こども病院 人工島移転が現実に? 吉田市政への評価は・・ [2008年6月26日09:35更新]

タグで検索→ |

noimage

(08年6月号掲載) 

福岡市立こども病院(中央区)移転問題で揺れた福岡市立こども病院・感染症センター(中央区唐人町、写真)について、市はこのほど、7月中に整備場所を正式決定する方針を明らかにした。 

市の検証・検討チームが昨年公表した、「人工島(東区)が最適」との方針に変更はなく、市議会の一部会派は反対しているものの、人工島への移転が現実味を帯びてきたと言える。

選挙では「病院移転の見直し」を公約に掲げた吉田宏市長。移転に対する利用者らの反発は依然根強い。

「公約違反」とも取れる今回の方針が市民の理解を得られるかどうかが、吉田市政の今後を左右しそうだ。



 

今月10日、市が発表したこども病院移転に関する方針の概要は次の通り。

(1)7月中に整備場所を正式決定し、4-5年後の開院を目指す

(2)ベッド数は現在の214から増やす

(3)地方独立行政法人を設立し、2010年をめどに経営を移行する

吉田市長は同日の定例会見で、移転先は人工島を軸とすることに変わりがないことを強調した。市民病院については現在地で存続させ、同じく独法化する。

 議会側の反応は

「あくまで市民・こども両病院を統合し、人工島に移転するという主張にぶれはない」。最大会派の野党、自民党のある市議はこう力を込めた。「現在地での建て替えは事実上、不可能。市長には『引き返す(統合移転を認める)勇気』があってもいいと思う」

自民は山崎広太郎・前市長時代から2病院の統合移転方針を支持。「見直し」を掲げて当選した吉田市長になっても、一貫して統合移転にこだわり続けた。

だが、会派の一部からは「単独移転でも前進」と一定の評価を下す声もあり、現段階では市の方針への賛否を明確にしていない。「6月議会での市長の対応次第」との声もある。 

一方、共産党・福岡ネットワーク・社民は反対の意向を表明している。賛成しているのは民主党だけだが、多数を占める自民・公明など野党会派も賛成に回るようなことになれば、流れは一気に人工島単独移転へと傾くことになる。 

根強い市民の反対

利用者やその家族らからは「現在地で存続してほしい」と、人工島移転に対する反発が根強い。市へは多くの市民や団体から移転反対の要望書が出されている。その理由の1つは、アクセス面での不安だ。

人工島へは一般道路しか通じていない。朝夕のラッシュ時、渋滞に巻き込まれて病院にたどり着けないのではないか―利用者がこう心配するのも当然だろう。

また大地震などが発生した場合、地盤が弱い埋立地であるがために、機能が一部ダウンしてしまう可能性が。実際、阪神淡路大震災では神戸市のポートアイランドで液状化現象が起きライフラインが断絶。病院機能がストップし、復旧するまで患者が転院を余儀なくされた例もある。 

人工島事業救済が目的?

さらに「事業を救済するために『まず人工島ありき』で進めてきたのではないか」との不信感が、反対に拍車を掛けている面も。

事業を手掛ける市の第3セクター「博多港開発」は、07年度決算で3億6600万円の赤字となった。病院の統合移転を前提に土地の売却計画を立てていたのだが、市が方針決定を遅らせたために売却が進まなかったのが原因だ。

仮に人工島が移転先候補から外れた場合、多大な影響が事業に及ぶであろうことは、容易に想像できる。 

市民の理解 得られるか

06年の市長選では、病院移転問題と学童保育無料化問題が大きな争点に。同時に、山崎前市長が市民から反発を受ける要因となった。

「移転見直し」を掲げた吉田市長の当選は、人工島への病院移転は受け入れられないとの「市民の意志」を示したもの─とも考えられる。

にもかかわらず、結果的に人工島移転が決まってしまえば「公約違反ではないか」との批判は避けられないだろう。

相次ぐ職員の飲酒運転や学童保育無料化案が議会で2度否決されるなど、思うような成果が上がっていない吉田市長。市は今後、7月上旬までの間に市民向けの説明会を開くとしているが、こども病院移転に理解が得られなければ、吉田市政に対する評価が一挙に低下する恐れも否定できない。
(写真=福岡市役所)