の団体が組織として移転反対を明らかにしたのは初めてのことだ。 

一方、県産婦人科医会福岡ブロック会は1日、「医師には個別の事情があり、会として意見をまとめるのは難しい」として決議を見送ったが、依然約8割は反対という。

本紙はすでにHPで、杉町氏らの会見が医師らの反発を買っており、医師会内部の対立に発展する可能性があると報じていたが、それが現実になったわけだ。杉町氏らの人工島移転案賛成の会見は残念ながら、人工島への移転をスムーズに進めたいという市当局の思惑とは逆に、現場医師らの明確な「反対の意思表明」を招く結果となったと言えるだろう。 

それにしても、移転をめぐり露見した、県医療界トップの意識・知識レベルの低さと当局ベッタリの体質。こうした実態を目の前にして暗澹たる思いに駆られるのは筆者だけだろうか。