(10年3月号掲載) 西アフリカ・ギニアビサウで活動する朝倉市のNPO法人「エスペランサ」(馬場菊代代表、本紙HPで「ギニアビサウからの手紙」連載)を支援しようと、「アフリカの希望チャリティーコンサート」(主催 同コンサート実行委員会)が6日、同市内で開催された。 出演したのは長崎県佐世保市在住で、視覚・知的障がいのある音楽家・ピアニスト、掛屋剛志君(17)=写真=。 軽やかな演奏と明るい歌声に、会場を訪れた人々は「感動した」「素晴らしかった」と、驚きと称賛の声を上げた。 「ぼくの演奏を聴いて、上手だったら、拍手を、く・だ・さーい」。ステージに登場した掛屋君が、高く透き通った声で歌うように語り掛けると、観客席がどっと沸いた。 童謡「赤とんぼ」、滝廉太郎作の名曲「荒城の月」。次々と楽曲、弾き語りを披露していく。演奏を終え、拍手が鳴り響くたびに、ピアノの前の掛屋君は上半身を大きく左右に揺する。その音が嬉しくて仕方がない、というように。 「剛志は拍手をもらうことが大好き。生きがいと言いますか、彼が成長する上で不可欠なものなんです」。こう話すのは父親の孝志さんだ。 掛屋君は生まれつき視力がほとんどない上、成長ホルモン分泌不全や低血糖症を抱えている。そのため毎日の注射が欠かせない。 それでも幼い頃から音楽の才能を発揮。05年には障がい者コンサートの全国大会「ゴールドコンサート」で作曲家・平尾昌晃氏から「シンガーソングライターとして無限の可能性を秘めている」として審査員特別賞を受賞するなど、高い評価を受けている。 現在、掛屋君は佐世保養護学校高等部2年生。全国各地でコンサート活動を行い、06年にはCDデビューも果たしている。 ピアノの次はエレクトーンでオリジナル曲を演奏する掛屋君(写真)。 この日は「お気に入り」というバイオリンの音を交えた「1番」と「93番」を選んだ。 「目がほとんど見えないので楽譜はなし。耳で聴いたものをすべて記憶しているのです。バイオリンの何番、と言えば頭の中から引き出してすぐに弾ける」と孝志さん。 オリジナル曲は百を超えるという。「これまで音楽的な教育はほとんど受けていません」。そのため演奏方法はまったくの自己流で、両親指をのぞいた8本の指しか使わない。 ステージに置かれた段ボール箱の前に座る。パーカッションのように叩くのかと思って見ていると、指でこすってドレミファ・・と音階を奏でだした(写真)。別の手でリズムを刻む。ただの段ボール箱が立派な楽器に早変わりだ。 「一見簡単そうですが、実際にやってみると指が火傷しそうなくらい熱くなるんです」と話すのは、演奏に付き添う同養護学校の松原都教諭。 「母親のお腹の中にいた時から、家の中でいろんな音楽を流していました。2歳半で歩き出したのですがとにかく身の周りの家具や窓ガラス、床を叩いたり、自分の体を叩いたりはじいたりして遊ぶんです。 3歳のころ、母親の実家にあったピアニカを気に入って。それまで与えたおもちゃには見向きもしなかったのに。うちの家系には音楽の才能がある者などいないんですが(笑)」(孝志さん)。 掛屋君の演奏を聴いたある男性は「聴いているうちに涙が出てきた」。またある女性は「剛志君の姿に、元気をもらった気がします」 音を奏でる喜び、それを多くの人たちと共有できることへの喜びが、掛屋君の姿には溢れていた。誤解を恐れず言えば、音を楽しむことを覚えたはるか昔の人間の姿は、こうだったのではないだろうか。 いわゆるプロではないため機会は限られるが、出来るだけ多くの人、音楽関係の職に就く方や趣味人として一家言持つ方にも、彼の演奏をぜひ生で聴いていただきたい。新しい何かを必ずや得られるはずだから。
「音を楽しむ」 原点伝える 視覚障がいのある”小さな音楽家” [2010年4月9日09:36更新]
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