調べる案件、調べなかった案件 [2026年7月3日07:00更新]

村上市長の公務調査は否決、過去案件には100条委員会――議会の物差しは同じか

市議会の役割は、市長に賛成することでも、反対することでもない。
市政運営が適切に行われているかを監視し、必要な事実を調べ、市民に説明することである。

そこで、田川市議会の判断を時系列で見ると、一つの疑問が浮かぶ。

なぜ、ある案件は強い調査権を使って追及し、別の案件は議会として調べなかったのか。

 

市長の公務出張と人事を調べる議案は否決

2025年3月、市議会には「田川市長の公務の調査に関する決議」が提出された。

対象は、村上市長の公務出張に加え、人事評価や人事異動が適切に行われたのかという問題だった。地方自治法100条、98条に基づく権限を持つ特別委員会を設置し、議会として調査しようとする内容だった。

採決は公開され、賛成7、反対9で否決された。

反対したのは、次の9氏である。



当時の会派で整理すると、「シン・タガワ」「社民党市議会議員団」「新風会」「日本共産党市会議員団」にまたがっていた。特定の一会派だけによる判断ではない。

この反対をもって、9氏がセクハラや不倫を容認したと断定することはできない。被害者の二次被害を避けることや、第三者委員会の調査を優先することを重視した議員もいた可能性がある。

しかし、この議案が対象としていたのは男女関係の真偽だけではなかった。

 
  1. 公費を伴う出張が適切だったのか。
  2. 人事評価や人事異動に恣意性はなかったのか。
  3. 市長の権限が行政組織の中で適正に行使されたのか。
 

議会自らが持つ調査権を使わないと決めた以上、反対した議員には、なぜ議会調査が不要だったのか、代わりにどのような方法で事実確認を行うつもりだったのかを説明する責任がある。

 

その後、過去の2案件には100条委員会

ところが、その後の田川市議会は、過去の2案件に地方自治法100条に基づく調査特別委員会を設置している。

一つは、2021年の情報公開請求に関する個人情報漏えい疑惑である。市は、情報漏えいがあった可能性を否定できないとして、請求者側と和解した。調査決議は香月氏が提出し、柿田、榊原、石松、小林の4氏が賛成者となった。

もう一つは、2019年度の指名競争入札による建設工事発注をめぐる疑惑である。調査決議は榊原氏が提出し、柿田、村吉、石松、小林の4氏が賛成者となった。

過去案件を調べること自体は、議会の正当な役割である。

情報公開制度の根幹に関わる問題や、公平な入札に疑念がある問題を調査することに異論はない。

ただし、市民に説明されるべき事実がある。

村上市長の公務調査案に反対した9氏のうち、榊原、村吉、香月、石松、小林、柿田の6氏は、その後、過去案件を調べる100条委員会の提案者または賛成者となっている。

なぜ村上市長の公務出張や人事異動は議会調査に値せず、2019年、2021年の案件には強制力を伴う100条調査が必要だったのか。



 

案件の違いはある。だからこそ基準を示すべきだ

もちろん、三つの案件は同一ではない。

情報漏えい問題では、市が可能性を否定できないとして和解している。建設工事発注問題では、具体的な業者選定をめぐる疑義が示されている。

一方、村上市長の問題では当時、第三者委員会の最終結論がまだ出ておらず、女性職員のプライバシーと二次被害への配慮も必要だった。

だから、単純に「過去案件だけを狙った」「市政によって調査基準を変えた」と断定することはできない。

しかし、案件が異なるからこそ、議会は判断基準を明らかにする必要がある。

 
  1. どの程度の証拠があれば、100条委員会を設置するのか。
  2. 公益性、緊急性、調査費用、関係者への負担をどう比較するのか。
  3. 第三者委員会がある場合、議会調査をどこまで控えるのか。
  4. 第三者委員会の結論が出た後、議会は自らの判断を再検証するのか。
 

その物差しが公表されなければ、市民には「誰を調べるかによって議会の姿勢が変わっている」と見えてしまう。

 

市長問題以前から続く議会内の対立

田川市議会の混乱は、村上市長のセクハラ問題だけで始まったものではない。

2023年12月には、議事運営の公平性などを理由として陸田孝則議長への不信任決議が可決された。その後、議長の言動をめぐる懲罰特別委員会が設けられ、2024年2月には公開の議場で陳謝する懲罰が可決されている。

議長不信任は2025年5月、7月、12月にも提出され、12月の不信任決議も可決された。議会自身の広報でも、「会派間の信頼は崩壊している」「現在の市議会は正常な判断ができない状態にある」といった、議員同士の厳しい評価が公表されている。

市長と議会の対立だけではない。

議員と議員、会派と会派、議長と一部議員の間で、長期にわたり信頼が損なわれてきたことが、公文書から見える。

つまり、今回の市政混乱は一人の市長だけを交代させれば解消する問題ではない。

 

6月議会で、議会自身の検証は行われたか

2026年6月議会の一般質問では、永松広宣氏が「セクハラの再発防止と組織改革」を正面から取り上げている。市政正常化に不可欠な質問である。

一方、佐藤俊一氏と永松氏は二場市政期から始まった高度実践型未来農業者輩出事業を、村吉勇介氏は中学校再編の評価を取り上げた。過去の政策を検証することも、議員の正当な仕事である。

ただ、一般質問は基本的に、市長や執行部に対して市政を問う場である。議会自身の判断を議会に質問する制度ではない。

だからこそ、二度の不信任否決、公務調査案の否決、無記名採決を選んだ経緯については、一般質問とは別に、議会運営委員会や検証特別委員会、議会報告書という形で総括する必要がある。

過去市政を調べる議会が、自らの直近の判断だけは検証しないのであれば、市民の不信は消えない。