観光都市福岡を目指せ! [2012年7月18日16:31更新]

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県外へのPRを含め課題山積か?

福岡市中心部を2つの異色のバスが走っている。昨年3月に就航した「福博みなとであい船」こと那珂川水上バスと、今春スタートした「フクオカオープントップバス」こと2階建てバス。福岡県、福岡市の肝いりで始まった2事業はまずまずの出足を見せたが、先行した水上バスには伸び悩みの気配もうかがえる。新しい観光の足の先行きは平坦路ばかりではなさそうだ。

好スタート

「2階から見える、いつもと違う景色が楽しみ」。5月7日、福岡市役所前のバス停で声を弾ませたのは、2階建てバスの1万人目の利用者となった女性。今年3月24日の運行開始から45日目の大台は、想定より1週間早い達成だった。

45日間の実績は、1日平均の乗客約240人で、平均乗車率は67%。乗客の7割は県民が占めた。

バスは青、赤を基調とした2台(定員各36人)。その導入費の7割、約1億5000万円を福岡市が負担し、西日本鉄道が運行する。大濠公園や福岡タワーを回る「シーサイドももち・福岡城跡コース」や櫛田神社、赤煉瓦文化館など名所を巡る「ベイサイド・博多街なか」など3コースがあり、1時間〜1時間半かけて市中心部を周遊する。料金は1500円(4歳以上小学生以下は750円)。福岡市役所を発着点に、1日計10便が走る。

「福岡のまちづくりで観光の視点が少なかった。惜しまずに投資したい」と高島宗一郎・福岡市長が2階建てバス運行を打ち上げたのは昨年2月の記者会見。その際、高島市長は「導入には3つの意味がある」と挙げた。JR博多シティの開業に伴う天神─博多間の回遊性向上▽ロンドンの2階建てバスに象徴されるような観光地としてのイメージづくり▽観光都市という視点の、市民へのアピール─の3点だ。今年3月の出発式で高島市長は「楽しみながら移動することで市民も福岡の魅力を再認識してほしい」とも。実際の足という機能以上に、福岡の観光性を内外にアピールする象徴という意味をもたせたい。一連の市長発言には、そんな意欲がにじむ。

試乗してみると

実際に乗ってみると、開放感は想像以上。歩行者用信号機とほぼ同じ高さの目線(地上約3・2メートル)で見る街並みは新鮮で、窓外では街路樹の葉がさわさわと鳴り、思わず手を伸ばしそうになる。  天神を抜けると、都市高速に乗る。普段は市街の広がりがちらちらと見えながらも防音壁が視界をさえぎるが、2階建てバスなら一望できる。西公園やヤフードーム、福岡タワーと次々に現れる広々とした景観はなかなかの迫力だ。

ただ、初夏とあって信号停車の際などは日射がやや厳しい。年配の女性グループなどからは「帽子が要るわね」の声も。カサは危険なので禁止され、雨の日はカッパが配布される。

想像通り、夏の暑熱や梅雨時、冬の寒さなどが客足のマイナス要因だ。もう一つ、県内客が7割を占める点も、裏返せば県外への周知不足の露呈ともいえる。1カ月半で1万人を達成したものの、西鉄や福岡市経済振興局は、「県外へのPRをどう展開するか。それを加味して、まずは夏場に客足を維持するのが課題」。年間利用数は5万人と、やや控えめな数字を掲げている。

水上バス発進  流域に福岡の台所・柳橋連合市場や、大型商業施設キャナルシティ博多などの名所を擁し、九州最大の歓楽街・中洲を抱え、福岡市中心部を貫流する那珂川。両岸に並ぶネオンや屋台の灯りが映し出す水面の光景は商業都市・博多を象徴する光景だ。このプレミアつきの水運を観光に生かそうと、那珂川水上バスは昨年3月に就航した。

当初は2事業者による運航だったが、昨年11月以降はキャナルシティ近くの中洲・天神中央公園を発着点に、3事業者が中洲─ベイサイドプレイスルート(片道20分)、能古島ルート(同30分)や那珂川・博多湾周遊(同50分)など5ルートを運航。定期航路は中洲─ベイサイド間の1日6往復便だが、予約制の周遊ルートや夜景観光などの不定期便も1日3〜6便が運航する。開放感が売りの「ベイサイドサファイア号」(定員40人)は大人500円。能古島ルートなどを走る「花天神号」(同12人)は宇宙船を思わせる外観の屋根つき船で同1300円。

こちらも、実際に乗船した観光客の反応は上々。両親に連れられ、北九州市から来た小学4年生の男の子は「でっかい橋の下を通る時はドキドキした」「福岡タワーとか、ドームとかが海から見えてかっこよかった」と満足そう。親の方も「ビル街を川から見るのも新鮮でした。博多湾に出るとスピードが上がるんですが、一気に眺望が開けるのも気持ちよかった」。屋根なしの船で夜景を堪能した20代のカップルは「思ったよりロマンチック。デートコースにいいんでじゃないですか」「雑踏の中を歩くのより、夜景がキレイに見えました。結構あっという間に時間が過ぎました」といい雰囲気だった。

伸び悩みの気配

とはいうものの、福岡市経済振興局が調査した数字は厳しい現実も映し出している。4〜11月の8カ月間の利用客数は、当初見込みの約4割程度にあたる1万9400人。1便あたりの乗客数は3〜5月が最大8・1人だったのが、11月には5・ 8人に減少した。

水上交通とあって、天候はやはり弱点。満潮時は明治通りや国体道路など幹線道路が通る大小8つの橋の下をくぐるのが難しいため航行中止となることもあり、不安定な運航状況も不利に働く。今春には芸妓が乗り込んだクルーズ体験、サクラ1000本を飾りつけた「花見遊覧船」などのイベント企画も実施しててこ入れに必死だが、やはり観光資源としての認知度が最大の課題のようだ。

「キャナルからベイサイド、さらにマリノアの方まで延ばして行けるような事業につながればなと個人的には希望を持っています」と高島市長は話す。福岡県、福岡市はコースや運航状況、乗客アンケートなどの検討を通じて新たな魅力向上策を探る方針だが、明確な打開策はなお出されていない。

横たわる課題

実はこの2つの異色のバス、ともに地元企業の意向が色濃く反映した事業であることは否めない。2階建てバスはバス事業の利用増を図りたい西鉄に、福岡市が1億5000万円の助成をする形で実現した。水上バスも、複合商業施設「ベイサイドプレイス博多」をリニューアルし、再開させた九電工が数年前から県、市に要望し、産学官でつくった「那珂川水上交通連絡協議会」で検討を続けてきたもの。県などは下流域の水深を確保する浚渫工事や護岸修景工事も実施している。

ただ、企業の思惑がらみとはいえ、水辺を含めた豊富な観光資源を擁する福岡に、新しい視点を持つツールではあると評価できよう。投入された貴重な投資をムダにせず、事業として独り立ちできるまで育てるためには、ソフト対策を中心とした認知度の向上が不可欠だ。「ロンドンバスのように、福岡に行ってみたいなと思わせる力がこういったバスにはあるのではないか」 (高島市長)。その意気込みを具体化する取り組みは、これからが正念場を迎えるといえそうだ。