好評につき~口福探訪シリーズ⑥~カレー編

 ◆三分ほど経過したのち、オーダーしたダブルカツカレーが笑顔を添えて配膳された。爽やかな声と笑顔は、価値ある無料のトッピングである。芳醇な香りに抱かれた皿からは、ルーが溢れそうである。カツの厚みは2センチ程度あり、しかも衣で偽装したボリュームでは無い。早く食したいと言う欲望をグッとこらえて、先ずは撮影。しかしこのワンプレートを目の前に、複数枚撮影する事は出来ず、たった一枚だけの撮影になってしまった。

  

【遂に実食_探していたあの味】

◆先ずはルーをスプーンに乗せる。想像以上に粘度が低い。即座に口に運ぶと、野菜系の甘味が舌を覆う。ここで水を含むと、通常であれば味覚が一時遮断されるのだが、このルーの場合、スパイスの辛味が呼び戻される。つまり最初の甘味に続いて、二種類の味が出現する。更にルーだけをもう一口。今度は最初の一口目で感じたような甘味が影を潜め、スパイスが粒だって感じられ、味の輪郭が立体的になる。 

◆次に、ライスだけをすくってみた。粘りを抑えたコメは一粒ずつが粒立ち、ハリとツヤが際立ち、尚且つ口の中で踊る、おかず要らずのライス。コイツは凄い。多分、ガス直火炊きの大火力で旨みをとじこめているものと思われる。新潟産と聞く。しかしこのサラサラ感は一体どのような工程を経ると出現するものか、或いは一定割合で古米が配合されているのか、謎は深い。

 ◆ここで初めて、ルーをライスに絡めて舌に乗せるとどうだろう。スッキリしたライスはルーをほどよく巻き込んで一体感が創出され、今度は旨みが口腔内に一杯広がり、これは三口目四口目も全く同じ感覚でずっと維持継続される。これは非常に珍しい。通常であれば、味に脳が慣れてきて、旨いと言う感覚が枯れるものだが。これは、正しい食材を正しい調理法で正しいタイミングで提供され身体そのものが喜んでいる証左と思われ、本能を呼び覚ますものである。

 ◆更に、ライスの上に鎮座する分厚いとんかつ。時間を調味料にした肉であろうか、その香りと食感はカツ専門店以上のクオリティーで、高齢者にも優しいものである。聞けば、チルド保存の上、二度揚げすることで食感と味わいにこだわっていると言う。欲を言えばカラシが別添であると嬉しい。

 ◆実は、味覚と嗅覚は疲労しやすい為、いくら美味しいものでも一口目が最も旨いと感じ

られても、以降は徐々に脳の興味対象は、味覚から満腹感獲得へと移行するものである。それ故、いくら美味しいと感じても飽きが来るのが普通であり、一般人が霜降り肉や大トロ鮨を多く食せないのは、大脳生理学的に自己防衛本能とも言われる。しかしここのカレーは皿に顔が写り込むまで、ずっとひたすら“旨いッ!”という感覚が継続される。

 【味と空気の調律】

◆美味しい!と、また食べたい♪とは無関係。美味しくても暫くはいいやと思えたり、逆にさほど美味ではないものの、また食べたいと思えるものもある。美味しいし、また食べたいと思えるものは、実はそう多くない。生きるために食事を摂取するのか、食事で生きる事を楽しむのか、人生で摂取できる食物の量には必然的に限りがある。食して感じたのは、素材の良さと手間と時間で味付けする、いわばすっぴん美人。化学調味料や合成保存料などの、所謂厚塗り特殊メイクが多い中で、一際委細を放つ。

  

◆ところで、↑これが何だかお分りになるだろうか。前述のカレーは、フラッシュを焚かないでも綺麗に撮影できたのだが、ルーの水面に光が差し込み、瑞々しい雰囲気が出ていた秘密がこれである。つまり、カウンターでカレーが隠れLED照明でくっきりとライトアップされる。照度も色温度も絶妙。心憎い演出である。

 ◆居合わせたどの客も、うなずきながら食する姿が印象的であった。そう来たか!と思わせ、食べた事は無いがナゼか懐かしい。つまり、身体そのものが自然と欲するような感覚に支配される。ノド越し爽やかなカレーなど、誰もが未体験であろう。その「空気」が『食う気』にさせる店内の空気感と共に、是非一度試されたい。筆者として紹介責任を履行できる素晴らしい味わいである。ただし習慣性が高い事には注意が必要である。

 店舗情報

・北九州市小倉北区堺町一丁目9-22

・熱あつカレー サンタクロース亭

・093-967-7225

※営業時間 11時~14時までの三時間