イトマン事件 [2013年2月19日16:53更新]

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平成3年正月、中堅商社イトマンから3000億円以上の巨額資金が、闇社会に流れたスキャンダルが発覚した。この事件の中心人物で、実刑を受け服役していた許永中(韓国籍)受刑者が、昨年11月頃国際条約により韓国の刑務所に移送されたことがマスコミに報じられていた。同受刑者は独特の風貌の持ち主で、福岡に知人がいて、福岡経由で海外逃亡した過去もあり、当時取材で走り回った記憶がある。  ところで、昭和30年代の福岡には九州派という芸術家集団があり、メンバーの1人にオチ・オサム氏がいた。球と線を題材にした抽象画家で、作品は売れず時折開く個展では、何度か絵を押し付けられ買ったことがある。絵もさることながら、言動がユニークな憎めない性分で、家も近くよく一緒に酒を飲んだものだ。

このオチ・オサム氏のユニークな絵が画商の目に留まり、年間何枚かの絵を描くことを条件に、1000万円内外で契約したという話を本人から聞いた。画商が付くということは画家だけでなく収集家にとっても素晴らしいことで、買わされた絵が値上がりするかも知れないと喜んだものだ。だがその後も、オチ・オサム氏からはノルマがきついとのぼやきだけで、絵の値段が上がった話は聞かない。

イトマン事件の渦中に、某記者が情報を聞きに尋ねてきた際、美術品の売買を装って巨額の資金が動いたという話を今でも鮮明に記憶している。社会部の記者が絵画に造詣が深いとは思わないし、取引された作品が本物かどうかも定かではない。だが売買された絵画の作者リストを眺めていたら驚愕した。世界的な画家や日本でも名だたる巨匠たちに混じって、何とオチ・オサム氏の名前があったからだ。

高くても号当り1万円前後の画家の絵が、いかほどの金額で売買されたのか知る由も無いが、数百万円、あるいは数千万円の単位で、対象になっていたのは間違い無いだろう。茶道具も家元が箱書きすれば、宗匠好みとのお墨付きが与えられ、道具屋が勝手に値段を付け売買されている話も聞く。

もとより、絵画などの美術品は値段があって無いようなもので、巨匠たちの中に混じればそれなりの絵に見えてくるのか、高い値段を付けられても高額と感じなくなるようで、許永中受刑者は実に人の心の機微をつかんでいると、感心させられたものだった。

画家本人の知らないところで絵の価格が高騰したものの、オチ・オサム氏のその後の個展で、作品が高くなったという話はまったく耳に出来ず、我が所蔵品は今でも倉庫に眠ったままだ。