河川漁協への協力金 ④ ■ 今後を見据えた対応を

団体は県に対し、漁協から工事毎に 協力金を要求されている現状を報告、対策を訴えた。

県も重く受け止め、昨年12月末、県内全漁協宛に 、三重県の漁協組合長の逮捕を引き合いに 公共工事にかかる不当要求行為の防止と法令遵守の行動を求める文書を送付した。
その文面に、「工事着手前に過度な協力金の支払いなど公共工事に係る法的根拠の存在しない要求を受注業者に強要するなどの不当要求行為、並びに不当要求との誤解を生じるような行為に関与されることのないよう、適正な組合運営をお願いします。」とある。

なんとも もどかしい内容だが、協力金の性質上 致し方ないだろう。
そもそも協力金には法的な根拠は無いが、一切禁止にすると漁協の運営に支障が出るのが分かっている。
また、県が漁業権を認めている以上、公共工事の影響で本当に魚の生育に影響が出るのであれば、それは発注者の責任で 対応しなければならない。
現在も自治体から漁協に補助金が支出されているが、更なる予算措置が必要となるだろう。

県の要請には我関せず、同漁協では 現在も 団体加盟の業者への協力金の要請は続いている様だ。

漁協の組合長が逮捕・起訴された三重県では、地元漁協に長年続けてきた 河川工事における業者単独での現場説明と協力金の支払いは廃止することにしたという。

他の漁協の幹部が心配していたのは、同漁協による協力金が問題化することで、三重県のように 他の漁協にまで影響が及ぶことである。
協力金を拒否する業者が増えれば、漁協が担う 水産生物の増殖や河川の保全事業に支障が出る。

繰り返すが、同漁協の組合員の殆どが地域の担い手で良識ある人たちだが、理事が何をしているかはよく分かっていない状況である。
同漁協の理事は、ルール変更が 想定以上の地雷源となっていることに気づいていない様だ。
まずは、団体と取り決めた従来のルールに戻すことが最善策と思われるが、6月末に開催予定の漁協定期総会までに 今後を見据えた対応が求められている。



ー 了 ー

河川漁協への協力金 ③ ■ 変わった漁協内の空気

突然のルール変更には、年間数十億円とも言われる災害復旧工事が集中していたことが背景にある。
漁協にとってみれば、団体からは年間200万円しか徴収できないが、個別だと合計で その10倍以上は得られる。

だが会計上、協力金は 漁協の事業にしか使うことができないことになっている。
過去に 某漁協が協力金を分配し、組合員の出資金に加算していたことが問題になったことがあり、以後 都道府県が指導しているという。

同漁協の組合員数は約300名、生業としていない者でも 年間一定の日数、漁を行う者(釣りを含む)であれば 各地区の組合員の同意を得た後、10万円を出資することで組合に加入できる。

前述のように殆どの組合員が地域の担い手、 ボランティアで活動に参加し、慣例に従って運営してきたが、ある時期に Aという人物が理事になってから、漁協内の空気が変わったという。
Aは逮捕歴のある人物、現在も公共工事のまとめ役のような仕事で小銭を稼いでいるとの噂もある。
今回の複数の組合員を取材したが、その全員が「今の理事が 何しようか わからん」と話し、協力金で土木業者とトラブルになっている事実を伝えると、「やり過ぎたらいかんもん」とのコメントが返ってきた。

漁協側の一方的なルール変更に悲鳴を上げたのが 団体に加入している業者だ。
昨年10月、団体の代表者が県庁に出向き、現状報告と対策を訴えた。



ー 続 く ー

河川漁協への協力金 ② ■ 突然変わったルール

協力金で問題になっているのが 有明海の注ぐ1級河川の漁協だ。

協力金の歴史は意外と浅く、半世紀もない。
それまでは河川工事を受注した業者が、一升瓶1本を持って漁協事務所に出向いて挨拶する程度だったが、40年程前、ある大型の河川工事で組合員1人当りに30万円の補償金が支払われたことを切っ掛けに、組合員が増え 工事毎に落札額に応じて協力を求めるのが慣例となったという。
平成12年に竣工した橋梁新設工事では、中堅ゼネコンが漁協に800万円を協力金として支払っており、地元業者にとってみると悪しき前例となったようだ。

繰り返すが、協力金により水生生物の増殖や河川の保全が地域の担い手によってなされているという側面があり、「協力金=悪」ではない。
ただ、業者の話によると、過去には協力金の支払いを拒否すると、工事現場の近くに舟を近づけるなどの嫌がらせがあったようで、スムーズに工事を行うために協力金を支払うようになった経緯もあるとのこと。

頭を痛めた業者らは、個別に対応するのではなく、土木業者が加盟している団体が一括して年間120万円を協力金として支払うことで 漁協と合意し、団体に加盟していない業者に対しては、漁協が 個別に落札額の 0.5%の協力金をお願いすることで落ち着いた。
6年ほど前に協力金は 200万円に増額され、一昨年までは問題なく履行されていた。


しかし、令和元年夏、支流の災害復旧工事で河川水の濁りや土砂の流出により、漁業権の行使に支障が出ているということで、漁協から団体に対し、工事差し止め等法定闘争ではなく、金銭での円満解決の申し入れがあり、双方が弁護士を立てて協議を始める。
以後漁協は、これまで団体から支払われてきた年間200万円の協力金は不要とし、工事毎に落札額の 0.4%の協力金を支払うようにルールを変更、団体に加盟している受注業者が漁協事務所に工事の挨拶に行っても、協力金の支払いを求める「覚書」を渡されるようになったという。



ー 続 く ー

河川漁協への協力金 ① ■ 漁協組合長に有罪判決

平成30年11月、三重県の桑員河川漁協の元組合長が、河川流域の開発業者に工事を認める見返りに「協力金」200万円の支払いと、指定する下請業者の参入を強要したとして逮捕・起訴された。
昨年12月には三重地裁で懲役2年、執行猶予4年の有罪判決を言い渡され、被告は即日控訴している。

報道では、同漁協への協力金は落札額の 0.5%とされ、令和元年7月までの5年間に、建設会社等から受け取っていた総額が 2億8102万円、他漁協と比べて突出していたようだ。


河川の漁協というのはあまり馴染みはないが、一般的には 漁業を生業にしている人よりも むしろ、中山間地域の担い手によって構成され、水産生物の増殖や河川の保全等の役割を担っている。
釣り人に対して「鮎解禁日のお知らせ」など告知している団体と言えばわかりやすい。
福岡県内にも 以下の8つの河川漁協がある。

  • 岩岳川漁協(豊前市)
  • 京二川漁協(行橋市)
  • 犬山漁協(八女市黒木町)
  • 八木山川漁協(宮若市)
  • 矢部川漁協(八女市)
  • 筑後川漁協(朝倉市)
  • 下筑後川漁協(久留米市)
  • 甘木漁協(朝倉市)
河川の規模と県が認めている漁業権の範囲によって、水産生物の増殖や河川の保全等に係る経費に大小あり、中には 年に一度の釣り大会に賞金を出してもらう程度、金額も業者任せという 小規模の漁協もあるようだ。
一方で、1級河川の漁協では、事業に係る経費が
自治体から漁協に支出される補助金ではとても足りず、公共工事を受注した業者から得る協力金が貴重な収入になっているという。
組合員の高齢化が進む中、協力金があるから なんとか事業が成り立っているとの話も聞いた。


ここ10年ほどは、県内で 漁協と工事業者の間にトラブルは聞かれなかったが、県南の漁協からの「協力金」の要求がきつくなっており、業者が対応に苦慮しているという情報が入ってきたので取材した。



ー 続 く ー