「機能不全」—— 老害が地方自治体を壊す日 後編

後編|病院問題に透ける選挙目当て——最大の被害者は町民

長老グループの「町長降ろし」と並行して、もう一つの重大な問題が進行していた。
町立病院の経営問題だ。
毎年多額の赤字補填が続き、このままでは財政そのものが破綻しかねない——その危機感から、町は丁寧な手続きを踏んできた。
有識者委員会の答申、町内19地区での住民説明会、335名のアンケート。
回答者の8割が高齢者でありながら「無床診療所化・指定管理者制度導入」を支持する声が最多を占めた。
「赤字が続いたら町がなくなる」「子どもたちのために借金を減らしてほしい」——病院の恩恵を最も受けるはずの高齢の町民たちでさえ、財政への危機感から変化を求めていたのだ。

住民説明会資料(小竹町の財政状況等)

住民説明会アンケート結果

ところが令和7年12月定例会で、長老議員が委員長を務める特別委員会が、この積み上げを賛成4・反対7で一夜にして覆した。
しかも委員会の報告書には、なぜ否決したのかという合理的な説明が見当たらない。
今年は町議会議員選挙が行われる。
「病院を守った」という実績が高齢有権者への集票カードになる——その計算が判断の裏に透けて見える。
住民の合意形成を踏みにじり、町民の不安を票に換えようとする姿勢は、前編で報じた町長攻撃と同じ構図だ。

もちろん、一期目の井上町長に未熟さがあったのも事実だろう。
職員の事務処理ミスや議案の誤りは実際に生じており、改善すべき課題はあった。しかし「町長に問題があるから何をしてもいい」という理屈は通らない。
不信任、辞職強要、法令を超えた懲罰的議決、民意を無視した病院問題——これらはいずれも、行政上の不備への正当な対応ではない。

地方議会の役割は、行政を監視し住民の利益を実現することにある。
しかし小竹町議会では、その機能が「町長降ろし」と選挙目当ての判断に費やされてきた。
高齢化率42%を超え、財政破綻の瀬戸際に立つ町で、議会が建設的な議論に使うべき時間は、一人の町長への攻撃に消えていった。
最も傷ついているのは、置き去りにされてきた町民だ。

今年の町議会議員選挙は、町民が審判を下す機会である。
子育て・教育・インフラへの投資を削りながら借金だけを積み上げる長老支配に終止符を打てるのは、町民自身だけだ。
あの20代の男性が電話口で漏らした「くだらなさすぎる」という言葉は、多くの町民が胸の奥に抱えてきた本音ではないだろうか。
誰が町民の方を向いているのか——その目で見極め、一票を投じる時が来た。


(了)

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「機能不全」—— 老害が地方自治体を壊す日 前編

前編|不信任、辞職勧告、そして法令越え疑いの「懲罰議決」

「最近、国政にも関心が出てきたんですが……町政がくだらなさすぎて、正直うんざりしています。取材してもらえませんか」

福岡県の筑豊地区に位置する小竹町に住む20代の男性から、そんな電話が入ったのは今年の初めのこと、声には諦めと怒りが滲んでいた。
若者が地元の政治に関心を持ち始めた矢先に感じるこの閉塞感とは何か——現地を訪ねてみることにした。

取材を進め、過去の町議会のYouTube動画を視聴していくと、地方民主主義の根幹を揺るがす事態が浮かび上がってきた。
2022年12月、24年ぶりの選挙を制し、同町初の女性町長として就任した井上頼子町長。
NPO法人役員から転身し「町民目線」を掲げた彼女を待ち受けていたのは、何十年も議会に居座り続けた長老議員たちによる理不尽で執拗な攻撃だった。

攻撃の第一弾は、就任わずか11ヶ月目の令和5年12月、長老議員の一人が12月定例会の本会議で「緊急動議」として不信任決議案を提出したのだ。
提案理由として挙げられたのは、副町長選任問題、学校給食事業の条例撤回、一般会計補正予算の否決——いずれも議会側が先に否決・否定した案件である。
要するに、「長老議員の意に沿わない提案を最初から出すな」ということだが、「従わなければ不信任」という圧力を公然と放ったのだ。
これは、議会の力を誇示する以外の何物でもなく、あまりにも低次元である。
不信任決議は賛成5・反対7で否決されたが、長老グループは止まらなかった。

翌令和6年1月の臨時会では、報告案件への質疑を理由に、今度は長老議員から辞職勧告決議案が提出された。
賛成5・反対6でかろうじて否決された。
議場内での長老議員の言動をあまりにも酷いと思った町民が、政治倫理審査会に申し立てを行ったところ、この一連の言動は「議員の品位と名誉を損なう行為」と結論づけられたのである。

弊社記事→ 長老議員に厳しい意見書(2024.2.15)

ところが、かの長老議員はこの結論をものともしない。
そして、最大の問題が令和7年12月に訪れる。
発端は職員の不適切な事務処理、井上町長は責任を取り、自ら「給与を3ヶ月間・20%削減する」という条例案を提案した。
ところが議会はこれを「軽すぎる」として突如修正し、削減期間を「任期満了(令和9年1月28日)まで」に延長する修正案を賛成6・反対5で強行可決したのである。
これには驚いた。

ここに重大な法的問題があるのではないか。
地方自治法において、議会が首長を懲戒する規定は存在しない。
町長と議会はいずれも住民の直接選挙で選ばれた対等な代表機関であり、上司と部下の関係にはないからだ。
町長が「議会の権限を超え地方自治法に違反する」として再議を要求しても、議会は賛成7・反対4で押し切った。
法令違反の疑いを正面から指摘されてなお強行するこの姿勢は、議会制民主主義の根幹を揺るがすものだ。

さらに同じ会期中に、議会は辞職勧告決議も可決した(賛成7・反対4)。
「任期満了まで給与を削減する」と「今すぐ辞職せよ」は論理的に完全に矛盾する。
この二つを同一会期内に可決したという事実が、熟慮のない感情的な議決であることを議会自ら証明している。
就任から約2年の間に、不信任決議・辞職勧告決議・法令違反の疑いがある給与削減の強行・再び辞職勧告決議——これほどの攻撃を一人の首長が受け続けた事例は聞いたことがない。

(後編へ続く)



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長老議員に厳しい意見書

鞍手郡小竹町では、令和4年12月に24年ぶりとなる町長選挙が行われ、無所属新人でNPO法人役員の井上頼子氏が元町議ら2人を破って初当選を果たした。
しかしこの1年、町長に対し、複数の町議による品位のない言動が続いてきたという。

一つ例を挙げると、昨年9月議会の補正予算審査特別委員会で、和田賢二郎議員(83)が「町長さん、口ちゃ便利なもんですね、嘘が平気で言えますか」と侮辱と取れる発言を行った。
その場で委員長が謝罪するよう促したが、「私は嘘を言うてない、本当にそう思ってますから」と開き直った。

令和5年9月19日 補正予算審査特別委員会



 

このやり取りはYoutubeの小竹町議会チャンネルで公開されていたが、さすがに目に余ると感じた一般町民が、昨年12月、議長宛に政治倫理上の問題として調査を行うよう請求を行っていた。
その後、第三者による政治倫理審査会が開催され、当事者に聞き取りを行い、取りまとめた意見書が 今月提出された。

意見書によると、和田議員は「人を傷つけたのなら、これは私の発言が悪いと思います」と反省の意を示しながらも、「議長、副議長から何の注意もない。それは皆さんが私を支援してくれていると私流に解釈する」と発言を正当化、更には「(町長が)いかに嘘をついているか、例えば9月議会、5回ですよ。訂正して謝罪をしている」など、町長が議会において虚偽発言を繰り返したとの供述を行ったという。

審査会の結論は、
「(和田賢二郎議員の)発言は、品位と名誉を損なう言動として政治倫理条例に抵触するものと判断せざるを得ず、かつ、今後も同様の発言を行うおそれは否定できない」、
議会の場における侮辱、または名誉毀損行為を議会全体が容認する如き雰囲気、あるいは 議員が町職員に対しいかなる発言をしても許されるとの議会の認識を示すものとすれば、町民の議会に対する信頼を大きく失墜させるものであり相当問題
と締めくくっている。

素晴らしい審査会の意見書、春日市の政治倫理審査会とは大違いだ。
あとは、和田議員が同様の発言を繰り返さないか。
和田議員以外でこれまで同様の発言を行ってきた議員らが、今後言動を慎むかどうか。
そして、彼らがこうした言動を繰り返した場合に、議長や委員長がしっかりコントロールできるかである。

人口約7000人、高齢化率 42%と少子高齢化が進む小竹町だが、町民の間からは議員が個人的な問題を議会に持ち込み、町政を停滞させているとの指摘がある。
30年後、50年後を見据えた政策提案が期待されるが、ベテラン議員らにそれができるか注目が集まっている。