組織ぐるみで不祥事隠蔽 ① ~検察が告訴状受理~ [2023年1月28日07:00更新]

JR九州におかれては古宮洋二社長の下、九州の経済界を牽引する企業として 活躍してもらうことを心から願っている。

さて、JR九州グループ倫理行動憲章には、「すべてのすべてのお客さま・株主・取引先などに対し、誠実かつ公正で透明性のある事業活動を行なう」、「企業情報を積極的かつ適正に開示し、株主はもとより広く社会とのコミュニケーションにつとめます」とある。

しかし、青柳俊彦前社長の時代まではお役所体質が残っていたのか、憲章に反する判断をしてしまった様だ。
2018年(平成30年)、JR九州の子会社が 5億8000万円もの不良債権を抱えると同時に不適切な会計処理を行った。
社内の不祥事に止まらない 上場企業としての信用を揺るがす重大事案だったが、JR九州の幹部は最後まで公表することはなかった。

 

検察が告訴状受理

ところが昨年8月、当時のコンプライアンス違反に関連して子会社の前社長に詐欺罪による告訴状が出され、12月に福岡地検が受理し取り調べが始まっていることが判った。
これまで相手がJR九州だけに マスコミも及び腰だったが、受理されたことで一部の週刊誌が取材を始めた模様だ。

弊社ではこれまで、この問題について逐一報じてきたがJR九州は一切無視を続けてきた。
本稿では9回にわたり、子会社で5億8000万円が焦げ付いた経緯、2018年3月期の不適切な会計処理、法令違反、そして今後気になることなどを解説するとともに、客観的な第三者による検証の必要性について述べていく。



 

5億8千万円が回収不能に

5億8000万円が焦げ付いた子会社とは、JR九州住宅㈱(福岡市博多区吉塚本町13番109号 代表者 島野英明氏、以下JRJ)である。
民営化後の2000年(平成12年)にJR九州から分社独立し設立され、戸建て住宅の建築やリフォームを柱に業歴を重ね、福岡と鹿児島で基盤を形成した。

JRブランドで 年商20億円程度で推移するも、競合が激しく利益捻出までには至らず、現在も債務超過から脱却できずにいる。
しかし、親会社JR九州の取締役専務執行役員と執行役員の2名が非常勤取締役として経営に携わり、ブランド力で営業や下請との取り引きに大きな支障が出ていない。
それはこれからもそうだろう。

JRJは、2018年(平成30年)6月まで同社代表取締役だった松尾氏を相手取り、損害賠償(訴額 5000万円)を求める裁判を起こし 争ってきたが、今月調停手続きで合意が成立したばかりだ。
その裁判記録から5億8000万円が回収不能になった経緯を知ることができる。
訴状の内容を要約すると次の通り。




2017年(平成29年)5月、JRJは筑後市と糸島市のタウンハウスの建築業務を 施主であるエステート・ワン㈱(代表者 新原健造氏)と契約、請負額合計 7億9628万4000円(税込)で、着工金30%、中間金20%、完工金50%の割合で支払いを受けることになっていた。

エステート・ワンからJRJに着工金が支払われ 工事は始まったが、その後約束の期限までに 中間金が支払われなかった。
しかし、工事は続けられ2018年(平成30年)3月の完成間際になって、エステート・ワンから6月末に中間金と完工金を合わせて支払う旨が伝えられた。
筑後市のタウンハウスは 同年3月までに、糸島市の物件は同年5月までに完成し エステート・ワンに引き渡されたが、その際 JRJは 保全措置を取っていない。

その後、6月末になっても中間金と完工金が支払われることはなかった。
同月JRJは松尾社長を退任させ現社長が就任、エステート・ワンと支払の協議を打ち切り12月に銀行口座を差し押さえたが殆ど回収できず、翌年未払金支払いを求め同社を提訴、勝訴するも回収できず、結局 5億8000万円が焦げ付いた。

この契約は松尾社長が持ち込んだ案件で、エステートワンの与信調査を十分に行わないまま 取締役会にも付議せず社長の独断で進められた。
また、松尾社長の指示で 紹介した松永氏の会社に400万円を報償金として支払ったが、これとは別にエステート・ワンから松永氏経由で松尾社長の知人女性の口座に440万円がリベートとして振り込まれている。

松尾社長の独断による契約締結で、結果的に5億8000万円が回収できなくなり会社に損害を与えたので、損害金額のうち 5000万円をJRJに支払うよう求める。




これに対し松尾氏は、「契約締結については取締役会に報告し、取締役の総務部長や経営企画部長も 契約書と覚書についての稟議書に押印しており、工事の受注・契約を専断したとの事実はない」と反論。
また、取締役会議では、JRJ の非常勤取締役を兼務(当時)する JR九州の田中龍治取締役専務にも契約の報告は行ったとしている。

確かに、松尾氏はリベートを要求するなど 業界の悪習に染まっていたかもしれない。
そして、社内で圧倒的なワンマン経営を行っていたのも事実だろう。
しかし、松尾氏の証言が正しいならば、社長単独で進めたと断定することは難しく、法人としての責任になり、JR九州の田中常務も全く知らないでは済まないだろう。

5億8000万円の焦げ付きには JR九州も責任の一端があり、前社長を訴える裁判は 天に向かって唾を吐くようなものだ。



 

内部調査でコンプライアンス違反発覚

JRJ内では、エステート・ワンから契約書に書かれた期日までに中間金が支払われなかったことで、社員の間で工事を続けるべきか議論があったという。
しかし、社長の指示で工事は続けられ建物は完成、中間金に加え 完工金の合計5億8000万円が支払れなかったが、2018年(平成30年)5月までに 全物件を 保全措置を取らないで引き渡している。

保全措置を取らなかったことから、JRJとエステート・ワンとの間に信頼関係があった、或いは何らかの裏事情があったと解される。
実際のところは 請負契約を交わす際、JRJの松尾社長とエステート・ワンの新原社長の間で「タウンハウスの販売状況に応じて残金(中間金と完工金)を最長3年以内に支払う」ことが 口頭で約束されていた。
その代わりとして、松尾社長側からリベートの支払いを要求され、エステート・ワンの新原社長は止む無く従ったという。

引き渡し後、JRJ内の一連のコンプライアンス違反が漏れ伝わったのか親会社のJR九州がJRJの調査に入り、松尾社長は 同年6月に退任を命じられ、グループの JR九州コンサルタンツ会社に平の取締役として降格異動となった。



エステート・ワンにとって松尾社長の退任は想定外、その後任としてJR九州から肝煎りで来た島野新社長は厳しい態度で臨んだ。
未払いの中間金と完工金 5億8000万円の即時支払いを求めるも、販売が進んでいないエステート・ワンは現金が不足しており、松尾前社長との約束を説明し支払の延期を要求、協議は平行線のままだった。

同年9月、松尾前社長(JR九州コンサルタンツ取締役)は「解任」された。
上場企業の子会社の元社長がコンプライアンス違反で解任というだけでニュースになりそうだが、JR九州は JRJからJR九州コンサルタンツにいったん異動させ、3ヵ月後の解任を決定、JRJの不祥事との直接的な関連がないように操作したと見られている。

弊社はJR九州コンサルタンツに松尾氏の解任理由を尋ねる文書を送付したが、下図のように回答を拒否されてしまった。
同社内で正当な理由があったのではなく、JRJでの一連の不祥事が原因だったのは明らかで、その証拠に 前回報じた様に JRJが松尾氏に対して損害賠償を求める裁判を起こしている。

JR九州はこの件について一切公表していないが、公表するに足らないと判断したのか、公表したら大変なことになると判断したのか。
この後判ることを考えると、後者だと思われる。



ー 続 く ー