高島市長の「思いつき」市政! 市議会は知らされず、職員は振り回される [2012年8月1日17:05更新]

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福岡市の高島宗一郎市長は中国から年間800人規模の公務員研修受け入れを表明し、今月6日、訪問先の北京で研修受け入れに関する覚書を中国国家外国専家局と交わした。覚書の契約有効期間は5年間。国内の地方自治体が同局と覚書を交わすのは初めてといい、来年度から、ごみ処理や海水淡水化技術など市の保有する技術やノウハウを学んでもらう研修生の受け入れを始める方針だ。だが一方、唐突な受け入れ表明は狙いや目的が分かりにくく、不安を感じる市民やネットユーザーなどから批判、抗議が相次いでいる。

国家外国専家局は主に人材育成を担当する政府機関で、中国国務院・人力資源和社会保障部の下部機関。日本で言えば省庁の「庁」にあたる。「専家」とは専門家の意味で、政府・大学・企業などへの海外専門家の紹介・招聘のほか、公務員や研究者の海外派遣事業などを行ってきた。わが国の「外国人技能実習制度」の中国側窓口もこの機関が務めている。

覚書によると、福岡市への海外研修は国家機関である同局が許可し、研修を希望する各地の地方政府(省、市など)が個別に福岡市と委託契約を交わす、という形で行われる。同様の事例はドイツ・ケルン市、韓国・ソウル市があるだけで、国内の地方自治体として同局と覚書を交わしたのは初めてだと福岡市はアピールするが、受け入れ規模は別として、研修自体は既に国内各地で実施されている海外人材交流と同様だという。

経済効果は5億円?

福岡市によると研修は1人3週間程度、30〜40人を1グループとして行われる。内容はごみ処理技術などのほか節水技術や都市景観整備、環境保護、高齢化社会への対応など市政全般について、施設見学や意見交流、情報交換を行う。また北九州市や熊本市など連携する他市への派遣研修なども検討していくという。具体的には市外郭団体の福岡アジア都市研究所が8月から中国側と内容を詰めていく方針だ。

経費としては1日6000円の研修費をはじめ宿泊費、食費など3週間で1人あたり計60万円が中国側から福岡市側へ支払われると試算されている。年間800人を受け入れれば、支給総額は4億8000万円。福岡市はほぼ全額が市内で消費され、プラスアルファを含めた経済効果は年間5億円に上るとソロバンをはじく。

マスコミ受けを 狙う高島市長

では市の狙いは何か。まずは3日、記者会見で受け入れを表明した高島市長の会見での発言を引用してみよう。

「福岡の高度な環境技術を中国の公務員に研修してもらう。中国は人口が爆発して都市問題が深刻になっていくと思いますが、福岡の持続可能な最高な環境技術をぜひ中国にも生かして頂きたい。地球は1つですから。そういった思いと、福岡が今持っているさまざまな技術をビジネス化して外に出して行きたいという思いがあります」。

「福岡に人がたくさん来ると言うことは、宿泊があって飲食がある。来て頂くことで福岡の経済が活性化される。それは実際に今回は5億円弱が福岡に落ちるわけで、本格的に福岡市が拠点になることによって市にお金が落ちる仕組みを作るというイメージです」。

「まさに稼ぐ都市を具体化するということ。技術をビジネス化して稼ぐ都市としてお金に替えていくことは次への投資にもつながり、財源確保にもつながる。中国にとっても今急成長を遂げていますから、社会インフラ、特に水なんていうのはこれから中国で大問題になると思うんですよね。こういった持続可能なインフラ整備を伝えることによって中国も持続可能な形になる。また水質、空気などいろんな部分で環境は国境を超えますから、中国の環境が良くなるということは一番影響を受けるのは福岡であるわけで、これはお互いにとってウィンウィンの関係ができる。この機をとらえてしっかり福岡のモデルを世界に発信していければと思います」。 「都市問題をどう解決してきているかをお見せして向こうの参考にしていただく。お勉強ですね」。  市長の理屈は、概ね次のようになるだろう。

水質、大気保全などの環境技術や都市管理のノウハウを中国で生かしてもらえば、たとえば毎年、有害物質の飛来で迷惑を被っている福岡市にも巡り巡って恩恵があり、「アジアのリーダー都市」としての地位を内外に示すことができる。中国側が出す滞在費用はそのまま福岡市に落とされ、 「稼ぐ都市」が実現できる—─

中国海外研修の実態は?

よく言えば前向きで楽天的だが、「地球はひとつ」などの脳天気さは別としても、冷静に考えれば実に浅薄で論理飛躍も著しい。高島市長は「すべて公開する」と威勢がいいが、実態は「ハード整備等は別。たとえば海水淡水化施設を見学してもらうことはあるだろうが、濾過装置など特許に関わる部分は見せられない」(市国際課)。つまり到底、技術移転などと言えるレベルではないのだ。では3週間の研修で何が学べるのか。その研修で中国の都市、環境政策の何が変わるのか。

実際、日本向けに中国情報を配信する通信社レコード・チャイナ(東京)の以下の報道も、こうした疑問を裏付けている。「中国では昨今、公務員の『海外研修』が盛んだが、その実態は『研修名目の旅行』というのは公然の秘密。果たして、実のある研修になるのだろうか」「(海外研修に行く)本人たちは単なる福利厚生の一部としか思っていない…巨額の血税を費やしても、研修成果はまずみられない」。

情報提供を 中国は拒否

こうした疑問、不安を報道に接した市民らも敏感に感じたようだ。市によると、研修受け入れに関する意見は3日の市長会見後、わずか3日間程度でメール、電話など200件超に上った。会見内容を報告した市長のツイッターも批判でたちまち「炎上」。「技術が流出しないか心配」「税金使って売国奴か」「ばか」など批判・反対する意見が大半だった。  中国大使館書記官によるスパイ疑惑が浮上したばかりとあって、インターネットでも反響を呼んだ。スパイ行為、反日工作を警戒する趣旨の意見が大半を占めたようだが、中には「飲酒運転でも伝授するの?」「中華人民共和国・福岡自治区の誕生ですね」「1カ月60〜70人の買い物で経済効果って、福岡はそんなに小さい街だっけ」など冷笑じみた反応もあった。

もちろん地方都市での活動だから国家機密などとは無縁だが、「相手を絞ってプロが接近する欧米流スパイと違い、官民が広範囲で網をかけるのが中国式。友好も装って長期的に情報網を構築する」のが中国流諜報術。中国への輸出が禁止されている部品・技術が毎年相当数、シンガポールや香港企業を介在させて違法に海を渡る実態を見ても、「アジアのリーダー都市」を標榜する以上は慎重になって然るべきだろう。  現に研修生の人選は完全に中国側に委ねられる一方、ケルン、ソウルにどのような派遣実績があり、どんな研修内容だったかなどについて中国側は情報公開していないのだ。

ある市幹部は「完全に市長のパフォーマンス先行。わきの甘さをまた露呈してしまった」とため息をつく。担当部署は当初、各地方政府との契約次第なので目標など出せないと渋っていたのを、高島市長が「インパクトがない。それでは『稼ぐ都市』を打ち上げられない」と無理やり数値目標をひねり出させたのだという。

独り歩きの高島市長

結局、「1カ月禁酒令」に見られるような、いつもの高島流「思いつきアピール」なのだろう。記者会見で話題が移り、「職員に禁酒要請を振り返ってのアンケートをするなどということは考えてないか」と問われた市長の回答が、この市長の資質をよく物語っている。市長はこう答えた。「そういうことはもう頭にもなくて、中国のことを考えていましたから」。