法廷での証言の是非 RKB 報道の原則とは [2007年11月23日21:02更新]

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(07年11月号掲載) 

RKB毎日放送二丈町の恐喝未遂事件の裁判で、 被告の藤原正男さんが「マスコミに情報提供したのが事実かどうか」が重要なポイントとなっている。

このため裁判所は、藤原さんが接触したとされる「RKB毎日放送」(福岡市、写真)の記者を証人として呼んだが、記者は尋問に対し「答えられない」と事実上証言を拒否した。

事実を法廷で話し藤原さんの主張を裏付けるべきか、あるいは「報道の原則」を守ることで、結果的に自分の取材源を“見捨てる”のか―。法廷での証言をめぐり、報道のあり方が問われる事態となっている。



「原則を貫いて」

裁判官 教育長に対するセクハラの話はいつごろ聞いたのですか

記者 報道に関わる者として話はできません

裁判官 「不倫通告書」を見たことはありますか

記者 取材のことなので答えられません

裁判官 見たことはありますか

記者 証言できないです

裁判官 重大な所なのに、困ったね・・

10月19日、福岡家庭裁判所(福岡市中央区)の一室。裁判官や弁護士、検事らによる、RKB記者に対する証人尋問が行われた。だが、ほとんどの質問に対して記者は「答えられない」と証言をしなかった。

藤原さんの弁護士はこれ以前に記者に直接連絡し、藤原さんから情報提供を受けたことを証言するよう求めていたが、拒否されたという。

裁判所側は9月に判決期日を入れていたがそれを延期し、記者を証人として呼んだ。記者の事情を考慮、場所を家裁に移し、部屋にカギを掛けて第三者が入れない状態で行うという、「異例の措置」だった。

RKB報道部は本紙の取材に対し、記者が事件に直接関わる質問に証言しなかった理由について「事件について法廷であろうと放送以外の目的で取材内容を話した場合、報道機関としての信用を失墜してしまう結果になる。取材した事実は報道目的以外には明らかにしない、という原則を貫いたため」と説明している。

TBS問題

報道業界には苦い記憶がある。 坂本弁護士一家殺害事件。1989年、東京放送(TBS)のスタッフが、オウム真理教を批判した坂本堤弁護士のインタビュー映像を放送直前にオウム真理教幹部に見せた。これが、直後に起きた一家殺害の発端となった―とされる「TBS問題」である。

問題発覚後、TBSは事実を否定し続けたが、5カ月以上たってビデオを見せたことを認め、NEWS23の筑紫哲也氏は「TBSは今日、死んだに等しいと思います」と番組内で述べた。

確かに、報道以外の目的や場所で取材内容を明らかするのは問題がある。だが、今回のケースはどうか。

藤原さんが記者に情報を提供した、との主張が事実か?この点を記者が法廷で証言することで、藤原さんが何らかの被害を受けるのかどうか。誰かほかに迷惑を被るかどうか。

証人尋問は藤原さん側の要請を受けたものであり、さらに裁判官も重要と認めたからこそ実現した。藤原さん自身が被害を受けることはありえず、また判決次第では、窮地に立つ「ネタ元」を見捨てる結果にもなりかねない。  

当局の関与は?

逆に考えてみよう。 記者が証言しないことで「利益を得る」のは誰か?言うまでもなく、藤原さんを逮捕・起訴した捜査当局だ。藤原さんの主張が事実であれば、証言しないことは藤原さんに不利に、当局に有利に働くのは明白である。

RKBは「社内での議論を経た上での対応」としている。極めて難しい問題ではあるが、この点を考えるとRKBの対応には首を傾げざるをえない。

8月3日、藤原さんは偶然、裁判所で記者と会った。この時記者は、弁護士からの証言要請を断ったことをわびた上で「上司に証言を止められている」「警察署と検察庁から『藤原の件には関わるな』と言われている」と話したという。

もしそれが事実であれば、取材先である捜査当局の意向を受けて証言しなかったということになり、記者としては「報道の原則」を隠れ蓑にした「背信行為」と言うしかない。 この点についてRKB報道部は「ご指摘のような発言は一切していないことを確認した」としている。

判決の行方と報道

記者からの証言は得られなかったが、藤原さんが「8月19日 RKBに渡す」と記入した手帳が証拠として採用されている。このため、裁判所側が藤原さんの主張を事実と認定する可能性が高いとみられる。判決の行方とともに、「取材した事実は報道目的以外には明らかにしない」というRKBの報道を注視したい。

さて、勘の良い読者であればすでにお気付きであろう。 藤原さんの無実を裏付けるかも知れない重要なポイントは、彼を黒幕だと考え有罪に持ち込もうとする捜査当局にとっても、同じく重要だ。彼の主張が事実かどうか、捜査の過程で当然、調べるはずである。

RKBさん、まさか、警察の聴取に対しては素直に応じていないでしょうね?