「機能不全」—— 老害が地方自治体を壊す日 前編

前編|不信任、辞職勧告、そして法令越え疑いの「懲罰議決」

「最近、国政にも関心が出てきたんですが……町政がくだらなさすぎて、正直うんざりしています。取材してもらえませんか」

福岡県の筑豊地区に位置する小竹町に住む20代の男性から、そんな電話が入ったのは今年の初めのこと、声には諦めと怒りが滲んでいた。
若者が地元の政治に関心を持ち始めた矢先に感じるこの閉塞感とは何か——現地を訪ねてみることにした。

取材を進め、過去の町議会のYouTube動画を視聴していくと、地方民主主義の根幹を揺るがす事態が浮かび上がってきた。
2022年12月、24年ぶりの選挙を制し、同町初の女性町長として就任した井上頼子町長。
NPO法人役員から転身し「町民目線」を掲げた彼女を待ち受けていたのは、何十年も議会に居座り続けた長老議員たちによる理不尽で執拗な攻撃だった。

攻撃の第一弾は、就任わずか11ヶ月目の令和5年12月、長老議員の一人が12月定例会の本会議で「緊急動議」として不信任決議案を提出したのだ。
提案理由として挙げられたのは、副町長選任問題、学校給食事業の条例撤回、一般会計補正予算の否決——いずれも議会側が先に否決・否定した案件である。
要するに、「長老議員の意に沿わない提案を最初から出すな」ということだが、「従わなければ不信任」という圧力を公然と放ったのだ。
これは、議会の力を誇示する以外の何物でもなく、あまりにも低次元である。
不信任決議は賛成5・反対7で否決されたが、長老グループは止まらなかった。

翌令和6年1月の臨時会では、報告案件への質疑を理由に、今度は長老議員から辞職勧告決議案が提出された。
賛成5・反対6でかろうじて否決された。
議場内での長老議員の言動をあまりにも酷いと思った町民が、政治倫理審査会に申し立てを行ったところ、この一連の言動は「議員の品位と名誉を損なう行為」と結論づけられたのである。

弊社記事→ 長老議員に厳しい意見書(2024.2.15)

ところが、かの長老議員はこの結論をものともしない。
そして、最大の問題が令和7年12月に訪れる。
発端は職員の不適切な事務処理、井上町長は責任を取り、自ら「給与を3ヶ月間・20%削減する」という条例案を提案した。
ところが議会はこれを「軽すぎる」として突如修正し、削減期間を「任期満了(令和9年1月28日)まで」に延長する修正案を賛成6・反対5で強行可決したのである。
これには驚いた。

ここに重大な法的問題があるのではないか。
地方自治法において、議会が首長を懲戒する規定は存在しない。
町長と議会はいずれも住民の直接選挙で選ばれた対等な代表機関であり、上司と部下の関係にはないからだ。
町長が「議会の権限を超え地方自治法に違反する」として再議を要求しても、議会は賛成7・反対4で押し切った。
法令違反の疑いを正面から指摘されてなお強行するこの姿勢は、議会制民主主義の根幹を揺るがすものだ。

さらに同じ会期中に、議会は辞職勧告決議も可決した(賛成7・反対4)。
「任期満了まで給与を削減する」と「今すぐ辞職せよ」は論理的に完全に矛盾する。
この二つを同一会期内に可決したという事実が、熟慮のない感情的な議決であることを議会自ら証明している。
就任から約2年の間に、不信任決議・辞職勧告決議・法令違反の疑いがある給与削減の強行・再び辞職勧告決議——これほどの攻撃を一人の首長が受け続けた事例は聞いたことがない。

(後編へ続く)



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