組織ぐるみで隠ぺい(最終回)~改めるべきところは改めて~

前述の通り、JRJの「住宅ローン融資書類の不正」では、JR九州は第三者委員会を素早く設置し、決算報告も約1ヵ月遅らせるほどのアピールぶりだった。

公表された再発防止策の中で、「JRJのコンプライアンス教育の徹底」、「プロパー社員の人事制度の見直し」、「グループ会社へのコンプライアンスへの取り組みを評価する仕組みづくり」などを掲げ、まるで他人事の様だが、JR九州幹部のコンプライアンスこそ見直すべきだろう。

JRJの不祥事は前社長に原因があったかもしれないが、そうさせてしまったJR九州の責任には触れていない。
JR九州の田中常務や澤亀執行役員がJRJの取締役を兼務しており、未然に防ぐことができなかった。
幹部はその点を分かっているから沈黙を守っているとしか考えられない。



繰り返すが、「住宅ローン融資書類の不正」問題においては第三者委員会を設置、株主に向けての説明と合わせて役員の処分を行った。
タウンハウス建築に係る不祥事はそれと比較して、もっと重大なコンプライアンス違反であることは明白なのに、検証も処分もされていない。
今後不法に建てた建築物で区分所有者に生命危険が及ぶ可能性も排除できないのに、正面から向き合おうとしないJR九州の姿勢は不誠実と言える。

まず 最初にやるべきことは、特定建設業の資格がないまま建築した 筑後市と糸島市の物件の総点検だ。
準耐火性能が欠如しているという東京の調査会社の報告があり、その情報はJRJも把握しているはずだが 何ら対策を打っていない。

一区分所有者が損害賠償を求める訴訟の準備を進めていると聞いているが、裁判で負けたら点検するというレベルの話ではない。
不法に建てた建築物ということが判明した以上、早急に点検・調査に入るのが企業としての責任の取り方だろう。



そして、次にやるべきは 不祥事発覚後のJR九州幹部の判断の検証だ。
真の第三者委員会を設置し、JR九州の内部調査でJRJの不祥事を把握した後、誰が何のため、どういう判断が行われたかその全容を解明することである。

2018年6月までに行われた内部調査では、紹介者に高額な紹介料が支払われたこと、2018年3月期に黒字化をするために書類を偽造し売上を前倒しするなど不適切な会計処理、保全措置を取らない建物を引き渡し、建設業法違反の施工が行われたこと、更には住宅ローン融資書類の不正まで明らかになっていたと思われる。

調査後すぐ、松尾社長をいったんJR九州コンサルタンツの取締役に降格異動させ、9月に解任しているが、解任理由は公表されていない。
この「異動させて解任」という小細工は誰が考えたのか。

また、同じ月に JRJの「住宅ローン融資書類の不正」が発覚したことになっている。
10月には新聞社が一斉に報じ JR九州が第三者委員会設置を公表、これが本丸から目を逸らすためという指摘もあるが、タイミングといい事件の規模といい、的を得ている気がしてならない。
本当は6月までに分かっており、9月になって発覚したようにしたのではないか。

そして、12月にはエステート・ワンの銀行預金を差し押さえしている。
エステート・ワンは松尾氏との約束で販売しながら支払っていく予定だったが、差し押さえをすれば資金繰りに窮し倒産状態に陥り 5億8000万円を回収できなくなることは容易に想像できるはずだ。
その翌年、JRJは密かに欠損処理を行っているが、誰がどういう理由で 5億8000万円をドブに捨てる判断をしたのか。

最後に、JRJが2018年3月期に不適切な会計処理をした時点では JR九州は知らなかった可能性があるが、なぜ翌年の2019年3月期の連結決算において前期の数値を引き継ぎ発表したのか。
2020年3月期で正常に戻したが、これにはJR九州の監査だけでなく 監査法人トーマツも関わっているかもしれない。



以上、JR九州による組織ぐるみの隠蔽が行われた事績が残っており、疑問が多い。

2年前、傾いたマンションの記者会見に出席していた澤亀執行役員に挨拶しようとしたことがある。
見るからに性格の良さそうな人だ。
「福岡県民新聞の…」と名刺を渡そうとした瞬間、「あっ」と何かを思い出したフリをして 走り去って行かれたので挨拶できなかった。

九州の発展はJR九州なくしては有り得ない。
だからこそ、この問題に真摯に向き合い 改めるべきところは改めて頂くことを切に願っている。

(了)

組織ぐるみで不祥事隠蔽 ③ ~前社長の詐欺容疑~

昨年8月、エステート・ワンから JRJの松尾前社長を詐欺罪で訴える告訴状が出され、12月に福岡地検が受理し取り調べが始まっている。

特定建設業の許可を有していなかったことが明らかになったJRJであるが、施主 及び建物を購入した区分所有者らを裏切る重大な事件と言えよう。
施工業者が施主に資格がないことを隠して請負契約を締結し、建物を完成させた場合、請負代金を請求する権利があるのだろうか。

JRJはエステート・ワンと請負契約を締結し、前渡金2億3888万円を受け取り着工、その後の中間金と完工金の合計 5億8000万円は未回収だが、請負代金請求訴訟(訴額 1億9000万円)で勝訴し 裁判所はエステート・ワンに支払うよう命じている。

松尾前社長を告訴したエステート・ワンの新原社長は語る。
「計画していた筑後市のタウンハウスのゼネコンがキャンセルになり、代わりにどこか請けるところがないか探してたとき、JR九州OBの松永氏から JRJの松尾社長を紹介されました。JRブランドで私たちにもメリットがあると考え契約することに。
その後、糸島市で別のタウンハウスの計画を進めていることを知った松尾社長から、そちらもやらせて欲しいとお願いされたので、決まっていたゼネコンに詫びを入れてJRJに変更しました。」

契約書を交わした際、新原社長はJRJが特定建設業の許可を持っていないとは夢にも思わなかったという。
「銀行から借り入れを起こして事業をする以上、法令を守らない企業と契約するはずがありません。分かっていたらもちろん契約していません。」

そして、JRJ松尾社長との信頼の中で、販売状況に応じて 中間金と完工金を3年以内に支払うという条件で請負契約を交わし、建物が完成した。
ところが、2018年(平成30年)6月に松尾社長が退任し、島野新社長に中間金・完工金を即時支払うように求められた。

「松尾社長との約束があることを訴えても 島野社長は聞く耳など持っていませんでした。そして12月、まだ協議の途中だったのに JRJがいきなり エステート・ワンの銀行口座を差し押えしてきました。社員給与の支払いや銀行への借入金の返済が全てストップし、40人いた社員を解雇、事務所も全て引き払い事実上の倒産となりました。」

新原社長は「差し押えがなければ事業が停止することもなく、松尾氏との約束通り残金を支払うことはできました。弊社が松尾氏にリベートを支払った話や不適切な会計を指摘していたので、5億8000万円が回収できないことを承知で弊社を潰すつもりで差し押えしてきたとしか思えません」と強調する。

現在、福岡地検は松尾前社長を詐欺罪で起訴できるか取り調べ中だが、ここまでの流れを整理すると、
・2019年(令和元年)9月、JRJはエステート・ワンに請負代金請求訴訟で勝訴
・2021年(令和3年)12月、JRJが資格なしで請け負っていたことが明らかになり 営業停止処分
・JRJは松尾前社長に5億8000万円の焦げ付きの責任があるとして損害賠償を求め提訴、裁判の中で 松尾氏は単独の判断ではなく社内で共有されていた、JR九州の田中常務にも報告していたと主張
・同裁判が 1月末に調停手続きで合意が成立、JRJが松尾氏の主張を一部認めた可能性あり(非公開)

この関係からすると、会社ぐるみで法令違反を認識しながらエステート・ワンと契約していたと考えられる。
しかも、特定建設業の資格がないことを 隠して請負契約を締結しており悪質だ。
新原社長はJRJに対し、一度敗訴している請負代金請求訴訟の再審を求めていく考えだ。


区分所有者が訴訟準備

特定建設業の資格なしで建築した同タウンハウスについて 気になる情報がある。
現在、区分所有者の1人が損害賠償を求める裁判を準備しているというのだ。

その区分所有者Aさんは建設業を生業としている方である。
入居後 職業柄様々な施工ミスが目についたそうで、管理組合を通じてJRJに問い合わせても 誠意ある回答がなかったため、欠陥住宅調査で著名な東京の会社に詳細な調査を依頼している。

読者の皆さんは、福岡市東区の傾いたマンションをご記憶だろうか。
1994年(平成6年)に建てられ当初から不具合を指摘されながら、販売したJR九州3社が施工不良を認めなかったが、2020年(令和2年)4月の調査で複数の基礎杭が支持層に達していないことが判明したことで一転して認め、26年目にして建て替えが決まった。



その決定的な調査を行ったのが 今回区分所有者のお宅を調査した東京の会社である。

2021年(令和3年)10月の調査で、壁や天井の裏側に防火被覆材の施工が不足し準耐火性能が欠如している箇所が多数見つかった。
準耐火性能住宅として販売されていたが、火災の際は隣に延焼する恐れがあるということだ。
その他にも複数の瑕疵が認められる箇所があり、Aさんは知ってしまった以上売るに売れないという。


これらが事実であれば施工会社として本来の設計通りに回復する必要が出てくるが、Aさんが回復費用をある業者に見積ってもらったところ約1000万円かかると言われたらしい。
仮にタウンハウス全戸に同じ瑕疵が認められたら 億単位の金額が必要になってくる。

特定建設業の資格なしで建築した建物だから施工不良があっても不思議ではなく、放置している感覚がおかしい。
施工した建物が法令の基準を満たしているか 今すぐ総点検を行う必要があるだろう。
ここで火災が発生しないことを祈るばかりだ。

ー 続 く ー

組織ぐるみで不祥事隠蔽 ② ~偶然?別の不祥事で第三者委員会~

JRJは社内の不祥事で混乱していたが、世間は同社で起きた別の事件を注目することになる。
10月11日、JRJの社員が「住宅ローン融資書類の改ざん」を行っていたことが内部調査で発覚したことを新聞が一斉に報じた。
JR九州は新聞報道と同時に第三者委員会を設置することを発表、素早いコンプライアンス違反対応をアピールし、2019年3月期第2四半期の決算発表を1ヵ月遅らせるということまで行った。

融資書類の改ざんが発覚したのが松尾前社長解任と同じ2018年(平成30年)9月、あまりにもタイミングが良過ぎるので、一連の不祥事が表に出るのを隠すため別の騒ぎを起こしたのではないかと見る関係者もいる。

その後、第三者委員会の調査が行われ、融資書類改ざんに関わった関係者全てのヒアリングが行われたのだが、前社長の松尾氏については退職しているという理由でその対象から外されており、そのことも疑問視されている。

12月18日に公表された決算資料(下図)において、第三者委員会の調査による不正行為の詳細と経営への影響、及び再発防止策を説明している。
また、JR九州の田中隆治取締役専務執行役員(JRJ取締役を兼務)の月額報酬を1ヵ月10%、JRJの取締役1人について同じく3ヵ月10%減額する処分を発表した。

JR九州としては、コンプライアンス違反には厳正に対処する姿勢を見せたと思われるが、不思議なのは 内部調査でJRJで起こった もっと大きな不祥事を把握していながら、その後一切公表もせず 処分も行っていないことだ。
こうした点からすると、融資書類改ざんの問題を 世間の目を逸らすために敢えて表に出したのではないかと疑わざるを得ない。

内部調査では、前社長主導で内規に従わない手続きが繰り返され、5億8000万円が未収になっていること、2018年3月期の決算で不適切な会計処理を行っていたことが判っていたはずである。



 

不適切な会計処理を公表せず

JRJの住宅ローン不正融資問題で第三者委員会を設置したJR九州が、なぜ 内部調査で把握しているもう一つの不祥事について公表していないのか。
それは、一連の不祥事の中に 2018年3月期決算の不適切な会計処理が含まれていたからだと見られている。
上場しているJR九州はグループの連結決算だが、その数値を修正するとなるとかなり面倒だ。

不適切な会計処理(私文書偽造による粉飾と呼ぶ関係者もいる)は次のように行われた。
JRJが施工した最後のタウンハウスが完成し、エステート・ワンに鍵が引き渡されたのは2018年(平成30年)5月31日だった。
それを、2018年3月期に 同建物の売上額 3億7200万円を計上し最終利益を黒字にするために、3月31日の日付で工事を終えたと虚偽の書類を作成し、決算書類を作った。
その決定的な証拠が下の書類(鍵受領書(仮)・工事経歴書)だ。





JR九州は6月27日付で松尾純一社長を退任させ、新社長として島野英明氏が就任している。
コンプライアンス違反の全容の内部調査は終わっており、この時点で不適切な会計処理による決算を把握していたと考えられるが、JRJは修正を行わず決算公告を行った。

JR九州の2018年3月期決算の連結売上は4133億円、そのうちJRJの不適切な処理をした金額は 3億7200万円、全体の売上からすると 0.1%程度と小さい。
同決算の発表日は 5月10日、その時点ではこのことに気づいていなかったか、内部調査の途中だった可能性があるので、2018年3月期を修正しろとまでは言わない。
だが 翌期の2019年3月期決算で修正するべきだ。

同年8月、JRJの会計処理に気づいたエステート・ワンの新原社長がJRJに「粉飾ではないか」と抗議をしている。
その際、「監査法人トーマツがJRJの監査を行っている」と回答があったのみ、その後再度抗議をしたところ、同年12月17日に島野社長から「粉飾ではなく不適切な会計処理だったので訂正した」との説明があったという。

ところが、実際は訂正されることなく、JR九州及びJRJは前期決算の数字を引き継ぎ、2019年3月期の決算を発表した。
つまり、JR九州がこの年の5月13日に公表した2019年3月期決算には、JRJの不適切な会計処理が含まれており、JR九州及びトーマツがそれに触れずに処理をしたことが考えられる。

わずか3億7200万円だが 無視したところを見ると、他にも同様の対応をしていることが想像され、JR九州が公表している数字が本当に正しいのか怪しくなってくる。
また、JRJが行ったように、他のグループでも黒字を装うために決算期に数字を動かしている疑いも出てくる。
もっと言えば、トーマツの名前を出した以上、監査法人としての信用問題に関わってくるのだ。

株主はどう考えるだろう。



 

建設業法違反で営業停止処分

2018年3月期に不適切な会計処理をしたJRJは2019年3月期もその数値を引き継ぎいだが、2020年3月期決算で過去2期分の決算を修正した。
税務調査で指摘され修正せざるを得なかったという噂もあるが、これできれいサッパリになって一件落着かに思われた。

ところが、思わぬところから 一連の不祥事が再びクローズアップされることになる。
2021年(令和3年)12月14日、福岡県はJRJに対し、受注した建築工事で建設業法違反が認められたとして 32日間の営業停止処分を科した。
営業停止32日間は決して軽い処分ではない。
JRJは処分当日、ホームページに処分の概要と再発防止に取り組む内容を掲載したが、親会社のJR九州はこの件についてコメントしていない。

さて、処分対象となった工事は、2017年(平成29年)5月に契約し翌年完成したタウンハウス、あの不祥事の舞台となった建築工事である。

まず、JRJは特定建設業の許可を有していなかったにも拘わらず、下請業者との間で総額が政令で定める額(6000万円)を超える下請負契約を締結していた。
建設業者なら基本中の基本、分かっていながら受注しており確信犯と言える。
他にも、建設業の許可を取得していない業者と政令で定める額(500万円)を超える額で下請契約、一時的に主任技術者を配置するなど 上場企業とは思えない違反のオンパレードだ。



ところで、係争中のJRJと松尾氏の裁判の中で、今回の建設業法違反の処分に関係する記述がある。
JRJは、注文者から元請として請け負った2つの建築工事において、特定建設業の許可なく下請業者との間で総額が政令で定める額(6000万円)を超える下請負契約を締結しているが、契約の前段階で社内で議論になっていた。

松尾氏の陳述によると、「2017年1 月17 日、タウンハウスの工事の依頼を受けたが 2月1日頃、発注金額(2件とも3億円以上)を考慮すると特定建設業許可を得ていないため、受けられないと回答。その後、川述祐一所長から分割して建築確認を受け受注すればよいのではないかという提案を受けたが、一体工事として(監督官庁に)認定されるのではないかと考え調査を指示した。1 週間後、川述所長から弁護士や役所で問題ないことを確認したという回答があったので受注することにした。」という。

川述所長が役所に確認したのが事実であれば、なぜ 今回建設業法違反で処分されたのだろう。
当時の監督官庁は国交省、川述所長が九州地方整備局に足を運んだのは事実の様だが、文書で質問した訳ではない。
また、法令違反を嫌う役所がこういうケースで「問題ない」と明確に答えるというのは考えられない。
恐らく 曖昧な質問をして都合のいい解釈をしたというのが 本当のところだろう。

松尾氏の陳述内容が事実であれば、川述所長の提案と確認があって契約が前に進んだということになる。
現在、川述所長はJRJの取締役に就いているが、過去を知る関係者からは裁判そのものに疑問の声が出ている様だ。



ー 続 く ー

組織ぐるみで不祥事隠蔽 ① ~検察が告訴状受理~

JR九州におかれては古宮洋二社長の下、九州の経済界を牽引する企業として 活躍してもらうことを心から願っている。

さて、JR九州グループ倫理行動憲章には、「すべてのすべてのお客さま・株主・取引先などに対し、誠実かつ公正で透明性のある事業活動を行なう」、「企業情報を積極的かつ適正に開示し、株主はもとより広く社会とのコミュニケーションにつとめます」とある。

しかし、青柳俊彦前社長の時代まではお役所体質が残っていたのか、憲章に反する判断をしてしまった様だ。
2018年(平成30年)、JR九州の子会社が 5億8000万円もの不良債権を抱えると同時に不適切な会計処理を行った。
社内の不祥事に止まらない 上場企業としての信用を揺るがす重大事案だったが、JR九州の幹部は最後まで公表することはなかった。

 

検察が告訴状受理

ところが昨年8月、当時のコンプライアンス違反に関連して子会社の前社長に詐欺罪による告訴状が出され、12月に福岡地検が受理し取り調べが始まっていることが判った。
これまで相手がJR九州だけに マスコミも及び腰だったが、受理されたことで一部の週刊誌が取材を始めた模様だ。

弊社ではこれまで、この問題について逐一報じてきたがJR九州は一切無視を続けてきた。
本稿では9回にわたり、子会社で5億8000万円が焦げ付いた経緯、2018年3月期の不適切な会計処理、法令違反、そして今後気になることなどを解説するとともに、客観的な第三者による検証の必要性について述べていく。



 

5億8千万円が回収不能に

5億8000万円が焦げ付いた子会社とは、JR九州住宅㈱(福岡市博多区吉塚本町13番109号 代表者 島野英明氏、以下JRJ)である。
民営化後の2000年(平成12年)にJR九州から分社独立し設立され、戸建て住宅の建築やリフォームを柱に業歴を重ね、福岡と鹿児島で基盤を形成した。

JRブランドで 年商20億円程度で推移するも、競合が激しく利益捻出までには至らず、現在も債務超過から脱却できずにいる。
しかし、親会社JR九州の取締役専務執行役員と執行役員の2名が非常勤取締役として経営に携わり、ブランド力で営業や下請との取り引きに大きな支障が出ていない。
それはこれからもそうだろう。

JRJは、2018年(平成30年)6月まで同社代表取締役だった松尾氏を相手取り、損害賠償(訴額 5000万円)を求める裁判を起こし 争ってきたが、今月調停手続きで合意が成立したばかりだ。
その裁判記録から5億8000万円が回収不能になった経緯を知ることができる。
訴状の内容を要約すると次の通り。




2017年(平成29年)5月、JRJは筑後市と糸島市のタウンハウスの建築業務を 施主であるエステート・ワン㈱(代表者 新原健造氏)と契約、請負額合計 7億9628万4000円(税込)で、着工金30%、中間金20%、完工金50%の割合で支払いを受けることになっていた。

エステート・ワンからJRJに着工金が支払われ 工事は始まったが、その後約束の期限までに 中間金が支払われなかった。
しかし、工事は続けられ2018年(平成30年)3月の完成間際になって、エステート・ワンから6月末に中間金と完工金を合わせて支払う旨が伝えられた。
筑後市のタウンハウスは 同年3月までに、糸島市の物件は同年5月までに完成し エステート・ワンに引き渡されたが、その際 JRJは 保全措置を取っていない。

その後、6月末になっても中間金と完工金が支払われることはなかった。
同月JRJは松尾社長を退任させ現社長が就任、エステート・ワンと支払の協議を打ち切り12月に銀行口座を差し押さえたが殆ど回収できず、翌年未払金支払いを求め同社を提訴、勝訴するも回収できず、結局 5億8000万円が焦げ付いた。

この契約は松尾社長が持ち込んだ案件で、エステートワンの与信調査を十分に行わないまま 取締役会にも付議せず社長の独断で進められた。
また、松尾社長の指示で 紹介した松永氏の会社に400万円を報償金として支払ったが、これとは別にエステート・ワンから松永氏経由で松尾社長の知人女性の口座に440万円がリベートとして振り込まれている。

松尾社長の独断による契約締結で、結果的に5億8000万円が回収できなくなり会社に損害を与えたので、損害金額のうち 5000万円をJRJに支払うよう求める。




これに対し松尾氏は、「契約締結については取締役会に報告し、取締役の総務部長や経営企画部長も 契約書と覚書についての稟議書に押印しており、工事の受注・契約を専断したとの事実はない」と反論。
また、取締役会議では、JRJ の非常勤取締役を兼務(当時)する JR九州の田中龍治取締役専務にも契約の報告は行ったとしている。

確かに、松尾氏はリベートを要求するなど 業界の悪習に染まっていたかもしれない。
そして、社内で圧倒的なワンマン経営を行っていたのも事実だろう。
しかし、松尾氏の証言が正しいならば、社長単独で進めたと断定することは難しく、法人としての責任になり、JR九州の田中常務も全く知らないでは済まないだろう。

5億8000万円の焦げ付きには JR九州も責任の一端があり、前社長を訴える裁判は 天に向かって唾を吐くようなものだ。



 

内部調査でコンプライアンス違反発覚

JRJ内では、エステート・ワンから契約書に書かれた期日までに中間金が支払われなかったことで、社員の間で工事を続けるべきか議論があったという。
しかし、社長の指示で工事は続けられ建物は完成、中間金に加え 完工金の合計5億8000万円が支払れなかったが、2018年(平成30年)5月までに 全物件を 保全措置を取らないで引き渡している。

保全措置を取らなかったことから、JRJとエステート・ワンとの間に信頼関係があった、或いは何らかの裏事情があったと解される。
実際のところは 請負契約を交わす際、JRJの松尾社長とエステート・ワンの新原社長の間で「タウンハウスの販売状況に応じて残金(中間金と完工金)を最長3年以内に支払う」ことが 口頭で約束されていた。
その代わりとして、松尾社長側からリベートの支払いを要求され、エステート・ワンの新原社長は止む無く従ったという。

引き渡し後、JRJ内の一連のコンプライアンス違反が漏れ伝わったのか親会社のJR九州がJRJの調査に入り、松尾社長は 同年6月に退任を命じられ、グループの JR九州コンサルタンツ会社に平の取締役として降格異動となった。



エステート・ワンにとって松尾社長の退任は想定外、その後任としてJR九州から肝煎りで来た島野新社長は厳しい態度で臨んだ。
未払いの中間金と完工金 5億8000万円の即時支払いを求めるも、販売が進んでいないエステート・ワンは現金が不足しており、松尾前社長との約束を説明し支払の延期を要求、協議は平行線のままだった。

同年9月、松尾前社長(JR九州コンサルタンツ取締役)は「解任」された。
上場企業の子会社の元社長がコンプライアンス違反で解任というだけでニュースになりそうだが、JR九州は JRJからJR九州コンサルタンツにいったん異動させ、3ヵ月後の解任を決定、JRJの不祥事との直接的な関連がないように操作したと見られている。

弊社はJR九州コンサルタンツに松尾氏の解任理由を尋ねる文書を送付したが、下図のように回答を拒否されてしまった。
同社内で正当な理由があったのではなく、JRJでの一連の不祥事が原因だったのは明らかで、その証拠に 前回報じた様に JRJが松尾氏に対して損害賠償を求める裁判を起こしている。

JR九州はこの件について一切公表していないが、公表するに足らないと判断したのか、公表したら大変なことになると判断したのか。
この後判ることを考えると、後者だと思われる。



ー 続 く ー

NEXCOと大島産業(48)■ 信用されない経営幹部

中日本は、調査委員会の最終報告を受けて 7月29日、再発防止策を公表した。

内容は、
1.事業計画の策定と執行のプロセスについて
2.組織体制・人材育成について
3.ガバナンスについて
4.コンプライアンスについて

と 問題点に対する調査委員会の提言に、しっかり応えた格好だが 重要な点が抜け落ちている。

それは、コンプライアンス担当役員が人事を掌握している点だ。
今回、本社、支社、事務所、それぞれの部署で、関係した社員が コンプライアンス違反に対し抵抗を試みているが、2020年7月の人事で一部しゅん工を取り計らった者が異例の大出世をした一方、抵抗していた管理職は左遷されており、社員の意欲を削いでいるという。

中日本には倫理行動規範があり、公益通報窓口(コンプラホットライン)も設置されているにも拘わらず、誰も利用しなかったのはコンプライアンス担当役員を信用していないからにほかならない。

本来ならば、社外取締役にコンプライアンス担当として弁護士を招聘するべきで、少なくとも人事とは切り離すことが必要と言えよう。

中日本の社員の中で、経営幹部に対する不信感は根強いという。
どんなにキレイごとで再発防止策を並べても、人事を切り離さない限り 信頼回復は難しいだろう。

ー 続 く ー


NEXCOと大島産業(47)■ 国会議員の介入

元国交副大臣、自民党の建設族の国会議員が直接の問い合わせをしたとなれば、圧力以外何ものでもない。
現在は農水副大臣を務める 宮内秀樹議員である。

NEXCO中日本と大島産業、民間企業同士のトラブルに国会議員が介入したことが あり得ないことだ。
しかも、NEXCO各社は国交省に対して立場が弱いという。
それを分かった上で、敢えて国交省を通して問い合わせ、中日本の社員を議員会館に呼び出している点に 意図が感じられる。
パワハラの訴えがあった場合、国会議員であれば 弁護士を通じての問い合わせを勧めるべきで、私企業の営業のために 国家公務員を利用したことになる。

また、協議において 「適正利潤」や「設計変更」といった中日本の社員のメモからすると、契約金額の増額につて圧力をかけたことが窺われ、事実であれば問題だろう。

大島がネクスコの耐震補強工事に乗り出したのは、宮内氏が大島の役員に 「耐震補強工事は儲かるから」と勧めたのが始まりとの工事関係者からの証言もある。
その後本件工事を低入札で受注できたが、当初より施工能力に問題があり契約解除もあり得たが、2019年9月のパワハラ騒動に宮内氏が介入したことで、大島は工事を継続、中日本の職員を委縮させ管理が不十分になったことが 鉄筋不足・鉄筋切断等に繋がった。

更に、宮内氏が直接設計変更にも言及してから、大島は工期の延長と工事費増額の要求を強めるようになり、通常では考えられない増額と工期延長に至っている。
これらは、中日本のガバナンスの問題と片づけるわけにはいかないだろう。

第三者委員会の調査報告書では、国会議員の関与も明らかになっていることから、現職の閣僚でもある宮内氏におかれては、一連の関わりについて丁寧な説明が求められている。

ー 続 く ー

 

NEXCOと大島産業(46)■ 責任を押し付けられた支社長

一方のNEXCO中日本、第三者委員会の調査では、要求しても出ない書類や 関係者間で主張に齟齬が見られる点があり、嘘や隠蔽がまかり通り真相は明らかになっていない。

今回の工事では、2020年3月に約2億6000万円分の一部しゅん工が、そして 計5回の契約変更で 372日の工期延長と 約7億2000万円の増額が行われたが、いずれも未提出の書類がある中での承認で、社内規約に違反しており、それを指示した者、認識しながら実行に携わった者は、程度の差はあれ背任の疑いがある。

調査報告書によると 全ての指示、責任が八王子支社長にあるような印象を受ける。
本来事務所をチェックすべき支社が、大島の意のままに動き、最後の契約変更では、支社が本社の工務部門の決定を覆し 大島の意に沿った増額を認めている。
これまで本社の工務部門の決定が 支社に覆されたという前例はなく、内規に反していることが判っている中で、支社長個人が それだけの決定を下せるかというと疑問だ。
当然、
相応の後ろ盾、つまり 上層部の了承があったと考えるのが自然である。

社内調査と第三者委員会の調査で 戦犯確定的となった支社長は、次の人事で本社異動が決まっていたが 6月中に辞職願を出し退職したという。
現在は、東京支社内にある子会社のアドバイザーとして再雇用され、事実上の蟄居状態という噂だが、社内では同情する声も多い様だ。

また、1年前に契約変更のミッションを受けて送り込まれてきた八王子支社の担当部長、担当課長、事務所の所長らは7月5日から始まる会計検査前の 7月1日付の人事異動で、 グループ会社に2年間の出向となった。
会計検査では、何も知らない後任の部課長らが曖昧な答えに終始したという話も漏れ聞こえてきたが、このまま会計検査院も舐められたまま終わりにするとは思えない。

中日本経営陣は今回の件について、自身のわずかな減給と 関係者の降格人事、そして 再発防止策の発表により、全てを終わらせるつもりの様だ。
「嘘や隠蔽がまかり通り、最後は社員を犠牲にする素晴らしい企業」と 皮肉る声が聞こえて来た。

ー 続 く ー

NEXCOと大島産業(45)■ 今後の処分と複雑な資金の流れ

まず大島には、建設業の監督官庁である福岡県が法令に基づき何らかの処分を下すと思われるが、提出書類の虚偽記載など常習的に行っていたようだが、せいぜい指名停止数ヵ月程度で、建設業許可の取り消しとまではいかないだろう。
しかし、会社法や税法上の疑義は残る。

今回関わりのある数社についても同様だ。
今回の工事で、施工体系上は一次下請として ㈱ダイコウという会社から 二次下請の業者に支払いが行われる流れになっているが、実際は 大島と同住所の㈲エイチ・ワイ・ディから塚本不動産㈱(塚本總業㈱)、塚本から A社、そして その下の業者に支払われる流れになっていたという。
エイチ・ワイ・ディと塚本は、実際の施工に技術者を派遣していないペーパーだけの関わりだった様だ。

今回、大島、エイチ・ワイ・ディ、塚本不動産の工事経歴書を見比べてみた。
塚本不動産の令和2年3月期の工事経歴では、本件工事をエイチ・ワイ・デから 5億0864万2000円で下請をしたことになっているが、なぜか同時期のエイチ・ワイ・ディの工事経歴に本件工事は記載されていない。

また、令和2年3月末時点で、中日本が 中央自動車道の工事で 大島に支払った金額は、最大でも4億5000万円程度(前渡金+一部しゅん工費)と考えられる。
塚本不動産が、中日本から大島に渡った額を超えて、5億円の売上を立てているのは不自然だ。
更に、下請が実際に契約し 支払いを受けていたのは塚本不動産ではなく、 塚本總業という証言もある。

詳細は闇の中だが、実際のお金の流れを複雑不透明にしているところから、資金洗浄を疑う声も出ている。

― 続く ―

NEXCOと大島産業(44)■ 7億円増額直後の大どんでん返し

契約変更の協議が大詰めとなる9月30日、大島から中日本の事務所の担当課長に、交通保安要員の新単価処理を要望する電話が入り、「下請業者からの見積りで支払うことを支社長と約束している」との発言がある。
しかし、同課長と八王子支社の関係課による打ち合わせで、新単価は認めない旨が確認された。

ところがその直後、八王子支社の担当課長から事務所の副所長に「部長の意向により新単価で見てほしい。支社が責任を持つ。」という電話があり、支社担当部長、構造技術課長、事務所長、副所長の打ち合わせで、支社の指示に従うことになった。

10月12日、設計変更に疑問を感じた 支社の他部門の社員から、支社長に対し疑義がある旨進言がなされたが検討されなかったという。
まともな社員を 上司が抑えこんだということだろう。

その後、交通保安要員を含む全ての単価について大島との間で合意し、10月23日に 13億2910万1664円(+7億2667万7664円)で契約が変更された。
大島としては、16億円には届かなかったが  7億円の増額に成功して、美酒に酔いしれたと思われる。

しかし、想定外の大どんでん返しが起こる。
実は、9月24日に 緑橋の橋台部に ひび割れが見つかっていた。
その後、下請業者から鉄筋不足の疑いがあるとの告発があり、中日本は騒然となった。

10月26日に 中日本は大島にひび割れの調査を指示、28日に中日本が緑橋の橋台を検査したところ、鉄筋が入っていないことが確認され、全ての関係者の背筋が凍り付いたことだろう。

更に文春が「『鉄筋不足で崩落の恐れ』中央自動車道の手抜き工事を下請け会社が実名告発」と報じ、大島の名前が全国に知れ渡ることになった。
その後、中日本は大島との 同耐震補強工事契約を11月20日に解除するに至った。

以上が 報告書や取材を通じて分かった、施工不良判明までの流れである。

今回の施工不良は、大島の技術不足、経験不足に 無理な低入札による契約など、大島そのものに主因があるのは勿論だが、民間同士の工事に、国会議員と国交省の介入があったことが大きい。
それを機に、中日本上層部が政治忖度をしたことにより、大島に中日本の事務所が翻弄され、現場に目が届かなくなったことで 起こってしまった。

また、内規に違反して認められた7億円の増額は、国会議員による圧力がきっかけとなり、それに応じた経営幹部、忖度した支社長他、関係部課長らが関係していることははっきりしている。
報告書の中には、法令違反が疑われるケースが幾つも見られることから、このまま終わるということにはならないだろう。

ー 続 く ー

NEXCOと大島産業(43)■ 肝煎り人事のミッション

2020年7月の人事異動では、八王子支社の部長、構造技術課長、事務所長に 議員会館に行って説明をした者や増田副社長の側近が配置され、副社長との連絡係(本社保全企画部長)に 同じく議員会館に説明に行った者が就いた。

この肝煎り人事のミッションは、大島との最後の精算をスムーズに行うことである。
コンプライアンスの厳しい(はずの)会社にあって、どの社員も好んだ役回りではなかったと思われるが、結果的にミッションをやり遂げており、相応の責任はあると言えよう。

8月6日、大島から事務所の担当課長に電話があり、当初契約額 6億円にプラス10億円、最終金額は 約16億円という希望が伝えられる。
同課長は八王子支社の関係課の打ち合わせで、中日本の基準で積算して せいぜい 約8.1億円(+2.1億円)、大島の見積りを最大限考慮しても 約11.5億円(+5.1億円)という試算を共有している。

8月21日には、八王子支社部長から工期を2カ月程度延長し、設計変更の準備を進める旨の説明がなされ、支社長からは 「丁寧な対応を心掛けること、書類作成には無理な注文をしないこと、60日間の工期延長で打ち合わせること、資料を修正すること」等、大島寄りの指示があった。

変更金額については、大島から16億円という伝達があったが、積算では約12億円で大島が求める額に達しない旨が報告されている。
内部では 「12億円でも多いのに 16億円は調子に乗り過ぎ」という思いはあった様だ。

ー 続 く ー

NEXCOと大島産業(42)■ 議員に恥をかかせるな、払ってやれ

2020年3月、大島には追い風が吹き まさに絶好調、契約金額の増額と一部しゅん工が実現することになる。
その経緯はこうだ。

2019年10月以降、中日本はじめ、NEXCO東日本、西日本、国交省、福岡県、政治家のところに告発文が数回にわたり届けられる。

告発文 → こちらをClick 

送り主は不明だが大島の下請業者で、虚偽の施工体系の違法性、代金の未払い、下請虐めの実態を訴えるものだった。

2020年1月、福岡県が実態の調査を行いヒアリングをした際、未払いの理由を問われた大島は「中日本が支払ってくれないから」と事実に反する回答をしている。
中日本では複数年契約の工事では部分払いをすることが約束されているが、工事の進捗が上がらなかったため、大島自身が 可能な部分払い請求を辞退して申請しなかったというのが実際のところだ。
結局、大島の事実に反する回答がそのまま中日本幹部に伝わり、増田副社長が「議員に恥をかかせるな。払ってやれ。」と述べたという。

その発言で中日本の社内の空気は一変し、ガバナンスが効かなくなった。
八王子支社構造技術課の主導で、3月6日には契約変更で金額を 7億3675万0159円(+1億3432万6159円増額)、工期を 2020年7月10日まで延長(+121日)することに、更に、大島の求めに応じ一部しゅん工検査(2億6391万8711円分)を実施、中日本内部では未提出の書類が多いことから抵抗があったが、最終的に大島の言い値に添う形で新単価が決定され、承認することとなった。

まさに、この点は 中日本が犯した背任行為で、真相究明が必要な一つのポイントと言える。
そして7月の人事異動で、増田副社長に近い者が 八王子支社に送り込まれてきた。

ー 続 く ー

NEXCOと大島産業(41)■ 起こるべくして起こった施工不良

国会議員を使ったパワハラ騒動の後、標識工事の現場代理人としてK氏が就くことになり、大島としては目的を達成したと言える。

一方で、下請業者からは工事費の不払い等で大島への不満が大きくなり、もう限界にきていた。
実質的な一次下請 A社が9月で撤退を表明、施工に携わっていた下請27社のうち14社が 2019年12月までにいなくなり、現場作業員がいない空白期間があるという前代未聞の事態となる。



業者からの告発で、中日本の事務所は 「施工体制の偽装」や「下請への不払い」の事実を掴んでおり、大島との契約解除も考えたが、既に国会議員の登場で政治案件化していたため出来なかった。

今回問題となっている鉄筋不足、鉄筋切断の工事が施されたのはこの直後だ。
大島からの度重なる中日本の担当者へのクレーム、威圧的な態度に、両者の関係は悪化して、中日本は立会検査の人間も一定せず、大島の施工に目が行き届かなくなっていた。

下請業者に逃げ出された大島が、「金は払う、とにかく何人でもいい」と躍起になって代わりの下請業者を見つけ出したのが 12月、施工体系図を更新(相変わらず虚偽の書類)して提出するも、集められた労働者は専門性を要する耐震工事に精通していなかった。

鉄筋不足が判明した緑橋の橋台においては、鉄筋組立・鉄筋検査が工程表に記載されておらず、鉄筋がないまま 2020年1月にコンクリートを打設している。



下請の話では、現場に立ち会った大島側の担当社員は 図面が分からない素人で、言われるがままに立っていただけという。
実質は大島の監理技術者が工程管理をしていたが、電話による作業管理で 最後の鉄筋配置が必要なことに気づかず、次の工程を指示したようだ。
この点について、大島は 下請が勝手にやったと反論している。

また、絵堂橋の施工では、2月に行われた鉄筋の組み立て時に、鉄筋どうしが干渉したため故意に切断しているが、工期に間に合わせることを優先した大島の現場代理人が指示したとの証言が得られている。
耐震補強工事において、鉄筋を故意に切断するという 常識では考えられない工事が行われていたのだ。



こうした中でも、なぜかしら大島に「追い風」が吹いてきたのである。

ー 続 く ー

NEXCOと大島産業(40)■ 国会議員を使ったパワハラ騒動

大島産業は、辞めた現場代理人F氏の穴埋めに K氏を復活させようと考えたが、K氏が2月の改善措置請求の対象となった当事者だったため、中日本の事務所が了承しない事は予見できた。

下請業者が大島の社員から聞いた話によると、ロッキング橋脚の耐震補強工事に応札するにあたり、建設族の地元国会議員に儲かるかどうか相談し、2018年に西日本と中日本の工事を各1件ずつ受注したという。
そこで 大島は、再度 国会議員の力を借りて、中日本に優位に立てる術を思い付いたようだ。

まず、日頃進捗を督促してくる中日本の施工管理員のメールの言葉の過ぎた部分を切り取りパワハラに該当するとして騒ぎにする。
それを収める交換条件が、K氏を現場代理人に復帰させ、今後の精算交渉を有利にすることである。

報告書では「施工管理員のメールの文面の中に、現場代理人を揶揄し個人攻撃ともとられかねない不適切な文言が確認された」と指摘されており、大島に攻撃材料を与えてしまったのは事実だろう。
最終的に、施工管理員は交代することになったが、その経過は次の通りである。



以上だが、国会議員が干渉してきたことで、事実確認が十分になされないまま政治案件化することを避けるため、支社長が施工管理員を交代させるよう指示している。
更に、担当課長のメモでは、国会議員が 「適正利潤」や「設計変更」についても言及しており、コンプライアンス違反が疑われる内容だ。

下図は報告書にあった「受注者側の配置技術者数と施工箇所数」というグラフだ。
2019年8月から9月にかけて 技術者数が少なくなっているが、まさにこの時期、パワハラ騒動が起こっている。

この国会議員・国交省課⻑との面会を機に、中日本の社内で「大島は政治案件、国交省から迂回天下りした副社長もコミットしている」という認識が共有された。
一方で大島は中日本の事務所に対し 要求を強くしていった。

ー 続 く ー

NEXCOと大島産業(39)■ 施工能力不足を露呈

低入札価格調査をパスした大島産業、2018年8月28日に契約したまでは良かったが、下請業者が決まらない等の理由で3ヶ月間も着工が遅れ、12月になって ようやく施工体系図及び施工体制台帳を中日本に提出した。
しかし、届け出た1次下請業者「㈱ダイコウ」とは異なる別の下請業者A社と、前述の塚本不動産のグループ会社「塚本總業㈱」との材工一体の契約を締結させており、虚偽の申告をしている(下図)。

契約締結後3ヶ月近くも着工しないというのは聞いたことがない。
通常は業者が作成するべき 施工計画書や交通規制の書類を、なぜか発注者の中日本が手伝いようやく工事開始にこぎつけたという話が、当時の業者の間で話題になっていたという。

2019年1月、工事は始まったが、その後も中日本の事務所からの再三の指導にもかかわらず、書類の未提出、立会検査の未実施、工程の遅延、工事の進捗改善が図れず、現場管理の杜撰さが改善されなかった。
そのため、中日本の事務所は危機感を覚え 同年2月に大島本社に会社としての改善措置要求を出し、工程挽回を要望した。

しかし、大島の現場を任されていた現場代理人K氏が、しっかりとした修正工程や是正計画を十分書けなかったため、結局は中日本の事務所が書類作成を手伝い提出したという。
本来であれば、この時点で契約解除でもよかったが、中日本も国交省が決めた工期に追われていたことから そうした判断には至らなかった様だ。
さすがに大島は、工期の大幅な遅れの責任者としてのK氏を交代させることを申し出ている。

その頃から大島は、下請業者に対する支払いの手続き等も上手くいってなかった様で、トラブルが起こり始めていた。
そもそも 支払いトラブルの原因は低入札の契約による手持ち資金の薄さにあったが、偶然にも現場近くで 別の標識工事(約4億円)の話が舞い込んできた。

運よく6月3日付で 随意契約を結んだところまではよかったが、問題が起こる。
同工事の現場代理人に指名したF氏が、工事の着手進捗を求める中日本と、叱責する大島本社幹部との間で板挟みとなり、間もなく連絡がつかなくなり 辞めてしまったのだ。

大島は後任を探さなければいけなかったが、社内に現場代理人の資格者は余っていない。
その後 起こったのが、大島による 国会議員を使ったパワハラ騒動である。

ー 続 く ー

NEXCOと大島産業(38) ■ 第三者委員会の最終報告書

7月27日、中央道を跨ぐ橋梁の耐震補強工事施工不良に関する調査委員会の最終報告書が公表されたが、参考資料も含めると200ページを超え 読み込むのに時間を要した。

報告書は冒頭で「調査の限界」と題し、同委員会の調査で「収集した資料等のほかに、本件事案の事実関係を認定するうえで重要となり得る資料等が存在する可能性があること」「ヒアリングで得られた情報の中に事実と異なる情報が含まれている可能性も否定できない」ことを指摘、「後日そのような事実が判明した場合は、事実認定および検証結果が変更される可能性がある」と断りを入れている。

このことはつまり、今回の調査で 背任とも取れる事案が見られたことから、今後 現在行われている裁判や 警察の捜査で真相が明らかになる可能性を考慮したものと思われる。

報告書等では、
1.施工不良が起こった原因
2.国会議員や幹部の発言の影響
3.内規に反した工事金額の増額
等が明らかにされた。

施工能力が不足していた大島が契約解除もされず工事を続け、最終的に6億円の当初契約が なぜ13億円に増額変更されたのか、報告書と取材内容を織り交ぜながら 紐解いていきたい。

今回施工不良が明らかになった耐震補強工事は、大島が2018年7月の入札に参加し、低入札の重点調査基準を下回る 6億0242万4000 円(税込)(落札率 73.8%)で落札したため、中日本は低入札価格調査を行っている。

一般的な 通りいっぺんの調査では、巧妙に脚色された提出書類から、その後起こる施工不良や不払い問題、施工体制違反等の建築業法違反を予見出来なかったようだ。
大島は調査をパスし、契約するに至ったが、調査で届け出た一次下請3業者「B社(大阪市)」、「M社(宮若市)」、「塚本不動産㈱(東京都中央区)」とは 契約を結ばず、当初から不可解な動きを取っている。
協力した下請3社も 大島とは相当な結びつきがあると思われる。

ー 続 く ー