<写真特集>続・知られざる屋久島 ある山師の記録(3) [2010年2月24日09:06更新]

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年輪のような皺が刻まれた浅黒い顔に白い歯を見せて、かつて高田さんが言ったことがある。

「屋久杉は素晴らしい木です。江戸時代に伐採されて残った切り株が400年間、雨風にさらされても、腐らずにそのまま立っている。こんな木は他にないでしょう」 

一見豊かに見える屋久島の森だが、実は土壌の部分は驚くほど薄く、植物たちは岩にしがみつくようにして立っている。

夏は台風、冬は吹雪に襲われる。そんな過酷な場所で生きるため、普通の杉と違って成長が著しく遅い。年輪を細かく刻み、幹の中に樹脂を大量に蓄える。



「だから、なかなか刃が入らんのです」。チェーンソーを倒木にあてがいながら、髙田さんが笑った。  

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屋久島の原生林を歩くと、背が高くて太い、不思議な切り株がいたるところに点在する。

こうした切り株や台風によって倒れた巨木、『土埋木(どまいぼく)』を伐って運び出すのが髙田さんたち山師の、現在の仕事である。 

屋久杉の多くは傾斜地に立っており根元が曲がっている。そのため本格的に伐採されるようになった江戸時代、人々は杉のまっすぐな部分だけを求め足場を組み、地上3~4mから上を伐り出した。土埋木とはこうして残された切り株や捨てられた屋久杉のことで、だから実際には、地中に埋まっているわけではない。 

 

伐採がピークを迎えたのは高度成長期である。高級建築材として大きな注目を浴び、樹齢1000年をゆうに超える巨木たちが、次々に切り倒されていった。 

髙田さんは17歳の時に山の仕事に就いた。伐採を受け持つ山師が切り倒した屋久杉を、トロッコが走る森林軌道まで運び出す「キヨセ(木寄せ)」という役割だった。以来、60年間に渡り屋久杉を切り出す仕事に関わってきた。 

自然保護の意識の高まりとともに屋久杉の伐採が中止された1970年以降、山師たちは山を下りて里での仕事に就くか、島から去るしかなかった。

「屋久島の経済、文化を支えてきたのは屋久杉です。それを絶やさないためには土埋木を活かすしか方法がない。何とかできないかと思って、この仕事を始めたんです」 

ちなみに素性の良いまっすぐな杉は、すでにそのほとんどが伐られてしまったという。

有名な縄文杉をはじめ今も残る巨木たちは実は、ゴツゴツと曲がっていたり中が空洞であるために「使い物にならない」として放置されたものなのだ。 

(続く)