2022(令和3)年9月、「太陽光の闇」というタイトルの連載記事を書いた。
2012年にFIT(固定価格買取制度)が始まると同時に、太陽光発電事業に参入を決めた 久留米市の会社経営者、組坂善昭さんについての話である。
組坂さんは、土地を購入し国の事業認可を得ていたにも拘わらず、九州電力から供給過剰という理由でストップが掛かり、事業中止を余儀なくされ損失を被った。
しかし、その後の調べで、一部の大型の発電所が九州電力に供給(予定も含む)していることが判明、そこには国が大企業を優遇した形跡があるとのことで、現在訴訟の準備を進めているところだ。
組坂さんは77歳、「死ぬ前に真実を国民に伝えたい」という思いで、2021年の衆院選(福岡6区) 及び 22年の参院選(福岡選挙区)に立候補し、再生エネの健全な発展を訴えて戦ったことも。
負けると分かっている戦いに挑戦した組坂さんに興味を持ち、参院選後に取材させて頂き、記事を書いた次第である。
昨日、大手の新聞社に意見広告が掲載されることが決まったと連絡があった。
新聞社は事実に基づかない意見は掲載しないが、今回その主張に合理性があると認められたことになる。
これまで組坂さんは1人で戦ってきたが、同じように泣き寝入りしてきた人が全国に存在しているという。
意見広告で賛同者が出てくれば、国や電力会社に対する集団訴訟になる可能性もあるのではなかろうか。
2022年9月の掲載した記事を再掲するので、ご興味のある方はご覧頂きたい。
太陽光の闇
電気代に事業者の儲けを上乗せ
急激な円安進行とエネルギーや食糧価格の高騰で、国民生活は厳しさを増しているが、電気代の値上げも続いている。その内訳に「再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)」という項目があるのをご存知だろうか。
例えば、九州電力の領収書(下図)を見ると、請求額 9204円のうち 再エネ賦課金として 1055円(請求額の約11%)が含まれていることが確認できる。
これは今年度の再エネ賦課金1kWhの単価、3.45円に使用料の306kWhを乗じて算出された金額だ。
再エネ賦課金は、2012年度から導入されたFIT(再エネ固定価格買取)制度によって、 電力会社が電力の買い取りに要した費用を、電気の使用量に応じ家庭や企業が一定割合で負担するもので、メガソーラー・風力・バイオマスなどの稼働件数(発電量)の増加と共に上昇の一途を辿っている。
下図のように、買取価格は 0.22円/kWhから始まり年々上昇し、今年度は3.45円/kWh、今後も全国で自然エネルギーの発電所が稼働予定であることから、賦課金は向こう8年程度上昇を続け、最低でも4円/kWhを超えると試算されており、家計や企業経営の負担が増えることを覚悟しておく必要がある。
これが地球温暖化防止や国際競争力の強化、地域の活性化など崇高な目的のためなら我慢もできる。
しかし、昨今 太陽光発電所や風力発電所など、無秩序な乱開発による環境破壊が指摘されているほか、それらの多くが 中国や欧米等の外国資本であったり、大金を手にした業者と政治家との繋がりが報じられたりといい話が聞かれない。
再エネ賦課金の全部とは言わないが、こうした一部の投資家の銭儲けに使われている実態があるのだが、今さら気づいても後の祭り、彼らのやりたい放題を指をくわえて見ているしかないのである。
再エネに3.8兆円の国民負担
2020年(令和2年)12月7日、経産省総合資源エネルギー調査会で、「FIT制度に伴う国民負担の状況」で公表された資料は、あまりにショッキングである。FIT制度が導入された2012(平成24年)年の再エネ比率は10%、その後 2018(平成30年)年時点で16.9%まで上がっているのだが、2020年(推計値)の 再エネの買取費用の総額が3.8兆円、そのうち 電気代に含まれる再エネ賦課金が 2.4兆円となっている。
2021年(令和3年)度の防衛費が5.1兆円なので、3.8兆円がどれくらい大きいかおわかりだろう。
再エネ賦課金だけで 2.4兆円、単純に国民1人当り2万円を負担していることになる。
地方を車で走ると太陽光発電や風力発電を目にするが、その事業者の売電収入を 私たちが負担しているのだ。
2030年には買取費用総額が 4兆円、うち再エネ賦課金3兆円まで増えると試算されており、国民負担は更に増える予定だ。
また、同日の調査会の資料によると、2020年の買取総額 3.8兆円のうち、事業用太陽光が 2.5兆円と 66%を占めている。
特に注目してほしいが、事業用太陽光のうちでも 2012年度認定から2014年度認定までの3年間に、2.2兆円 58%と集中していること、つまり 再エネの国民負担の6割近くが FIT制度開始3年以内に認定をもらった太陽光事業者に偏っているのだ。
なぜそのようなことになったのか。
それは 東日本大震災後、太陽光発電の普及を急いだ政府(当時民主党)が、制度設計が不十分なまま FIT制度を導入したことに要因があると言われている。
2012年の買取価格が 40円/kWh、13年 36円/kWh、14年 32円/kWhと 高く、目利きの利く事業者や投資家は、この期間に一斉に太陽光事業に参入、土地を確保し認定を取得し権利を確保している。
認定を受けた事業者は、いつ事業を始めても向こう20年間は 認定時の買取価格が保証されるというのが、制度の最大の欠陥だった。
その後、権利だけ確保し 設備投資の費用が安くなるのを見越して着工しない業者が多く見られたことから、2015年に制度が見直された経緯がある。
買取価格は下降を続け 今年度は 11円となり、もはや新規参入をするところは激減しているが、今なお 開発にあたって住民トラブルなどのニュースが報じられている。
それらがこの3年間に権利を確定させた業者、或いは 事業を引き継いだ業者と言われている。
FITの裏口認定を指摘する人物
「国や電力会社による一部発電事業者の優遇が賦課金上昇の一因」と制度の闇を指摘する人物がいる。それは、7月の参院選福岡選挙区に立候補した組坂善昭氏(74)だ。
結果は落選に終わったが、選挙戦を通じ「国が裏口認定した事業者が得る利益を国民に還元し、電気代を引き下げる」と訴えた。
久留米市内にある組坂氏の事務所を訪ね、その根拠やこれまでの経緯について説明頂いた。
2012年7月にFIT制度が開始された当初、認可申請書に添付する用地の権利書類は「取得見込みでも構わない」とされていた。
ところが、認定を受けても事業に取り掛からない業者が続出したことから 経産省が問題視し、運転を開始していない事業者に対し、2013年から 土地と発電設備を確定したことを証明する書類の提出(報告徴収)を義務付けている。
特に、認定した場所の土地の権利関係書類の提出が求められており、「場所の決定が確認できない場合には聴聞の対象とし、認定の取消しに向けた手続きに移行する」と厳しい対応をしている点に注目だ。
下図は、2021年12月22日の経産省資料を元に作成した「事業用太陽光発電(メガソーラー)の年度別FIT認定・導入状況」である。
FIT制度スタート直後は、認定件数をはるかに導入件数が下回っていることが分かる。
組坂氏は、「その中には報告徴収の結果 認定を取り消された業者も含まれるが、これから運転開始をする大規模メガソーラー業者も含まれる。政府がそれらの業者を極秘裏に救済している、裏口認定の証拠がある」と指摘する。
それが事実なら大問題だ。
次回は宇久島メガソーラーの実例を挙げて説明する。
宇久島裏口認定の根拠
宇久島メガソーラー事業は、佐世保市宇久島に約 480MW、国内最大規模の発電能力を誇る太陽光発電事業で、発電した電力を海底ケーブルで佐世保市に送り、一般家庭約17万3000世帯分相当をまかなうとしている。同事業は、2012年にドイツのフォトボルト社が設立した TERASOL合同会社が主体となり、京セラ・九電工・オリックス・みずほ銀行が 約2000億円を出資することで始まった(後にフォトボルトとオリックスは撤退)。
発電設備認定を受けたのが FIT制度が始まった年度末の2013年3月27日とされているが、未だ運転を開始どころか地元漁業関係者との調整中で 本格着工まで至っていない。
組坂氏は 情報公開請求で集めた資料を元に、「当初の事業者TERASOLが 土地の権利関係の条件を満たしていなかったのに、認定が取り消されていない」と指摘する。
最も日付の早い契約書で 2018年10月25日、それ以前にある土地の権利関係の書面は、地元区長らと交わした6801筆分についての 「賃貸証明書(リンク参照)」のみということが判っている。
しかも「私有地については最終的に地権者の判断だが、地権者がメガソーラー用地として賃貸するよう協力を求める」という記述があるように、権利確定とは程遠い内容だ。
前述のように、経産省は 認定を受けたにも拘わらず 運転を開始していない事業者全てに報告徴収を行っており、もちろん TERASOLに対しても、2013年9月に通知が発送され同10月18日までに書類を提出させたと考えられる。
「土地の権利が確定していない事業者は認定を取り消す」、「権利者の証明書は認められない」と厳しく規定されていることから、賃貸証明書しか保持していないTERASOLは認定取消しになっているはずである。
賃貸証明書しか保持していないTERASOLが、認定取消しとなったことを裏付けるのが、2017年9月に 組坂氏が情報開示請求で入手した「平成28年度(2016年度)までの認定事業者一覧(リンク先参照)」だ。
事業者名は黒塗りで消された資料だが、一覧表の中に 出力が480MW規模の事業者は存在しておらず、この時点で TERASOLの 宇久島メガソーラー事業は認定されていないことが確認できる。
ところが、現在の認定情報を経産省のサイト(リンク先長崎県を参照)で確認すると、同事業が 2013年3月27日に「宇久島みらいエネルギー合同会社」の名前で認定を受けたことになっているのだ。
2018年11月に経産省に提出された事業計画変更届(リンク先参照)により、認定を受けた事業者が、TERASOLから宇久島みらいエネルギー合同会社に変更され事業譲渡をされたとしているが、経産省が受け付けたということは TERASOLが認定を受けていたことになり、ここに疑問が生じる。
「平成28年度(2016年度)までの認定事業者一覧」にTERASOLが確認されなかったのに、なぜ2013年3月に宇久島みらいエネルギー合同会社が認定を受けたことになっているのか。
また、宇久島みらいエネルギー合同会社が認定を受けている筆数は計 11196筆で、2013年の賃貸証明書に記載のある 6801筆とは一致しない。
その差4395筆、これだけの筆数が追加されたということは、そもそもの土地の権利関係書類がいかにいい加減だったということだ。
更に、事業用地のうち 農地転用と林地開発の許可が必要だった部分については、2019年8月に最終的に許可が下りており、土地の権利の確定に同年前半までかかったと考えられる。
以上のことから、組坂氏は 「経産省が2013年10月に報告徴収を実施した際、土地利用について確定した書類がなかったTERASOLについて、故意に認定を取り消さなかった疑いがある」と主張する。
経産省が文書の存在を偽装?
2012年度に40円/kWhで認定を受けている 宇久島メガソーラーが運転を始めれば、再エネ負担金から 20年間で 約4800億円の収入を得ると組坂氏は試算している。それを再エネ賦課金で負担するのは私たち国民、経産省が故意に認定を取り消さなかったのであれば看過できない。
「平成28年度(2016年度)までの認定事業者一覧」に記載がなかったにも拘わらず、現在の事業計画認定一覧には 同事業が 2013年3月27日認定とされている。
これについて、誰もが納得できる合理的な説明が求められる。
そこで組坂氏は、「2016年(平成28年)度までの認定事業者一覧」に記載されていない事業者が いかなる方法で報告徴収を受けたのか、また 結果はどうだったかを確認するため、経産省に対し2021年(令和3年)5月11日付で情報開示請求を行っている。
1ヵ月後の6月11日、経産省が 一部の文書を除き、開示期限の延長を一方的に通知してきた。
その理由を「(要求された報告徴収は)著しく大量の文書であり、精査するのに相当の時間を要し、事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがあるため」とし、2022年(令和4年)5月12日に開示決定等をするとしていた。
1年待てという。
1年も待たされるのだから開示されると誰もが思うだろう。
ところが、1年経った今年5月12日付に「不開示決定通知書」が送付されてきた。
理由には「文書管理規則上の保存期間が満了したため既に廃棄済みであり、開示請求時点において保有していないため」とあった。
あまりにも馬鹿にした話である。
開示請求時点において保有していないのであれば、何も開示期限の延長をする必要はない。
経産省の資源エネルギー庁における「標準文書保存期間基準(保存期間表)」によると、確かに報告徴収の保存期間は5年となっている。
組坂氏が請求した2012年(平成24年)度の文書は 2018年度には廃棄されていると思われ、請求したのが2021年5月なので 少なくとも廃棄後2年以上は過ぎており、それを「著しく大量の文書」という理由で1年も待たせるのは不自然だ。
組坂氏は次のように見ている。
経産省は、初めから宇久島メガソーラーをはじめ複数の事業について、特別扱いをして 報告徴収そのものを行っていないので、そもそも文書は存在していない。
しかし表向き、報告徴収は全事業者一律に行われたとされているため、「存在しない」とは言えない。
そのため、開示請求がきた時点で「著しく大量の文書」という通知を出して 文書が存在したように偽装したのではないかと。
事実なら 認定取消し・買取価格の引き下げを
下表は、組坂氏が作成した 現在の九州管内における 認定発電出力の大きい順 1位から25位までの一覧表である。表中、左から5列目の「認定無し」とは、「平成28年度(2016年度)までの認定事業者一覧」に記載がなかったことを表している。
しかし現在の、事業計画認定情報 公表用ウェブサイトでは、それらの事業者は全て2012年(平成24年)度~2013年(平成25年)度の日付で認定されたことになっていて辻褄が合わない。
前述のように、2013年9月に報告徴収が行われ、土地の権利が確定していないなど基準を満たしていない中小の事業者は認定取消しとなっているが、その数は 600を超えるという。
表中の殆どの事業者は、報告徴収時に土地の権利が確定していなかったことが確認されており、公平公正に徴収が行われていれば 認定取消しの対象となったはずである。
それが現在認定されているということは、何らかの特別扱いがあったと考えるしかない。
事業者名では分かりにくいが、国内の大手企業・銀行、外資などが入っており、政治的な力が働いて優遇したことも想像される。
経産省には、認定を取り消された事業者があることも踏まえ、納得のいく合理的な説明が求められる。
本来認定されていなかったはずの 表中 25の事業者のうち、10者は既に運転が開始され国民負担が発生中しており、あとの15者は運転開始前で これから負担することになる。
仮に特別扱いされたことが判明し、本来のルール(期限までに土地の権利が確定していない事業者は認定取り消し)による措置が取られればその負担はなくなる。
組坂氏は、「九州電力は、基準を満たしていた中小の事業者を故意に参入させないよう事実上接続を拒否し経産省もそれを追認、一方で 経産省は 九電の子会社も含め 大口の資本が参加した事業については 自らが決めたルールを破り認めてきた」として、現在 国と九電を相手取り訴訟の準備を進めている。
組坂氏が代表を務める 政治団体「再エネの真実を知る会」
再エネ特措法 第一条には「我が国の国際競争力の強化及び我が国産業の振興、地域の活性化その他国民経済の健全な発展に寄与する」と崇高な目的が掲げられている。
しかし、こと太陽光に関しては、一部の国内大手資本の参入を促進、または外国資本による植民地型の開発が黙認されるなど、国と政治家の無策ぶりが目立つ。
国民と国土がこれだけ悲鳴を上げているのに、太陽光関連の事業者から政治献金を受け取っている政治家も少なくない。
議員の先生方におかれては、国会の場で 過去に大手事業者に特別扱いがあったのか質して頂きたい。
仮に事実が認められた場合、運転開始前であれば認定取消し、運転中であれば買取価格を引き下げるなどの措置も考えられる。
再エネ賦課金が無駄に膨らみ 国民負担が増していかないよう、努めて頂くことを期待している。
ー 了 ー