人物の印象ではなく、財源・工程・実行体制を同じ物差しで見る
前市長の辞職に伴う田川市長選は、7月5日告示、12日投開票で行われる。6月22日の「立候補予定者と対話する会」には、浦野仁氏、佐々木允氏、二場公人氏、村上卓哉氏、今永信之氏の5人が立候補予定者として掲載された。正式な候補者は告示日に確定するが、市民が比較できる政策材料を今の段階から整理する必要がある。
本稿で用いる物差しは四つである。第一に、目標が具体的か。第二に、財源が示されているか。第三に、実行までの工程と行政体制があるか。第四に、市民が後から成果を検証できるかである。
田川市の令和6年度ふるさと納税実績は36,596件、7億3,110万7,540円。令和8年度予算では寄附見込額15億円、必要経費割合57.7%とされる。新庁舎整備の概算事業費は約119.3億円で、周辺環境整備費は含まれない。令和7年度全国学力調査では、中学校数学の標準化得点は68.3だった。どの政策も、こうした現在地から離れて評価することはできない。
浦野仁氏
教育への熱意を、行政の工程に変えられるか
浦野氏は「田川、新時代」を掲げ、教育、子育て、経済、福祉の4分野を柱としている。中学校2校体制の再検証、不登校対策、行政・学校・民間・福祉の連携、小中一貫校の検討など、教育を前面に出す姿勢は明確である。
教育を主要争点にすることには合理性がある。田川市では中学校数学の全国平均との差が大きく、不登校、部活動、通学、教員負担も含めて改善が必要だからだ。
一方、中学校再編は白紙の状態から始まったものではない。市民アンケート、住民説明会、21回の審議会を経て最終答申がまとめられた。再検証を掲げる以上、過去の議論のどの前提が変化したのか、何を維持し、何を変え、費用と期間をどの程度見込むのかを示す必要がある。
「声を聞く」「一貫教育を検討する」という言葉だけでなく、初年度に着手する施策、教育委員会との役割分担、再検証中も子どもの教育環境を安定させる手順まで語れるかが問われる。
佐々木允氏
100億円という目標に、事業計画を添えられるか
佐々木氏の代表的な政策は「ふるさと納税100億円」である。福祉、人権、教育を守るには外から財源を獲得する必要があるとして、農産物、企業の技術、炭鉱の歴史、体験型返礼品などをブランド化する考えを示している。財源論を正面から掲げた点は分かりやすい。
ただし、100億円は令和6年度実績の約13.7倍、令和8年度見込み15億円の約6.7倍である。寄附額がそのまま市民サービスに使えるわけではなく、返礼品、送料、広告、ポータルサイト、委託費などの経費が生じる。
政策として評価するには、達成年度、年度別目標、主力返礼品、供給量、参加事業者数、広告費、物流・在庫・問い合わせ対応、経費率、市に残る純財源を示す必要がある。
目標が大きいこと自体は問題ではない。だが、数字に応じた説明密度がなければ、市民に希望を与える目標である一方、選挙向けの耳触りのよい言葉にも見える。問われるのは金額の大きさではなく、実現までの設計図である。
二場公人氏
総合政策を、検証可能な数値にできるか
二場氏は、市長経験を背景に、財政、新庁舎、教育、DX、外部連携を横断する政策を打ち出している。個別の給付や事業を並べるより、市政全体の優先順位を組み直そうとする点が特徴である。
過去には、田川市がソフトバンクとDX・ICT利活用に関する連携協定を結び、青山学院大学との包括連携も進めた。外部の企業や大学を市政に引き込んだ経験は、行政運営上の一つの材料となる。
ただし、協定を結んだことと、市民生活に成果が返ったことは同じではない。何が実現し、何が途中で止まり、今後どの指標で成果を測るのかを説明する必要がある。
財政再建を掲げるなら、初年度、2年目、任期末の数値目標が必要になる。新庁舎を再点検するなら、継続・縮小・変更の判断基準と期限を示さなければならない。政策の幅広さを、優先順位と検証可能な数字に変えられるかが焦点である。
村上卓哉氏
在任中の実績と、辞職に至った責任を切り離さず語れるか
村上氏は前回選挙で「ガラス張りの市政」や主体的な市政運営を掲げ、現職だった二場氏を破った。今回も、在任中に取り組んだ政策や実績を市民に判断してもらうとして、出直し選への立候補を表明している。
しかし、今回は通常の継続選挙ではない。市の第三者委員会が女性職員に対する複数の行為をセクハラと認定し、村上氏が辞職したことに伴う選挙である。
在任中に実施した政策を訴えることは当然だが、実績の説明と辞職の説明を別々に扱うことはできない。「ガラス張り」を掲げるなら、何が起き、どの認定を受け入れ、なぜ辞職し、短期間で再出馬するのかを、自身の問題にも適用して説明する必要がある。
さらに、再発防止を本人の自制に委ねるのか、独立した相談窓口や第三者監視を制度化するのか。失った信用を、どの仕組みで回復するかまで示せるかが問われる。
今永信之氏
政策資料の提示が、まず必要になる
今永氏は5人目の立候補予定者として対話会に掲載されている。一方、6月21日時点で本紙が確認できた範囲では、他候補と同じ粒度で比較できる詳細な政策資料や財源計画は限られている。
新人が既存候補とは異なる視点を示すことには意味がある。しかし、市長選では、新庁舎、財政、教育、ふるさと納税、福祉、透明性について、立場と優先順位を示す必要がある。
公開資料が少ないことだけを理由に否定的評価をするべきではないが、投票日までの時間が限られる中、政策を示さないこともまた有権者への情報不足となる。
今永氏については、政策資料が公表された段階で、他の4氏と同じ物差しを当てて検証したい。まず問われるのは、市民が比較できる材料を、いつまでに、どの形式で示すかである。
5候補の訴えは異なる。しかし、市民が見るべき基準は共通である。目標、財源、工程、行政体制、検証方法を示せるか。今回の市長選を政策選挙にするには、候補者の強い言葉より、実行できる設計図を比較する必要がある。
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