組織ぐるみで不祥事隠蔽 ② ~偶然?別の不祥事で第三者委員会~ [2023年1月29日07:00更新]

JRJは社内の不祥事で混乱していたが、世間は同社で起きた別の事件を注目することになる。
10月11日、JRJの社員が「住宅ローン融資書類の改ざん」を行っていたことが内部調査で発覚したことを新聞が一斉に報じた。
JR九州は新聞報道と同時に第三者委員会を設置することを発表、素早いコンプライアンス違反対応をアピールし、2019年3月期第2四半期の決算発表を1ヵ月遅らせるということまで行った。

融資書類の改ざんが発覚したのが松尾前社長解任と同じ2018年(平成30年)9月、あまりにもタイミングが良過ぎるので、一連の不祥事が表に出るのを隠すため別の騒ぎを起こしたのではないかと見る関係者もいる。

その後、第三者委員会の調査が行われ、融資書類改ざんに関わった関係者全てのヒアリングが行われたのだが、前社長の松尾氏については退職しているという理由でその対象から外されており、そのことも疑問視されている。

12月18日に公表された決算資料(下図)において、第三者委員会の調査による不正行為の詳細と経営への影響、及び再発防止策を説明している。
また、JR九州の田中隆治取締役専務執行役員(JRJ取締役を兼務)の月額報酬を1ヵ月10%、JRJの取締役1人について同じく3ヵ月10%減額する処分を発表した。

JR九州としては、コンプライアンス違反には厳正に対処する姿勢を見せたと思われるが、不思議なのは 内部調査でJRJで起こった もっと大きな不祥事を把握していながら、その後一切公表もせず 処分も行っていないことだ。
こうした点からすると、融資書類改ざんの問題を 世間の目を逸らすために敢えて表に出したのではないかと疑わざるを得ない。

内部調査では、前社長主導で内規に従わない手続きが繰り返され、5億8000万円が未収になっていること、2018年3月期の決算で不適切な会計処理を行っていたことが判っていたはずである。



 

不適切な会計処理を公表せず

JRJの住宅ローン不正融資問題で第三者委員会を設置したJR九州が、なぜ 内部調査で把握しているもう一つの不祥事について公表していないのか。
それは、一連の不祥事の中に 2018年3月期決算の不適切な会計処理が含まれていたからだと見られている。
上場しているJR九州はグループの連結決算だが、その数値を修正するとなるとかなり面倒だ。

不適切な会計処理(私文書偽造による粉飾と呼ぶ関係者もいる)は次のように行われた。
JRJが施工した最後のタウンハウスが完成し、エステート・ワンに鍵が引き渡されたのは2018年(平成30年)5月31日だった。
それを、2018年3月期に 同建物の売上額 3億7200万円を計上し最終利益を黒字にするために、3月31日の日付で工事を終えたと虚偽の書類を作成し、決算書類を作った。
その決定的な証拠が下の書類(鍵受領書(仮)・工事経歴書)だ。





JR九州は6月27日付で松尾純一社長を退任させ、新社長として島野英明氏が就任している。
コンプライアンス違反の全容の内部調査は終わっており、この時点で不適切な会計処理による決算を把握していたと考えられるが、JRJは修正を行わず決算公告を行った。

JR九州の2018年3月期決算の連結売上は4133億円、そのうちJRJの不適切な処理をした金額は 3億7200万円、全体の売上からすると 0.1%程度と小さい。
同決算の発表日は 5月10日、その時点ではこのことに気づいていなかったか、内部調査の途中だった可能性があるので、2018年3月期を修正しろとまでは言わない。
だが 翌期の2019年3月期決算で修正するべきだ。

同年8月、JRJの会計処理に気づいたエステート・ワンの新原社長がJRJに「粉飾ではないか」と抗議をしている。
その際、「監査法人トーマツがJRJの監査を行っている」と回答があったのみ、その後再度抗議をしたところ、同年12月17日に島野社長から「粉飾ではなく不適切な会計処理だったので訂正した」との説明があったという。

ところが、実際は訂正されることなく、JR九州及びJRJは前期決算の数字を引き継ぎ、2019年3月期の決算を発表した。
つまり、JR九州がこの年の5月13日に公表した2019年3月期決算には、JRJの不適切な会計処理が含まれており、JR九州及びトーマツがそれに触れずに処理をしたことが考えられる。

わずか3億7200万円だが 無視したところを見ると、他にも同様の対応をしていることが想像され、JR九州が公表している数字が本当に正しいのか怪しくなってくる。
また、JRJが行ったように、他のグループでも黒字を装うために決算期に数字を動かしている疑いも出てくる。
もっと言えば、トーマツの名前を出した以上、監査法人としての信用問題に関わってくるのだ。

株主はどう考えるだろう。



 

建設業法違反で営業停止処分

2018年3月期に不適切な会計処理をしたJRJは2019年3月期もその数値を引き継ぎいだが、2020年3月期決算で過去2期分の決算を修正した。
税務調査で指摘され修正せざるを得なかったという噂もあるが、これできれいサッパリになって一件落着かに思われた。

ところが、思わぬところから 一連の不祥事が再びクローズアップされることになる。
2021年(令和3年)12月14日、福岡県はJRJに対し、受注した建築工事で建設業法違反が認められたとして 32日間の営業停止処分を科した。
営業停止32日間は決して軽い処分ではない。
JRJは処分当日、ホームページに処分の概要と再発防止に取り組む内容を掲載したが、親会社のJR九州はこの件についてコメントしていない。

さて、処分対象となった工事は、2017年(平成29年)5月に契約し翌年完成したタウンハウス、あの不祥事の舞台となった建築工事である。

まず、JRJは特定建設業の許可を有していなかったにも拘わらず、下請業者との間で総額が政令で定める額(6000万円)を超える下請負契約を締結していた。
建設業者なら基本中の基本、分かっていながら受注しており確信犯と言える。
他にも、建設業の許可を取得していない業者と政令で定める額(500万円)を超える額で下請契約、一時的に主任技術者を配置するなど 上場企業とは思えない違反のオンパレードだ。



ところで、係争中のJRJと松尾氏の裁判の中で、今回の建設業法違反の処分に関係する記述がある。
JRJは、注文者から元請として請け負った2つの建築工事において、特定建設業の許可なく下請業者との間で総額が政令で定める額(6000万円)を超える下請負契約を締結しているが、契約の前段階で社内で議論になっていた。

松尾氏の陳述によると、「2017年1 月17 日、タウンハウスの工事の依頼を受けたが 2月1日頃、発注金額(2件とも3億円以上)を考慮すると特定建設業許可を得ていないため、受けられないと回答。その後、川述祐一所長から分割して建築確認を受け受注すればよいのではないかという提案を受けたが、一体工事として(監督官庁に)認定されるのではないかと考え調査を指示した。1 週間後、川述所長から弁護士や役所で問題ないことを確認したという回答があったので受注することにした。」という。

川述所長が役所に確認したのが事実であれば、なぜ 今回建設業法違反で処分されたのだろう。
当時の監督官庁は国交省、川述所長が九州地方整備局に足を運んだのは事実の様だが、文書で質問した訳ではない。
また、法令違反を嫌う役所がこういうケースで「問題ない」と明確に答えるというのは考えられない。
恐らく 曖昧な質問をして都合のいい解釈をしたというのが 本当のところだろう。

松尾氏の陳述内容が事実であれば、川述所長の提案と確認があって契約が前に進んだということになる。
現在、川述所長はJRJの取締役に就いているが、過去を知る関係者からは裁判そのものに疑問の声が出ている様だ。



ー 続 く ー