調べる案件、調べなかった案件

村上市長の公務調査は否決、過去案件には100条委員会――議会の物差しは同じか

市議会の役割は、市長に賛成することでも、反対することでもない。
市政運営が適切に行われているかを監視し、必要な事実を調べ、市民に説明することである。

そこで、田川市議会の判断を時系列で見ると、一つの疑問が浮かぶ。

なぜ、ある案件は強い調査権を使って追及し、別の案件は議会として調べなかったのか。

 

市長の公務出張と人事を調べる議案は否決

2025年3月、市議会には「田川市長の公務の調査に関する決議」が提出された。

対象は、村上市長の公務出張に加え、人事評価や人事異動が適切に行われたのかという問題だった。地方自治法100条、98条に基づく権限を持つ特別委員会を設置し、議会として調査しようとする内容だった。

採決は公開され、賛成7、反対9で否決された。

反対したのは、次の9氏である。



当時の会派で整理すると、「シン・タガワ」「社民党市議会議員団」「新風会」「日本共産党市会議員団」にまたがっていた。特定の一会派だけによる判断ではない。

この反対をもって、9氏がセクハラや不倫を容認したと断定することはできない。被害者の二次被害を避けることや、第三者委員会の調査を優先することを重視した議員もいた可能性がある。

しかし、この議案が対象としていたのは男女関係の真偽だけではなかった。

 
  1. 公費を伴う出張が適切だったのか。
  2. 人事評価や人事異動に恣意性はなかったのか。
  3. 市長の権限が行政組織の中で適正に行使されたのか。
 

議会自らが持つ調査権を使わないと決めた以上、反対した議員には、なぜ議会調査が不要だったのか、代わりにどのような方法で事実確認を行うつもりだったのかを説明する責任がある。

 

その後、過去の2案件には100条委員会

ところが、その後の田川市議会は、過去の2案件に地方自治法100条に基づく調査特別委員会を設置している。

一つは、2021年の情報公開請求に関する個人情報漏えい疑惑である。市は、情報漏えいがあった可能性を否定できないとして、請求者側と和解した。調査決議は香月氏が提出し、柿田、榊原、石松、小林の4氏が賛成者となった。

もう一つは、2019年度の指名競争入札による建設工事発注をめぐる疑惑である。調査決議は榊原氏が提出し、柿田、村吉、石松、小林の4氏が賛成者となった。

過去案件を調べること自体は、議会の正当な役割である。

情報公開制度の根幹に関わる問題や、公平な入札に疑念がある問題を調査することに異論はない。

ただし、市民に説明されるべき事実がある。

村上市長の公務調査案に反対した9氏のうち、榊原、村吉、香月、石松、小林、柿田の6氏は、その後、過去案件を調べる100条委員会の提案者または賛成者となっている。

なぜ村上市長の公務出張や人事異動は議会調査に値せず、2019年、2021年の案件には強制力を伴う100条調査が必要だったのか。



 

案件の違いはある。だからこそ基準を示すべきだ

もちろん、三つの案件は同一ではない。

情報漏えい問題では、市が可能性を否定できないとして和解している。建設工事発注問題では、具体的な業者選定をめぐる疑義が示されている。

一方、村上市長の問題では当時、第三者委員会の最終結論がまだ出ておらず、女性職員のプライバシーと二次被害への配慮も必要だった。

だから、単純に「過去案件だけを狙った」「市政によって調査基準を変えた」と断定することはできない。

しかし、案件が異なるからこそ、議会は判断基準を明らかにする必要がある。

 
  1. どの程度の証拠があれば、100条委員会を設置するのか。
  2. 公益性、緊急性、調査費用、関係者への負担をどう比較するのか。
  3. 第三者委員会がある場合、議会調査をどこまで控えるのか。
  4. 第三者委員会の結論が出た後、議会は自らの判断を再検証するのか。
 

その物差しが公表されなければ、市民には「誰を調べるかによって議会の姿勢が変わっている」と見えてしまう。

 

市長問題以前から続く議会内の対立

田川市議会の混乱は、村上市長のセクハラ問題だけで始まったものではない。

2023年12月には、議事運営の公平性などを理由として陸田孝則議長への不信任決議が可決された。その後、議長の言動をめぐる懲罰特別委員会が設けられ、2024年2月には公開の議場で陳謝する懲罰が可決されている。

議長不信任は2025年5月、7月、12月にも提出され、12月の不信任決議も可決された。議会自身の広報でも、「会派間の信頼は崩壊している」「現在の市議会は正常な判断ができない状態にある」といった、議員同士の厳しい評価が公表されている。

市長と議会の対立だけではない。

議員と議員、会派と会派、議長と一部議員の間で、長期にわたり信頼が損なわれてきたことが、公文書から見える。

つまり、今回の市政混乱は一人の市長だけを交代させれば解消する問題ではない。

 

6月議会で、議会自身の検証は行われたか

2026年6月議会の一般質問では、永松広宣氏が「セクハラの再発防止と組織改革」を正面から取り上げている。市政正常化に不可欠な質問である。

一方、佐藤俊一氏と永松氏は二場市政期から始まった高度実践型未来農業者輩出事業を、村吉勇介氏は中学校再編の評価を取り上げた。過去の政策を検証することも、議員の正当な仕事である。

ただ、一般質問は基本的に、市長や執行部に対して市政を問う場である。議会自身の判断を議会に質問する制度ではない。

だからこそ、二度の不信任否決、公務調査案の否決、無記名採決を選んだ経緯については、一般質問とは別に、議会運営委員会や検証特別委員会、議会報告書という形で総括する必要がある。

過去市政を調べる議会が、自らの直近の判断だけは検証しないのであれば、市民の不信は消えない。



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市長は辞職した。議会は何を総括したのか

二度の不信任否決と無記名投票――市政混乱の「もう一つの責任」

村上卓哉前市長は辞職した。

全国ニュースやテレビは、女性職員へのセクハラ認定と辞職という「その瞬間」を大きく報じた。しかし、地域を継続して見る媒体が追うべきなのは、市長が辞職したという結末だけではない。

問題が表面化してから辞職に至るまで、市議会は何を調べ、どのような判断をし、その結果を現在どう総括しているのか。

田川市政の混乱は、市長一人だけの問題として終わらせてよいのだろうか。

 

議会全体が村上市長を守った、とは言えない

まず、事実は丁寧に分ける必要がある。

2025年3月定例会で田川市議会は、村上市長に対する問責決議を全会一致で可決した。辞職勧告決議も賛成9、反対7で可決し、市長給与を任期末まで50%減額する条例も全会一致で可決している。

従って、「市議会全体が一枚岩となって村上市長を守った」と表現するのは正確ではない。市長の責任を厳しく問う意思を示した議員も、早期辞職を求めた議員もいた。

一方で、最も重い政治判断である不信任決議案は成立しなかった。

2025年3月19日の不信任案は、無記名投票で賛成10、反対7。通常の議案なら賛成多数だが、市長不信任には出席議員の4分の3以上、当時は13票が必要だったため否決された。

4月30日に再び提出された不信任案も無記名投票となり、賛成9、反対扱い9で否決された。反対扱いとなった9票には、意思を明示しない白票4票が含まれていた。

その後、市の第三者調査委員会は、公用車内で女性職員の手を握った行為や、その後の性交渉など計4件をセクハラと認定した。報告は、女性職員の立場上、拒否が困難であることを十分認識しないまま行為をエスカレートさせたと指摘した。村上氏は2026年5月末で辞職し、市議会も辞職に全会一致で同意した。

結果として、不信任を成立させないだけの議員が二度にわたって存在し、村上市政の継続を可能にしたことも、消すことのできない事実である。

 

誰が続投を選んだのか、市民には見えない

最大の問題は、二度の不信任採決がいずれも無記名だったことだ。

不信任とは、市長がその地位にふさわしいかを議会が判断する、極めて重い採決である。それにもかかわらず、市民は、自らが選んだ議員が賛成したのか、反対したのか、白票を投じたのかを確認できない。

無記名投票は議会のルール上可能である。だが、ルール上可能であることと、市民への説明責任を果たしていることは同じではない。

市長に「ガラス張りの市政」を求める一方で、市長の存否を決める議員自身の判断は見えない。

この矛盾こそ、田川市議会が総括すべき第一の問題ではないか。



 

続投論を公に述べた議員は、今どう考えるのか

無記名投票である以上、不信任に反対した全議員を実名で断定することはできない。
一方、3月議会で不信任に反対する理由を公に述べた議員は確認できる。

石松和幸氏は、村上氏が2年間で多くの成果を上げたとして、説明責任と信頼回復を求めながら、道半ばの施策を前進させるべきだと述べた。

小林義憲氏は、職員アンケートや改革継続を理由に、不信任に反対した。4月の再提出時にも、第三者委員会の報告を待つべきであり、判断は時期尚早だとの意見を表明した。

香月隆一氏は、不信任を可決すれば市政改革が逆戻りするとし、村上氏に反省と改革継続を求めた。

第三者委員会の結論が出る前に慎重な判断を求めたこと自体には、一定の論理がある。被害を訴える女性への二次被害を避け、外部の専門家による調査を待つべきだという考え方も理解できる。

しかし、第三者委員会が実際にセクハラを認定し、市長が辞職した今、当時続投論を述べた議員にも改めて聞く必要がある。

 
  1. 当時の判断は今も正しかったと考えているのか。
  2. 市政継続によって得られた成果と、混乱が長期化した不利益をどう比較するのか。
  3. 第三者委員会の認定を受け、何を見誤った、あるいは見誤っていなかったと考えるのか。
  4. 同じ事態を繰り返さないため、どの制度改革に賛成するのか。
 

不信任への反対は、直ちにセクハラの容認を意味しない。だが、後に重大な認定が出た以上、自らの政治判断について市民に説明する責任は残る。

 

問われているのは「村上派」という呼び名ではない

「村上派」は公的な会派名ではない。

議員を曖昧な陣営名で一括りにすれば、記事そのものが好き嫌いや選挙戦術に引きずられる。
本紙が検証するべきなのは、確認可能な政治行動である。

 
  1. 誰が続投論を述べたのか。
  2. 誰が調査に賛成し、誰が反対したのか。
  3. 誰が記名による説明を避けたのか。
  4. 誰が現在、自らの判断を検証しているのか。
 

市長は辞職した。次に問われるのは、その市長を監視する立場にあった議会が何を学んだのかである。

市長辞職をもって事件を過去にすれば、議会の判断は検証されないまま残る。



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