パワハラ企業のトンデモ裁判(後編)

大島産業の社員で 施工不良を起こした工事の「管理技術者兼現場代理人」だったK氏が原告となり、NEXCO中日本の社長や現場の監督員を被告として、2021(令和3)年9月16日付で福岡地裁小倉支部に提訴した。
内容は、工事の中で監督員から様々な人格否定発言などパワハラがあり、心を病んだので 慰謝料として二百数十万円の支払いを求めるというもの。
提訴から2年が経とうとしているところだが、8月7日に小倉地裁で口頭弁論が行われた。

昨今の裁判を含むハラスメントの争いでは、訴えた側が有利な風潮がある。
誤解を恐れず言うと、仮に契約上弱い立場の者に何らかの非があったとしても、その非が問題になることは少ないように思われる。
録音や文書の証拠が残っていれば 尚のこと有利だ。
過去の裁判の中でそれを学習し、今度は自分たちがそれを利用しようと考えたのではないかと 関係者は話す。

2018(平成30)年8月、当時の大島産業は十分な下請業者の確保もままならない中で、関東の工事を受注、施工箇所が多岐に及ぶも十分な管理技術者の配置ができず 工程進捗に大幅な遅れが出ていた。
見かねたNEXCO中日本側の監督員が、休日返上で本来受注者がするべき業務を相当量手伝ったそうだが、大島産業が増員せず一切改善が見られなかったということを、複数の下請関係者から聞いた。

被告の監督員の肩を持つつもりはないが、受注しておきながら やるべきことをやらない企業の責任はどうなるのか。
最終的には施工不良を引き起こしている。
工程が決まっているのに、書類も出さない、出し方も分からない、手伝っても増員しない、急に下請がいなくなる、最終的には工期が伸びる、となれば、監督する側として 厳しい言葉の一つも言いたくなるだろう。



そうした状況下で、とにかく早く対応してほしいとの思いで送ったメールの内容が、管理技術者を罵倒し人権を侵害したという主張なのである。
第三者調査委員会の報告書には、「一部不適切な表現は見られるも 施工上の問題が生じている中、大島産業に書類の提出や修正の催促をする目的として正当なものだったと言える」と記されている。

今回の訴えは大島産業の社員個人だが、NEXCO中日本側は個人が単独で訴えたと受け止めていない。
本裁判で NEXCO中日本にパワハラがあった事を一部でも認めさせて、建設工事紛争審査を少しでも有利に進めたい狙いがあると見ており、全面的に争う姿勢だ。

NEXCO中日本にとっては当該工事が政治案件化し、副社長以下コンプライアンスを軽視したことが ブーメランになって返ってきている。
改めて社内のガバナンスについて考え直す良い機会になったことだろう。

大島産業については、このような類の裁判はマイナスと見る関係者が多い。
パワハラや施工不良、更に建設業法違反で処分されるなど、これまで定着した負のイメージは簡単に払拭できるものではない。
地元で建設業と運送業の営業を継続していくためには、こうしたイレギュラーな技を使うのではなく、地道に地域貢献をしながら信頼回復に努めていくことが重要ではなかろうか。

- 了 -

パワハラ企業のトンデモ裁判(前編)

㈱大島産業(宗像市)のCEOが、雇用していたトラック運転手を丸刈りにして高圧洗浄機で水を噴射したり、川に入るよう命じて打ち上げ花火で狙ったりした写真をブログで公開、慰謝料等を求め運転手が提訴し最高裁まで争い、2019年9月、大島に約1500万円の支払いを命じる判決が確定した。
当時これほど壮絶なパワハラが現実に存在し、CEO自身のブログで公開していたことが話題になり、関係者に衝撃を与えた。

丸刈りや土下座、パワハラ認定 1500万円支払い命ず(朝日新聞 2018年9月15日)

その大島産業の名前が 再びマスコミに登場したのが 2020年10月、あの文春砲だった。
NEXCO中日本が発注した中央高速道の耐震補強工事で 鉄筋不足等の施工不良が発覚、国会でも問題となった。

実は、発覚後約3年が経とうとしているのに、NEXCO中日本と大島産業の間で 未だ決着に至っていない。
当時施工不良の対応に追われたNEXCO中日本は、同年12月に大島産業との契約を工事途中で打ち切ったのだが、補修工事の費用も含め 最終的な支払額が未だ決定しておらず、建設工事紛争審査会の裁定に委ねているという。

そもそも当該工事は、当初の契約金額と工期が 5回に亘り変更になっている異例の工事だった。
当初契約金額は 6億0242万円、落札率74%で 低入札調査の対象となるほど安く受注したのだが、最終的に13億2910万円と 2倍以上に膨らみ、工期も1年以上延期されている。

その原因は、第三者調査委員会の報告書に詳しいが、工期遅れは下請の手配ができなかったことや、交通規制の保安費に4億5000万円が請求されるなど不透明な部分が多いことが記載されている。



→ NEXCO中日本 E20 中央道を跨ぐ橋梁の耐震補強工事施工不良に関する調査委員会 報告書(2021年7月22日)

当時のNEXCO中日本の副社長への忖度もあり、そうしたことが有耶無耶になったまま 契約変更が行われたのが2020年10月23日、文春によるスクープはちょうどその直後のタイミングだった。
調査の結果鉄筋不足が現実のものとなり、12月には契約を解除、約4億円をかけてNEXCO中日本は自ら補修工事を行なっている。

NEXCO中日本としては、水増し請求など積算が不透明なことも第三者調査委員会で指摘されており、補修費用の請求を含め 適正な支払いをしたいという立場、大島産業は 契約解除はNEXCO側の都合なので契約金額を支払ってほしいということで折り合いがつかず、建設工事紛争審査会で審査をしている段階だ。

こうした中、例の鉄筋不足の現場担当だった大島産業の管理技術者K氏が原告となり、NEXCO中日本の監督員や支社長らに対しパワハラを受けたとして二百数十万円の慰謝料を求める裁判を起こしていることが判った。
パワハラが認定された企業の社員が パワハラ裁判を提訴しているということで、実に興味深い裁判だ。

ー 続 く ー

一生に一度の買物で後悔しないために

資材や人件費の高騰により新築の戸建てやマンションの価格も上がっている。
一生に一度の買物で誰もが失敗はしたくないが、入居後に欠陥が判明し泣いている人も少なくないという。
建築業者を選ぶ際、殆どの人はテレビCMが流れ 耳に馴染みのある大手ハウスメーカーに依頼するが、本当にそれでいいのだろうか。

2000年の創業以来、全国各地で2000件以上の欠陥住宅の調査を行い、被害者をサポートして心無い業者と戦ってきた ㈱日本建築検査研究所の岩山健一社長に話を聞いた。


 

- これまで調査された住宅で、どういう欠陥が多いですか?-

(岩山社長)
一番多いのは断熱材や防音材を故意に施工していないケースで、一般の人はこれを見つけることができません。
冬場に部屋が温まりにくいとか天井や壁に結露が多くてカビが発生しやすい時は断熱材、お風呂場の音が反対側の部屋に聞こえたり隣の生活音が異常に聞こえたりするのは防音材の施工不良が疑われます。

酷いケースでは、耐火基準を満たしていない材料で施工する業者もあります。
火災が発生しても延焼を防げない構造になっていて、命の危険もあり悪質です。
屋根裏だったり壁をはがさないと確認できないことをいいことに、法令違反と分かっていながらやるんです。
悪徳業者は目に見えない箇所で手抜きをして利ザヤを稼ぎます。

- 大手の業者なら安心という気がしますが?-

(岩山社長)
そんなことはありません。
戸建て・マンションに限らず、上場会社の建築物件でも 断熱材の手抜きなどは よく見られます。

- どうやったらトラブルを防げますか?-

(岩山社長)
入居前の検査をお勧めします。
弊社では、新築建売や中古住宅の瑕疵検査、これから作る場合は全体の監理、また、リフォームの検査や契約書類監査などを行っています。
設計通りに施工していない箇所が見つかったら、業者の責任で 手直しをさせます。




㈱日本建築検査研究所は、全国 多数のマンションの検査で 水漏れや傾きなどの施工不良の原因を突き止めた検査会社として知られ、 施工会社等を相手取った裁判での実績も多数。
マイホーム購入前、慎重を期す方は 同社に問い合わせてみては。


日本建築検査研究所公式サイト

もう限界? 傾いたビル

写真の3階建てビルが右側に傾いているのがお分かりだろうか。
右側のビルの3階部分にある換気扇フードに 壁が接触しているのが確認できるのだが、原因は右側の7階建てビルの基礎工事における施工不良だ。

2020年4月に竣工した同ビルは、設計・監理をデザイナーズマンション等で名の知られたM社(中央区桜坂)、施工は久留米市に本社を置くゼネコンH社が請け負った。
基礎工事が始まった 19年5月、3メートル程掘削したところで 左右の建物が  このビル側に向かって「ハの字」に傾き、床に亀裂が入ったり ドアが開かなくなったりといった不具合が起こり始めた。



建物のオーナーが 現場作業員に被害を訴えるも 無視して工事を継続、7メートルまで掘削し亀裂や傾斜が更に大きくなった 同年9月、ようやくH社が施工不良を認めた。
オーナーらは H社と補修やビル買取りや営業補償を行うことで協議をしていたが 20年8月、H社が破産申請しあっけなく倒産、現在は ビルの施主と M社に補償を求める訴えを起こす準備を進めているという。

オーナーらにとっては何の落ち度もない 貰い事故、逃げ得の H社を許すことができないだろう。
ビルの施主も想定外の施工不良で気の毒な面もあるが、選んだ設計・監理の事務所と施工会社が悪過ぎた様だ。



 

福岡市中央区の欠陥マンション

弊社が報じてきた福岡市東区の傾斜マンション「ベルヴィ香椎六番館」は、JR九州ら販売JVが今後解決に向けて協議していく事になったが、今度は福岡市中央区で構造上の問題がある分譲マンションについての情報が寄せられた。

同マンションは、平成12年竣工で15階建、天神へのアクセスも良く、眼下に大濠公園を見渡せる好立地で、相応の資産価値も見込まれることもあって即完売したという。
販売したのは大手不動産会社S、当時のパンフレットには、「ここにしかない。オンリーワンの選択。」「オーナーとマンションの幸福な関係が始まる。」というキャッチコピーが並んでいる。

しかし、同24年の大規模改修前後に数多くの欠陥が見つかり、建築基準法に適合しない構造スリットの未施工が発覚した上、基礎杭の支持力が不足している疑いが判明、住民は不安の中での生活を余儀なくされるようになった。
販売会社は施工不良の瑕疵を認め、希望者には時価で買い取り、構造スリットの無償施工、及び全戸に解決金の支払いという条件を提示している。

基礎杭の支持力が不足している点については、当初の構造計算時の時に比べ、支持力が7割程度に落ちているという専門家の意見もあるが、販売会社は支持力に問題ないという立場を取っており、管理組合が要望すれば有償で杭の補強を行うとしている。

現在、管理組合は販売会社の提案を全面的に受け入れるかどうか協議中であるが、一部住民からは建て替えを要望する声も根強く、残りの基礎杭の調査を専門家に依頼する案も出ており、解決にはもうしばらく掛かるだろう。

販売元や建設会社は高度な技術を駆使し全ての建物を竣工させているはずであるが、瑕疵が全くないとも言い切れない。
人生最大の買物となる戸建住宅やマンションに瑕疵が疑われたとき、最近はオーナーが専門家に調査を依頼し、見えない場所の欠陥や手抜きを発見できるようになってきた。
地場建設会社も、今後更なる現場管理を徹底し、細心の注意を払っていく必要があるだろう。



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