〜自民党頼りの第2次野田改造内閣〜 – 野田政権、瀕死の内閣改造 [2012年7月18日16:23更新]

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野田内閣は4日、2度目の内閣改造に踏み切った。
首相の権力の源泉は、全衆院議員のクビを切ることができる解散権と、まったく自らの裁量で閣僚を任命、罷免できる人事権だ。それだけに人事権を行使する内閣改造は、歴代内閣の渾身の切り札だ。
もちろん、今回の内閣改造は野田佳彦首相が「政治生命をかける」とする消費増税法案の今国会成立を担保することが目的だ。しかし、政策実現のための攻めの姿勢は全く感じられない。法案成立にたどりつくためにはいまや不可欠となった自民党の顔色だけをうかがう、守りの姿勢だ。後ろ向きの体制

民主党の小沢一郎元代表は消費増税法案への反対を固めている。民主党の衆院議員はすでに300人を切り、50人超が造反すれば法案は否決される。小沢グループは衆院だけで約90人おり、自民党の賛成がなければ法案の成立は不可能だ。いまや首相の頼りは谷垣禎一自民党総裁だ。
今回の改造で副大臣からの昇格がめだったのも、ミスをしてまた参院で問責決議を可決されないようにという配慮につきる。滝実法相は、副法相経験者ということに加え、消防庁長官まで務めた総務省出身の官僚という手堅さが評価されたわけだが、それにしてもすでに引退を正式表明済み。首相から打診を受けた際にも「引退する自分でいいんですか」と聞き返したという逸話まで生まれた。
つまり、閣僚という人材を生かして何かを達成する、という体制には全くなっていない。首相と自民党の握手を妨げないようにという配慮ばかりが目立つ全く後ろ向きの体制だ。 消費増税を優先  内閣改造で求心力を回復した例はもちろん数多いが、一方で苦しくなって追い詰められて改造に踏み切ると、その後の寿命はいよいよ短くなる、という例にも事欠かない。最近の例では07年参院選で惨敗した安倍晋三内閣が、内閣改造で延命を図ったが旬日を経ずして退陣に追い込まれた。苦しくなってあがくとよけい追い込まれる。なんのために、という積極的な目的がない改造は、結果から見るとほとんどがマイナスに働く。
野田首相は駅前演説で鍛えた腕前で話はうまい。言葉もよく考えられている。民主党のていたらくにもかかわらず、支持率が自民党政権の末期のように10%台まで落ちないのは、野田首相が「消費増税に命をかける」「決意は揺るがない」と印象に残る言葉を連発して、アピールをしているためだ。だが、それは首相の苦しさの裏返しでもある。消費増税はもちろん不人気政策だが、かといってここで断念すれば、「なにもできない、決められない政治」という不満が爆発し、首相の座から引きずり下ろされるのは確実だ。進むも地獄、引くも地獄だ。

いま永田町でささやかれているのは「野田は海部になるか、小泉になるか」というたとえ話だ。海部俊樹元首相は、政治生命をかけた政治改革法案の挫折を受け「重大な決意」を口にして衆院解散に踏み切ろうとしたが、首相官邸に乗り込んできた小沢氏に阻止され、総辞職に追い込まれた。一方、小泉純一郎元首相は、党内の造反があり参院で郵政民営化法案が否決されたが、赤いカーテンを背に「国民に聞いてみたい」と見得を切って解散に踏み切り、後はご存じの通りの長期政権を築いた。

どっちに転ぶか野田内閣

どちらも政治生命をかけた重要法案と解散が絡んでいることで、野田首相の境遇とそっくりだ。海部元首相のように、途中で膝をつくか、小泉元首相のように決意を貫き通せるか。それはまだまだわからない。

だが、不吉な話もある。小泉元首相の郵政民営化にかける思いは半端ではない。郵政相に就任した際にも信念を曲げず、そのため次官以下官僚がまったく大臣室にこなかったほどだ。一方、野田首相が消費税増税に熱意を燃やすようになったのは政権交代後、財務副大臣になってから。いかにも財務省仕込みで、長年、役人と対立し党内から総スカンをくいながら信念を曲げなかった小泉元首相とは鍛えられ方が違う。

意志が弱く、判断がぶれることで定評があった海部元首相と比較するのはまだ早いが、イザという時の試練に野田首相が耐えられるかとなると、まだだれも確証をもって言えない。

首相というのは孤独な仕事だ。ある首相経験者は「なにもかも自分一人で決め、すべての責任がかかる。その重圧はなってみないとわからない」と語る。自民党末期の首相も、菅直人前首相も、鳩山由紀夫元首相も結局はこの重圧に押しつぶされた。

野田首相は不評ではあるが、今のところこの「重圧試験」には落第していないように見える。

この最後の土壇場を切り抜ければ、第二の小泉として歴史に名を残すことは確実だ。一方でくじければ民主党政権のダメさ加減を再び証明し、第二の海部として軽蔑の対象になるだろう。

政治家にとってもっとも恐ろしいのは軽蔑である。