舐められた北九州市議会

逆線引きの経緯と撤回については、弊社記事で報じてきたが、これまで 八幡東区の当初候補地 面積292haを 30%程度に、建物棟数約5400棟を 5%程度に縮小(対象人口が約1万人から約430人に縮小)する修正案が公表されていた。

残りの6区については4月に公表するとされていたが、19日の地元紙朝刊でその変更内容が明らかになった。対象人口は、
小倉北区 約2200人→ 0人
小倉南区 約1000人→ 0人
八幡西区 約2500人→ 0人
戸畑区 約400人 → 0人
門司区 約12900人→約10人
若松区 約6200人→約5人
と変更され、当初の1%に大幅減ということだ。

報道はスクープで 確かに有益ではあるが、市の情報の出し方に問題があるのではなかろうか。
記事には、21日の市議会建設建築委員会で修正案を報告するとある。
北九州市議会が行政から相当舐められているか、それを敢えて許しているのか定かではないが、重要事項を議会より先に一部マスコミに漏らすというのは、県議会や福岡市議会では考えられないことだ。



 

責任の所在不明「逆線引き撤回」

弊社記事「逆線引き、事実上の撤回に(令和4年2月6日)」で既報の通り、北九州市が進めてきた スジ悪の逆線引きは修正を余儀なくされ、2月9日に開催された市議会建設建築委員会において 所管する建築都市局都市計画から 「区域区分見直し」の報告が行われた。

そこでは八幡東区の当初候補地 面積292haを 30%程度に、建物棟数約5400棟を 5%程度に縮小する修正案を3月に公表すること、他の6区についても4月に公表することが説明されている。

ところが、この重要な方針変更に決裁文書が存在しないことが判った。
ある市民の方が2月15日付で、方針変更に係る決済事蹟について情報開示請求をしたのだが、3月1日付で 「行政文書は不存在」という回答があった。
何でも「起案文等を用いた決裁行為ではなく、局内の関係者における協議により作成したものであるため、請求に係る文書は作成も取得もしておらず、保有していない」というのが理由という。

まずもってこれほどの方針転換に起案文等がないというのは有り得ない。
局内の関係者という表現だが その範囲は曖昧で、建築都市局の職員だけで決めたということか。
仮にそうだとしたら、これほどの重要決定事項を局内だけで決めていいのだろうか。
肝心なところをぼかし 課長か部長か局長か誰の責任で決めたか分からない方針を、議会やマスコミは聞かされたことになる。

極端な話、後になって「決裁していないから 逆線引き案の修正などしていません」と開き直る可能性だってあるかもしれない。
責任を取ろうとしない 北九州市の幹部の無責任体質には ただただ呆れるばかりである。

現在開催中の2月議会の本会議では、逆線引きについて13人の議員から修正案を前提にして様々な質問がされている。
市長も修正案を元に答弁に立っており、責任を免れることはできない。

逆線引き、事実上の撤回に

北九州市の「逆線引き」が事実上撤回されることになった。

これまでの経過については弊社記事 「スジ悪の逆線引き ~北九州市都市計画~」をご一読頂きたいが、予想した通りの 「落としどころ」に収まった。

一昨年来、八幡東区を皮切りに住民説明会が続けられてきたが、憲法問題を含め問題が多かっただけに市民から想像以上の批判が集まり、修正せざるを得ない状況に追い込まれた格好だ。

当初計画では下図の通りだったが、八幡東区について 当初予定面積 約292haから 70%を除外し、建物棟数 約5400棟のうち 5%にとどめるとしている。
他の6区についても同様に 大幅に縮小する予定という。

都市計画マスタープランに則って進めてきた目玉政策の転換は異例、北橋市長・今永副市長にとっては苦渋の決断だったろう。



 

以下、参考までに、弊社の過去記事(昨年12月10日付)の一部を 再掲する。

騒動の落としどころ

北九州市は、逆線引きの都市計画決定を令和5年度に公告するとしている。

しかし、市民から反対の声が大きくなる中、国交省の確固たる後ろ盾も 憲法問題をクリアする保証もないことが 判ってきた。
「逆線引きは現実的ではない」というのが 国の本音、北九州市の 3万5200人を対象とした壮大な実験を遠くで眺めているだけ、責任を負うつもりはない。

こうした状況で、市が 逆線引きを強行する賭けに出るだろうか。
対象者の中から 裁判に訴える市民は少なくないはずで、裁判で負ける可能性が1%でもあるなら 強行は難しいと思われる。

行政が一度打ち出した政策を中止もしくは修正することは なかなかできないが、本件に関しては 早急に「落としどころ」を見つける必要が出て来るだろう。
最終的には、「車が上がる道路がない家」、「土砂災害のレッドゾーン」、「空き家が多数」など条件を厳しくして、地域の全世帯の了解が得られる場所に絞り、世帯数一桁でも「市が逆線引きをやりました」という実績を作って良しとするしかないのでは。

問題は、財産価値への影響が出ている現状をどうするかだ。
市には早めに方針転換を打ち出し、影響を最小限にとどめる努力が求められるが、北橋市長と今永副市長の決断に注目したい。

スジ悪の逆線引き ~北九州市都市計画~

「逆線引き」、あまり聞き慣れない言葉だが、市街化区域にある地域を市街化調整区域に編入すること、つまり、これまで開発してよかった場所から抑制する場所に変更することを意味する。
北九州市の大規模な「逆線引き」の取り組みは、ある意味 全国の自治体も注目する画期的な試みで、その覚悟は相当なものである。

しかし、現実はそう甘くはない。
机上で決めた構想は、憲法違反の可能性もあり制度設計が不十分、北橋市長がなぜ、このスジ悪の施策を進めようとしたのか、また どういった問題があるのかなど取材した。

逆線引きを決めた背景

北九州市内を車で走ると、よくもこんなところに建てたというくらい、小高い場所や崖の上に住宅が建っているのを目にする。
製鉄業等で日本の高度経済成長を支えてきた北九州市であるが、平地が少なく斜面を削って住宅開発をしてきた歴史がある。

時は過ぎ 産業構造が変わり、人口は昭和54年の106万人をピークに今年10月1日時点で93.2万人にまで減少している。
特に交通の便が悪い斜面地の住宅地については、空き家や空き地の増え方も 平地に比べ速いという。

そして昨今の豪雨災害、毎年全国各地で土砂災害が頻発している。
北九州市には、県が指定している「土砂災害警戒区域」が1300ヵ所ある。
平成30年7月の西日本豪雨では、門司区で土砂に巻き込まれ死傷者が出たほか、住宅被害は全半壊29棟を含む413棟、崖崩れ407件と甚大な被害に見舞われた。

こうした背景があって、市はこれからの人口減少等を見据え都市計画を見直し、これからはコンパクトなまちづくりの推進していく方針を決め、その中で、災害の危険性があり災害対応力が低下している斜面地住宅地については、より安全で安心な地域への居住誘導が必要とし、逆線引きを行うこととなった。


対象は3万5200千人

北九州市は平成30年3月に「北九州市都市計画マスタープラン」を改定、同年12月から令和元年10月まで都市計画審議会「区域区分の見直しのあり方に関する専門小委員会」で逆線引きのあり方について検討を行い、その答申を受けて同年12月に市議会建設建築委員会へ報告した後、「区域区分見直しの基本方針」を策定、その中で 見直し候補地の一次選定を公表(下図)した。

委員会に報告したということで、議会も形式的に承認した形になっているが、この時点では 議員が 事の重大さを理解していなかったと想像する。



令和2年3月、市は 各区別に 詳細な二次選定の結果を発表した。
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/ken-to/07900339.html

驚いたのはその規模、対象となる人口と建物数の多さだ。
面積合計が約1157ヘクタールと市内の総面積の約2%、対象となる人口が約3万5200人、建物数が約1万8000棟となっている。
市は、住民や土地所有者の方々への説明を行った後、意見を集約して修正案を作成し、再度説明を行って意見を聴取した上で都市計画決定の手続きを経て、令和5年度に都市計画決定を予定しているという。

令和2年度、市が最も早く説明会の開催を始めたのが八幡東区だった。

見直し候補地の2次選定


八幡東区から始まった説明会

殆どの住民は、都市計画や区域区分という行政用語を知らずに生活している。
市街化区域が市街化調整区域に変わると、生活にどのような影響があるのか想像がつくはずもない。
令和2年度、市は八幡東区内で50回、約2000人に対して説明を行ったとしているが、同区内の対象となるのは約1万人、はるかに及ばない。

説明会では市の担当課長から、⾒直し地域で
① 概ね30年後を目途に、ゆるやかに無居住化及び更地化(緑地化)を進める
② 現在の居住者は、現状のまま居住を継続することは可能。住み替えを積極的に促進するものではない
③ ⾒直し後も、当面は⼀定の⾏政サービスを維持、地域コミュニティの維持等も配慮
などの考え方が示された。

また、「所有者地の価格暴落、移転費用、受け入れ市営住宅、市への土地の売却・寄付等について特段の施策・助成・補助・補償・救済制度を新設する考えはなく、既存の制度のみで対応する」との説明があったという。

令和5年度に「逆線引き」を決定するという発表に、地元住民は驚き、怒りの声を上げるも、「決まったこと」として職員が説明、納得できるはずもなく住民らの不信感は募るばかりだった。

こうした中、令和3年の3月議会に、一部の住民から「市街化区域から市街化調整区域への見直しの撤回について」という陳情書が提出された。


資産価値の下落に怒り

令和元年12月、市が逆線引きの一次選定場所を公表すると 早速不動産価格に影響が出始めたという。
その3ヵ月後の令和2年3月には、二次選定場所として具体的に絞り込んだ場所を公表、そのことで対象となった地域の価格下落は加速した。

今年3月16日付で市議会に提出された陳情書には、昨年11月に行われた説明会で 出席者から出た意見が添えられていたが、住宅の資産価値が下がることや移転補償についての質疑が大半を占めた。

「やっと住宅ローンの返済が終わって財産が出来たと思ったのに激減する」
「不動産屋の売却が取り止めになった」
「逆線引きのことを話したら 評価額2800万円の土地を800万円で売ることになった」
「新聞報道され既に風評被害が出ている」
「ローンで家を新築したばかりだが、激減した土地にこれから30年もローンを支払い続けることになる」
「土地を抵当にして銀行とローンを組めなくなるのでは?」
「売値が叩かれて移転しようとも移転先の家が買えない」
「マンション新築に200坪の土地を買ったが建築計画をストップした」
「市営住宅に入りたいが、家が売れなければ市営住宅に入れない仕組みになっている」
「市の施策として誘導しているのだから、特別な救済措置や市営住宅政策を新設すべきだ」

この他にも、
「なぜ八幡東区が最初なのか?」
「なぜ八幡東区役所周辺は土砂災害警戒区域なのに除外されたか?」
「見直しは地元の合意が前提としているが、自治会等は個人の財産の権利義務まで住民が委ねた組織ではない」
「国土交通省の了解同意は取っているのか?」
「財産が減少することに憲法上問題はないのか?」
など、疑問や怒りの声が書かれていた。

そして、陳情書の中で 鋭い指摘がされていたのが「説明会質疑応答記録」についてである。

北九州市区域区分見直しの基本方針(概要版)の イメージ写真


国との協議記録なし

前述のように、逆線引きは 不動産価値に直接影響を与えている。
問題は、この逆線引きが 憲法で保障されている財産権を侵害していないという明確な根拠があるかだ。
陳情書には、説明会の席で 都市計画課長が述べた内容についての指摘がある。

市が作成している「説明会質疑応答実記録」の中で、都市計画課長が「国土交通省の肩に問い合わせをして、憲法上そういう(財産権の侵害の)問題はないということで、ご回答を頂いている。国交省に対して、私が問い合わせをしている。私が行った。」とある。

そのような重要な確認なら文書で残っているはずと考えた住民が、その文書について情報開示請求をしたところ 「関係書類は作成も取得もしておらず 保有していない」という回答だったという。

問い合わせた相手は、国交省の都市計画課の 課長より役職が下の調整官ということも判った。

訴訟リスクも想定される制度改正を行う場合、通常であれば責任の所在をはっきりさせるために、国にお伺いをたてるのが地方自治体である。
それを文書ではなく口頭で確認した、しかも 大臣や事務次官クラスならともかく、係長より上の調整官、というのには 驚いた。

こうした中、日本不動産学会シンポジウムで、国土交通省都市局長が逆線引きについて言及していたことが分かった。


説明会質疑応答実記録より

 

国交省都市局長の見解

「コンパクトシティの行方 ~ 都市の消失をとめられるのか・様々な視点から見たコンパクトシティ ~」と題した 日本不動産学会シンポジウム(令和元年度科学研究費助成事業)が、令和元年9月に開催された。

コンパクトシティの行方(日本不動産学会シンポジウム)

その中で、政策研究大学院大学の福井秀夫教授は、
「財産価値をゼロに近くするような線引きは 違憲の判例はないが 違憲の疑いが濃厚。
元々取得した価格をさらに減らすような土地利用規制がかかったら、部分収用として減価分について完全に補償金を支払うのが 本来の憲法の解釈
という趣旨を述べている。

そして、注目すべきは国土交通省の北村知久都市局長の発言だ。

逆線引き自体はできるが、現実問題として容易にできるわけではない。
将来的には、今後コンパクト化が進んでいき、市街化区域の外縁部の方が、事実上調整区域と同じような段階になる可能性があり、逆線引きして少しずつ区域を減らしていくこともあるかもしれない。
逆線引きをかけて、新たな開発はしてはだめというのと、住んでいる人を無理やり住めなくするっていうのは、さらにハードルが高い。
立法論として合憲判決が出るかもしれないが、なかなか現実的ではない。

以上のことから、現時点では 逆線引きによる財産権の侵害について、最高裁としての判断がないことが分かった。
しかも、国交省局長の発言を聞く限り、逆線引きは積極的に進められるものではないという考えの様だ。

最高裁判断がないにも拘わらず、市は国交省の調整官に憲法上問題ないことを確認したとして、財産価値の下落に何の補償もないまま進めようとしているが、国の公式見解ではないことは間違いない。


市議会は何をしている?

逆線引きの住民説明会は 八幡東区を皮切りに他の区でも始まっているが、不動産価格に影響が出てきたことで住民から 怒りの声が噴出、市議会議員の対応にも批判が出始めている。

市は、令和元年12月に「区域区分見直しの基本方針」と 見直し候補地の一次選定について、市議会 建設建築委員会に報告しており、議会の了解を得ているとの立場である。

直前の11月にも、都市計画審議会において同様の内容が報告され全会一致で承認しているが、審議会には議長・副議長と各会派の代表者が委員として名を連ねており、ここでも 議会が認めた格好となっている。
但し、この時は 対象地域が明らかになっておらず、方向性として同意されたに過ぎなかったという。

12月に委員会報告があってからは、共産党会派はあまりにも対象範囲が大きかったことから、その後は一貫して反対している。
市長寄りの他会派は、「反対ではないが慎重に進めるべき」という姿勢だったが、説明会が進むにつれ 住民の反対の声が大きくなってきたことで、無視できない状況になってきた。

そして9月議会、「市が市税の減収についての審議資料の隠蔽を図った」として特別委員会の設置を求める陳情書が 新たに提出された。


市議会に審議資料を隠蔽?

9月議会の陳情書の指摘を要約すると次の通り。



住民説明会では市職員が「固定資産税をふまえて4億円の減収になることを想定している」と説明している。
しかし、令和3年9月議会における日野雄二議員の一般質問で税収への影響を尋ねたのに対し、都市計画局長が「税収減は否定出来ないが、どの程度の影響を及ぼすかを見込むことは難しい」と答弁している。

情報開示請求で取り寄せた都市計画課作成の資料によると、
八幡東区(292ha  5400棟)で 固定資産税 933万6000円、都市計画税 7961万円、
市全体(1500ha 22000棟)で 固定資産税 4802万5000円、都市計画税 3億1063万4000円、
合計 3億5865万9000円が減収になる試算となっている。
市の事務は極めて杜撰であり、市議会に対して不誠実、かつ審議資料の隠蔽を行っている。

区域区分見直しによる市税収の減収は、市民と市政運営に影響を及ぼし、総務財政委員会においても審議されるべきで、本件についての特別委員会設置を審議してほしい。






住民への説明会では、試算に基づき 約4億円の減収になると説明しておきながら、議会の一般質問では答弁しないというのはどういうことか。
議会も舐められものだ。

ちなみに、今12月議会では、市民から「市議会本会議における市の虚偽答弁についての経緯説明並びに陳謝について」という陳情書が提出されている。
市議会は北橋市長に対し、虚偽答弁の経緯を明らかにし陳謝させるべきと手厳しい内容だ。

住民に減収額が4億円と説明したことと、その根拠となる試算が存在したことは事実である。
虚偽答弁があったのであれば、市議会を冒涜し 市民を欺いたことになり、議会として曖昧にしたまま終わらせることはできないだろう。
市長寄りの会派が多数を占める市議会で、どのような審査が行われるか 市民も注目している。


市長・副市長のスタンドプレー

八幡東区には、土砂災害の危険区域で 車で上がって行けない民家があり、そして住民から市街化調整区域に戻して都市計画税がなくなれば助かるといった声があったのは事実だ。
そのため、都市計画審議会や市議会においては、「慎重に進めること」を条件に承認されてきた経緯がある。

しかし、蓋を開けてみると 対象は市内全域、3万5200人と あまりにも広範囲に亘る。
そして、説明会を進めていくうち、憲法問題をクリアしていないことをはじめ 制度設計が穴だらけであることが明らかになった。
このため、9月議会、12月議会では、地元住民からの声を受けて 市長派の議員からも 強い反対の声が上がっている。

「過去に 市が 市街化調整区域から市街地に編入し 移住を促進したことで 住民は居を構えてきた。それを市の政策で 逆線引きして財産価値が下がったとなれば 市の責任問題、裁判では負ける。」
議会からは こうした声も聞こえてくる。

このスジ悪の逆線引きは、北橋市長と今永副市長のスタンドプレーと言われている。
説明会では住民からの罵声怒声、気の毒なのは矢面に立つのは職員たちだ。
職員の苦労を尻目に、国からの援護射撃は全くない。

国交省も 北九州市の逆線引きの取り組みを知らない訳ではない。
だが、前述の様に、国交省局長がシンポジウムで「逆線引きは現実的ではない」と言った言葉に 国の立場が集約されている。
その証拠に、北九州市との間で 逆線引きについての公文書が一つも残されていない。

全国でも例を見ない、でも多くの自治体がやりたい逆線引き、市のトップは 功を焦って墓穴を掘ったのではなかろうか。


騒動の落としどころ

北九州市は、逆線引きの都市計画決定を令和5年度に公告するとしている。

しかし、市民から反対の声が大きくなる中、国交省の確固たる後ろ盾も 憲法問題をクリアする保証もないことが 判ってきた。
「逆線引きは現実的ではない」というのが 国の本音、北九州市の 3万5200人を対象とした壮大な実験を遠くで眺めているだけ、責任を負うつもりはない



こうした状況で、市が 逆線引きを強行する賭けに出るだろうか。
対象者の中から 裁判に訴える市民は少なくないはずで、裁判で負ける可能性が1%でもあるなら 強行は難しいと思われる。


行政が一度打ち出した政策を中止もしくは修正することは なかなかできないが、本件に関しては 早急に「落としどころ」を見つける必要が出て来るだろう。
最終的には、「車が上がる道路がない家」、「土砂災害のレッドゾーン」、「空き家が多数」など条件を厳しくして、地域の全世帯の了解が得られる場所に絞り、世帯数一桁でも「市が逆線引きをやりました」という実績を作って良しとするしかないのでは。

問題は、財産価値への影響が出ている現状をどうするかだ。
市には早めに方針転換を打ち出し、影響を最小限にとどめる努力が求められるが、北橋市長と今永副市長の決断に注目したい。

ハザードエリア移転、市の責任を問う陳情書

高潮5メートルのハザードエリアに 済生会病院の移転が計画されている問題で、北九州市の保健福祉行政を質す陳情書が提出されたことが判った。

「5m浸水想定区域に済生会病院移転」で書いた通り、済生会八幡総合病院が移転を予定している八幡西区則松地区は高潮5メートルの危険箇所、北九州市保健福祉局が開発許可について審査する開発審査会に対し、「移転は望ましい」という趣旨の副申(意見書)を提出している。
想定を超える災害が頻発している昨今、地域医療の中心を担う病院の立地場所の安全面は最優先事項、新規に病院を建設するのだから 候補地がハザードエリアかどうかは当然議論されるべきだった。

しかし、済生会はまとまった安価な土地ということに飛びつき、ハザードエリアの危険性については二の次、2メートル程度嵩上げして地下を造らない構造にすることで対応できるとして、計画を策定し開発許可を申請した。

問題は北九州市の保健福祉局が、なぜ ハザードエリアにも拘わらず移転が望ましいとしたかということだ。
副申では、「八幡西区の病床数が少ないので地域医療のバランスの観点から 移転は望ましい」という理由が示されていた。
しかし、八幡西区は全国平均以上の病床数があり、バランスに言及するなら 若松区や小倉南区は平均以下の水準、保健福祉行政の公平性という見地からすると、若松や小倉南への移転を推奨するべきだった。
副申は、説得力に欠け、都合のいい箇所を切り取った内容になっているが、ハザードエリアへの移転の危険性やデメリットについては 全く触れていない。

陳情では、① ハザードエリアに移るメリットがデメリットを上回るならその根拠を示すこと、② 5メートルの浸水の際 何階まで被害があるのか、その他の被害について具体的に示すこと、③ 浸水で病院機能が停止したとき 市はどう対応するのか説明すること、 ④ 浸水で人的・物的被害が出たとき市の責任を説明することなど を求めている。

閉会中審査となると思われるが、保健福祉局がどのように回答し、また各議員がどのような質問をするか 注目したい。

5m浸水想定区域に済生会病院移転

■ 9月議会で問題視

8月の豪雨で深刻な被害を受けた佐賀県武雄市、地域医療の拠点となっている順天堂病院は最大1メートル近く床上浸水し、一時孤立状態となった。
2019年10月の台風19号の際は、全国60病院で 浸水・停電・断水等の被害があった。
想定を超える自然災害が当たり前になった今、病院の立地場所は一つの課題となっている。

そのような中、北九州市八幡東区の 済生会八幡総合病院が移転計画(2022年4月着工、2024年8月竣工予定)を進めているが、移転先の八幡西区則松地区がハザードマップで5.0mの浸水想定区域に該当していることが、北九州市の9月議会でも取り上げられ問題視されている。

社会福祉法人恩賜財団 済生会は、明治天皇の勅語に由来する慈善事業団体で、医療機関99施設と福祉施設280施設を運営しており、そのうち 病院・診療所は 法律で公的医療機関として位置付けられている。
総裁は秋篠宮皇嗣殿下、言わば由緒正しい公的な病院が、何故わざわざ危険な場所に移転しようとしているのか、その経緯等について取材をした。

八幡東区にある同病院は、2015(平成27)年に実施した建物の耐震診断の結果、基準を満たさないことが判り、移転建て替えの検討を始め、複数の候補地の中から八幡西区則松地区の市街化調整区域を最適と判断するに至った。
2016(平成28)年から市や地元関係者らと協議を重ね、2018(平成30)年6月に北九州市開発審査会において 開発計画が承認され、2020(令和2)年3月に市が開発許可を出している。

経過はざっと以上の通りだが、ここまで 地元医師会や医療機関が反対しているにも拘わらず、北九州市も積極的に移転を後押しして進められたことが判った。

浸水した順天堂病院(佐賀県武雄市、2019年8月)

 

■ 八幡医師会の反対をスルー

済生会八幡総合病院(以下 済生会)は2016(平成28)年以降、移転予定地の八幡西区医師会や則松地区及び隣接する永犬丸地区の医療機関と 調整を図ってきたという。

同地区には3つの私立病院があり、公的医療機関と位置付けられている済生会(350床予定)が移転してくると競合が生じるが、済生会は社会福祉法人として税制面で優遇されていて、競争となると民間病院は不利になる。
公的医療機関の民業圧迫となり、地元の 3病院からは反対の声が上がっていた。

しかし、済生会の北村昌之院長が地元新聞社の取材に対し、「医療も競争がなければだめ。過剰かどうかは患者が決める」と述べている。
その言葉は、「生活困窮者を(すく)う」「医療で地域の(いのち)を守る」という目標を掲げる済生会の精神とはズレがあり、挑戦的に聞こえる。

また、八幡医師会も、「同地区における医療供給体制は充足しており、移転に賛成できない」旨を済生会側に伝えていたが、双方の妥協点を見い出せないまま、済生会は淡々と移転計画を進めていった。

2017(平成29)年8月、済生会は 北九州市に開発許可を申請、開発審査会のテーブルに上がった。
同時に 北九州市保健福祉局が 建築都市局宛に、開発審査の参考として副申書を提出している。

その中に、病院移転のやむを得ない理由として、「将来の医療需要と医療機関の行政区間の配置バランス」を挙げている。
人口1万人当たりの一般病床数は 八幡東区 210.4床、八幡西区 84.9床(北九州市全体で104.3床)で、八幡西区は今後も医療需要が増加することが予想され 移転はバランスを改善する観点から望ましいとしている。

この点について 9月議会の中で、「全国平均は 70.3床、八幡西区は平均を上回っており、バランスに言及するなら 小倉南区は 61.5床と少なく、市は 小倉南区への移転でバランス改善を図るべき」という指摘があった。
対する保健福祉局長の回答は、済生会が八幡西区への移転を希望していることが前提となっている点を強調し、市全体の医療の公平性に言及することはなかった。

地元医師会や病院が移転に反対している中で、保健福祉局が 「移転が望ましい」という趣旨で 都合のいいデータを添えて副申書を提出しており、行政として公平性を欠いていると言われても仕方がないだろう。

計画の修正を重ねた結果、2018(平成30)年6月、4度目の開発審査会でようやく承認された。
地元病院が 「開発審査承認決議の撤回」を申し入れるも、撤回されることなく 2020(令和2)年3月、北九州市は正式に開発許可を出した。


保健福祉局から開発審査の参考として送付された副申書

 

■ 院長が知人から紹介された移転地

少し耳を疑った。
済生会移転地とその周辺に現職の北九州市議が所有する土地があるというのである。
繰り返すが、済生会は公的医療機関であり、北九州市が開発審査会で承認を得るため、「移転は望ましい」という一歩踏み込んだ副申書まで作成している。
そこに市議の土地があるというのは いったいどう訳だろう。

済生会が作成した「候補地選定の経緯」という資料がある。
そこには、当該移転地が、「2015年末に耐震診断の結果が出た後、八幡西区内の 4ヵ所を検討するも条件が合わず(要約)、知人から則松地区にかなりの面積の田んぼがあると聞き、地図で探した場所」と記されている。

その則松地区を紹介した知人というのは、済生会で放射線技師として勤務経験がある北九州市議のS議員である。
2018(平成30)年3月、まだ済生会が開発許可申請を出す前のことである。
S議員から 移転に反対している 病院長N氏に電話が入った。

S議員は、「自分(S市議)が、移転候補地についてのリストを 済生会の北村院長に渡したが、それを渡す前に T市議より『則松(現在の移転地付近)もリストに入れてくれ』と言われリストに加えた。自分は他の場所がいいと思うが、北村院長は則松をとても気に入ったようだ」と話したという。

つまり、北村院長が S議員から渡されたリストの中から選んだ移転地は、T議員がリストに加えてくれと言った則松地区の地図で探した場所で、その中にたまたまT議員が所有する土地が含まれていたことになる。
もちろんT議員は、地域医療に貢献するために 大切な土地を やむを得ず提供したものと思われる。



 

■ 開発計画に現職市議の土地

下図は、済生会が開発審査会に提出した開発計画の平面図である。
病院用地ほか、駐車場、公園・広場、道路・歩道等の配置等がわかる。



この計画図を航空写真に当てはめてみると下記のようになるが、あくまで大雑把で道路の部分などは正確とは言えないかもしれないので ご容赦願いたい。
このうち、黄色の部分について 済生会は2020年3月24日付で、本部理事長名で福岡県知事宛に土地収用法事業認定の申請をし、5月15日付で認可を受けている。

水はけの悪かった農地だったが宅地並みの価格になり、2020年8月から9月にかけて、全ての地権者との売買契約が結ばれている。
済生会が取得したのは黄色の部分、その他、オレンジ色の駐車場部分と緑の公園部分は、50年間の定期借地権契約になるという。



そして、病院用地の中、及び定期借地権契約予定の土地の中にT市議所有の土地があったという事実もあるが、これ以上のコメントは差し控えておく。



 

■ ハザードマップの危険区域

さて、本題の ハザードマップ浸水想定区域についてである。
耐震構造に問題のある済生会が移転を急ぐ理由は十分理解ができる。
また、ここまで時間をかけて 開発許可、土地の売買契約等を進めており、今さら引き返すことはできないというのも分かる。
しかし、昨今の自然災害の凄まじさを見るにつけ、済生会も後悔しているのではなかろうかと考える。

まず、北九州市が作成した則松地区のハザードマップをご覧いただきたい。



このマップの中央、ピンクになっているところは、今までにない氾濫の際、想定浸水深が最大3.0mという地域である。
そして、済生会の開発計画区域と重ねてみたのが下の図で、病院予定地と駐車場予定地が見事に重なる。



済生会の開発計画では、病院用地は標高 1m、そこに 2mの擁壁でかさ上げをし、地下に階は設けない設計で、最大浸水深 3.0 m に対応するということだ。
当初から浸水することを想定しているというのも 不思議だ。

病院は 2mかさ上げしても、では駐車場(約800台)用地はどうするのか。
周囲の標高は 標高 0~2mとなっており、 3.0mの浸水深だと 車は水没してしまい、救急車は近づけない。
昼間 河川が氾濫して 急に浸水すれば 医療従事者の車は水没し身動き取れなくなる。
夜間であれば、翌朝出勤してきても 病院に近づけず、入院患者は孤立するだろう。

 

■ 考慮されていなかった高潮の危険

更に、国の関係各機関が作成した防災情報をまとめて閲覧できるハザードマップポータルサイトというのがある。
下の図は、同サイトで確認した則松地区の高潮浸水想定区域(福岡県作成)であるが、台風による高潮によって想定される浸水深が、3.0~5.0mとされており、大変驚いた。

ハザードマップポータルサイト(八幡西区則松付近)はこちら

高潮の被害について調べてみると、興味深い論文を見つけた。
1999(平成11)年9月に山口県宇部市を襲った台風18号は高潮を発生させ、宇部港で最高潮位 5.6mを記録、二級河川の真締川河口から1.5km、氾濫した水が 平均標高 2.5mの 山口大学医学部付属病院敷地にも侵入し、床上1.2mに達したという。
その記録は下記サイトで読むことができるので参考にしてほしい。

台風9918号による大学病院の高潮浸水被害と緊急対応の検討

現在の宇部市の高潮ハザードマップを見ると、浸水深が 4.0~5.0mとされており、 再び高潮が来ると心しておくべきだろう。

さて、済生会の移転地、高潮時の「浸水深3.0~5.0m」についてである。
宇部市の例を見ても、ハザードマップで示した通りに浸水すると考えるべきで、則松地区においても 5.0mは覚悟しておくべき浸水深であるということが言える。

知ればしるほど 危険箇所ということが分かるが、福岡県、北九州市に その認識について尋ねてみた。

現在の宇部市の高潮ハザードマップ


■ 危険区域についての議論なし

高潮ハザードマップで 3.0~5.0mという危険区域に済生会が移転しようとしているが、なぜ誰も止めないのだろうか。

昨年6月、都市再生特別措置法等の改正が行われ、近年頻発・激甚化する自然災害に対応するため、災害ハザードエリアにおける開発を抑制することが決まったが、施行は2022(令和4)年4月1日、それ以前に遡及しない。
前述の通り、済生会移転の開発許可は昨年3月に下りており ギリギリ滑り込んだ格好だ。

まず、災害危険箇所の則松地区に移転を希望しているのは済生会である。
済生会が対策として上げているのは、2mのかさ上げと地下階を造らないということだが、高潮時には 3.0~5.0m で対応できていないということが分かっている。

だとすれば、行政から待ったが掛かってもよいのではなかろうか。
この病院移転に関わった行政の部署は下記の通りである。



上記以外で、最も関わったのは 北九州市 開発審査会である。
驚いたことに、多くの役所の部署が関わっているが、危険区域への移転についての是非は一度も協議されていない。
あるとすれば、市街化調整区域への移転を審査する開発審査会かもしれないが、現行の法律に危険箇所への移転を制限する規定がないため、テーブルに上がっていない。
移転を申請する者がいたとしたら、どんな危険箇所だろうと 法律に則って審査し、問題なければ許可するということ、いわゆる申請者の自己責任である。

一方で、災害対策を所管する 北九州市危機管理課、及び 福岡県防災企画課に この状況を尋ねてみたところ、「危険箇所への移転は望ましくないが、自分の課では いいとか悪いとかは言えない」と いずれも同じ回答だった。
つまり、ブレーキを掛ける部署は どこにも存在しないということだ。

Click → 来年4月施行の都市計画法改正の解説

 

■ 済生会本部はご存知か

開発許可、用地買収、地盤改良など、様々な工程で 費用も手間も掛けて計画は進んで来ており、行政も済生会自身も後戻りできないのは理解できる。

だが、少し待ってほしい。
例えば、土砂災害や鉄砲水、津波等の被害を受けやすい危険箇所に移転しようとする病院や社会福祉施設があった場合、行政が止めないというのはおかしくないか。
浸水が本当に起こった時、被害に遭うのは患者であり、医療従事者、災害対応や復旧作業で財政出動も出てくる。

済生会の第2期中期事業計画(2018~2022年度)には、「近年の大規模災害の発生状況をみると、激甚災害の発生が頻発しており、本会は、大規模災害に対応すべく、広域災害を想定した複数病院間で連携した災害医療訓練の実施、災害救援活動体制の整備を進める」とある。

その拠点となるべき新病院が、災害危険区域に移転しようとしていることは、総裁であられる 秋篠宮皇嗣殿下、炭谷茂理事長ほか 本部の理事会や評議会のメンバーの方は ご存知ないと想像する。

済生会におかれては、原点に帰り 危険箇所への移転計画の見直しを検討するべきではないか。

北九州市議会では、地元住民から「済生会移転の中止を求める意見書」が提出されたと聞く。
土地選定の経緯を見ると、市議がリストに加えてくれと依頼した土地が、結果的に病院用地となり、市が「移転が望ましい」という趣旨の副申を開発審査会に提出しているなど疑問点も多く、議会での審査も注目したい。

(了)

東区和白の塩田跡地 ~ 塩浜地区に大型商業施設が・・・!

アイランドシティに面した、塩浜地区に大型商業施設が開発されるようだ。

塩浜地区は文字通り、かつての塩田跡であり、約30ヘクタールにものぼる敷地は、市営地下鉄工事で排出された土砂置き場として利用され、地盤も安定したことから、西の奈多側には福岡工業大学の野球場が建築されている。

計画では海に面したエリアに商業施設が進出、北側のJR海ノ中道線に接する地区には戸建住宅団地が開発される模様だが、開発エリアと和白・奈多地区を走る県道59号線との間を、JR海ノ中道線が平行して走っているため、接続に難がありJR九州との調整が今後必要となる。

同地区は市街化調整区域であり、調整見直しは平成32年まで待たなければならないといわれているが、やり手の高島市長が控えているだけに、案外と計画推進は早いと期待する声が高くなっている。



写真は塩浜側から見た、JR海ノ中道線踏み切りと県道59号線