[2008年12月 8日 09:07更新]
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映画の中でもいわゆる「ミニシアター」で上映されるものが好みである。ハリウッド製の大作、特にテレビなどのメディアで大々的に宣伝される作品は苦手。終わった後「何でこんなの見てしまったんだろう・・」と失望することが多いからだ。
この作品は、「報道されない殺人者」という副題にひかれ、見に行った。
(以下、映画の内容について記述しています。未見の方はご注意下さい)
アメリカとの国境の町(ボーダータウン)、メキシコ・フアレス。工場が建ち並び、多くの若い女性が働き場所を求めて集まってくる。この町では15年間で500件もの殺人事件が起きている。被害者は10~20代の女性労働者。そして、異常な数に上る殺人の真相は、ほとんど明らかにされていない。
シカゴの新聞記者ローレン(ジェニファー・ロペス)はこの事件を調べるためにフアレス入りする。現地の小さな新聞社に勤める元恋人のディアス(アントニオ・バンデラス)とともに取材を始めると、「魔の手」から逃げ延びた生存者が現れる。ところが警察当局は取材を妨害、さらには何者かが2人の命を狙う。様々な困難の末にやっと書き上げた原稿は政治家の圧力でボツとなり、ディアスは銃弾に倒れる-
まず驚いたのは、ベースとなっている事件が事実であるということだ。フアレスでの女性大量殺人は最近ようやくメキシコ内外で広く知られるようになり、その被害者は5000人とも推計されているという。この数字が正しいかどうかは別として、こうした国にありがちな捜査当局の低い能力・モラルを差し引いても、異常事態というほかない。
その背景にはマキマドーラ(輸出保税加工工場)がある、と映画は指摘する。メキシコ政府は外貨獲得などを目的に、輸入原料・半製品は免税、輸出製品には付加価値分(人権費などの諸経費)にのみ課税という優遇措置を講じ、外国資本の誘致を図った。そのためフアレスなどの国境地帯には日本も含め先進国資本の工場が建設された。そこで働くのはメキシコ国内から集まった、先住民など貧しい家庭で育った女性たちだ。
安価な労働力として先進国とメキシコの経済発展を支えながら、たとえ殺されたり暴行されても当局に訴えることすらままならない。犯人は明らかに、こうした弱い立場の女性を狙って殺戮を繰り返している。
捜査が何ら発展しないのは、捜査当局はもちろん、政府そのものが大スキャンダルを闇に葬ろうとしているからだ。多くの外国資本が進出したおかげで一部の企業や政治家たちが潤った。その利権が失われてはならない、そのためには殺人事件が大々的に報道されイメージダウンすることは避けなければならない。そもそも被害者は使い捨ての労働力であり、彼らにとって大した価値はない。
現地メディアはもちろん、アメリカの大手メディアもこの事件を無視し続けていたが、最近になってやっと報じるようになったという。映画は、こうしたゆがんだ構図を、「経済発展の名の下で、何が起こっているのか」を、観客に見せつける。
もう1つ描かれているのは、国家ぐるみの犯罪とも言える事件に立ち向かう記者たちの姿だ。
ディアスが勤める新聞社は、周りが次々と当局に籠絡されていく中で、唯一事実を追及しようとする。そのおかげで日常的に当局による妨害にあい、廃刊寸前の状態だ。それでもディアスは記者として本来の仕事を全うしようとする。
一方、最初は乗り気でなかったローレンは、海外特派員というポストをちらつかされ取材を始める。だがあまりに悲惨な女性たちの現実に憤り、自らおとりとなって犯人に襲われるという危険を冒して原稿を書き上げる。だが記事はボツとなり、上司からエサ=特派員を投げ与えられながらもこれを拒否、ディアスの遺志を継いでメキシコで記者生活を続ける。
ローレンの上司(マーティン・シーン)は、最初は記事を激賞するものの、政治家の圧力に屈し掲載を見送る。食い下がるローレンに向かってこう叫ぶ。
「もう調査報道の時代じゃないんだ」
「タイプライターと同時にニュースも終わったんだよ」
記者として、身につまされるセリフだった。
社会性・メッセージ性が強く、国家・メディアのあり方や経済体制の矛盾を正面から告発するこの手の映画に、有名俳優が名を連ねていることにも驚かされた。主演のジェニファー・ロペスは、言うまでもなくハリウッドを代表する人気女優。彼女は出演依頼にすぐさま応じ、スケジュールが詰まっていたアントニオ・バンデラスを口説いたという。また人気歌手のフアネスも本人役で出演している。撮影現場に銃弾が撃ち込まれたこともあったというが、こういう映画を見るとハリウッドも捨てた物じゃあないな、と感心させられる。
不満な点は上映期間が短く、回数も少ないこと。映画の性質上、仕方がないのだろうが、より多くの人に見てもらいたいだけに残念である。
(KBCシネマにて12日まで上映)
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