LEDが光って地上にモールス信号 福岡工大製作の人工衛星「にわか衛星」9月初旬に宇宙ステーションから放出 [2012年8月17日17:27更新]

タグで検索→ |

noimage

福岡発の手作り人工衛星が今、地球を周回している国際宇宙ステーション(ISS)に積み込まれ、宇宙への放出を待っている。この人工衛星は福岡工業大学(略称FIT、福岡市東区和白東)情報工学科の田中卓史教授と20人余りの学生チームが製作した小型衛星「FITSAT─1」。先月21日に打ち上げられた無人補給機HTV3号「こうのとり」でISSに運ばれ、現在の予定では9月10日ごろ、宇宙飛行士の星出彰彦さんの手で日本実験棟「きぼう」から宇宙空間に放出される。  手作り衛星の愛称は「にわか衛星」。福岡発の衛星ということで、伝統芸能博多にわかから名付けられた。一辺が10㎝の立方体で、重さ約1・3㎏の超小型衛星。前面に緑色のLED(発光ダイオード)50個、裏面に赤色LED32個が取り付けられ、地上からの指令で「HI DE NIWAKA JAPAN」(ハーイ、こちらは、にわか、ジャパン)という言葉をモールス信号で光らせるという。これまで数多くの人工衛星が打ち上げられたが、自ら光を発する衛星はおそらく世界初となりそうだ。

「JAXA(宇宙航空研究開発機構)が小型衛星を募集している情報に接したのは、昨年3月の東日本大震災の直前でした。人工衛星なんてもちろん作ったことなどなかったんですが、何か夢のある計画で、何とかなるんじゃないかと、1カ月半ほどで計画書を書いてJAXAに送ったんです」と田中教授。全国から8件の応募があって、田中教授の衛星を含む3件が合格したという。

衛星にカメラを搭載 画像を地上に伝送
「にわか衛星」の主目的は、高速通信の実証実験。衛星に積んだカメラの画像を、独自に開発したマイクロ波帯の5・8ギガヘルツという高い周波数の送信機で地上に送り、これを直径1・2mのパラボラアンテナで受信するという計画だ。5〜6秒で1枚の写真を送ることができるという。

「衛星の計画を採用してもらうには、何か目新しい実験をしなければいけません。そこで、衛星カメラの写真を地上に送る高速通信の実験をやろうと考えたんです。これまでのアマチュア衛星でよく使われるUHF帯の電波だと通信速度が遅くて、とても写真を送ることはできません。これが衛星の実用性を引き下げていたんですね。しかし、UHF帯の100倍速いマイクロ波帯だと、送信できる情報量も100倍になって写真も送ることができます」。
田中教授の専門はコンピューターだが、少年時代から現在に至る趣味がハム(アマチュア無線)。無線通信はお手のものの分野だ。ただ、衛星の箱の部分の製作には苦労した。そこで、機械工学の河村良行教授に協力を依頼。田中研究室と河村研究室の合同プロジェクトとなった。「ISSの衛星放出機の規格に合わせるのが難しかったんですね。でも、河村先生が10㎝角のアルミパイプを切断して使ったらいいんじゃないかと提案してくれて。難問も解決しました」。

光る衛星を観測し 誰でも実験に参加
「さて、もう一つ何をしようか。LEDで衛星を光らせてみようと考えたんです。実は、これまで何百個もの人工衛星が上がっていますが、衛星自身が光るのは聞いたことがないですからね。衛星が光って、どんな実用性があるのかといわれそうですが、光をモールス信号に従って制御すれば、地上に言葉を伝えることができます。これだと関係者だけでなく、だれでも実験に参加できますからね」。
難題は電池だった。350㎞もの高空を飛行する超小型衛星の光を、地上で観測できるくらいの明るさで光らせるためには、瞬間的に200Wもの電力を取り出せる電池が必要だ。「既存の電池ではなかなかそこまでの性能がなかったんですが、大手の電池メーカーの新製品のリチウムイオン電池を探し当てて、ほっとしました」。
衛星は1日に16回地球を回る。福岡上空を通るのは3日に1回。ただ、LEDは光の幅が狭いので、うまく衛星の方向をとらえないと観測は難しい。「条件がよければ、4〜5等星ぐらいに見えるので、目のいい人は肉眼でも可能ですが、双眼鏡だとかなりよく見えると思います」。

海外からも 観測希望相次ぐ 
初めは福岡上空だけで光らせようと考えていたが、研究室のホームページに計画を載せたところ、アメリカのシリコンバレーやニューヨーク、イギリスのシェフィールドなどから「こちらでも観測したいから光らせてほしい」というメールが飛び込んできた。  「そんなに大きな電池ではないので、一度光らせると充電に時間がかかります。何しろ衛星の側面に取り付けた太陽電池の出力は2Wほど。これで電池を充電しながら、写真伝送や地上との通信にも使うので、そのコントロールが大変ですね」。  なお、「にわか衛星」の宇宙放出は現在のところ、9月10日ごろだが、ISSのミッションの進行具合で変更もありうる。

にわか衛星の情報はこちら「福岡工業大学人工衛星プロジェクト