遅れる無害化処理 終わらないPCB問題 救済進まぬカネミ油症 [2012年7月18日16:13更新]

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一度は遠ざかったPCBの記憶が最近、改めてよみがえる機会が増えている。PCB(ポリ塩化ビフェニール)は理想の絶縁材料として、高圧トランスやコンデンサーの絶縁油などに幅広く使われてきたが、1968年に発生した「カネミ油症事件」で毒性が発覚。製造や輸入が禁止された。しかし、被害の訴えは約1万4000人にも及んだが、患者の認定は2000人弱に止まり、44年たった現在も救済を求める声が絶えない。そのため、超党派の議員立法による救済法案を今国会に提出する動きも出ている。一方、大量に保管されたPCB入りの機器の処理は、禁止から30年近くたった2002年に開始されたが、処理完了期限の16年7月には処理能力の不足などで処理が終わらないことが最近明らかになり、あと7年の延長が検討されている。終わらないPCB問題の現在を探ってみた。

PCBは化学的に安定で、熱に強く、絶縁性が良いため、「理想的な絶縁材料」「夢の化学物質」と呼ばれ、1929年からアメリカで大量生産が始まり、トランス(変圧器)やコンデンサーの絶縁油、各種工業の熱媒体などに広く使われてきた。

毒性が明らかに カネミ油症事件

しかし、1960年代後半、欧米で魚など野生動物の大量死の原因としてPCBが疑われ始めた。1968年の「カネミ油症事件」 は、人に対して毒性があることが明確になった事件だった。これは北九州市にあるカネミ倉庫が食用油を作る際に、油の脱臭工程で熱媒体として用いていたPCBが、腐食したパイプの穴から食用油に漏れた。この油を食べた人たちに皮膚の色素沈着や吹き出物などの肌の異常、頭痛、手足のしびれなどの中毒症状が出た事件だ。

被害者は福岡県を中心に西日本一帯に発生。被害の訴えは約1万4000人にも及んだ。しかし、患者として認定されたのは2000人弱。被害者による裁判などの活動で、一時金や医療費の支払いを受けているが、具体的な治療法が見つからず、被害者の苦悩は続いている。さらに、認定基準があいまいで何らの救済も受けていない人も多いという。

そのため、昨年8月、被害者救済を目指す超党派の議員連盟が発足。今年5月21日には、未認定患者も含めた約2000人に、医療費や月3万円の療養手当を支給する救済法案を議員立法で今国会に提出する方針が決められた。しかし、消費税増税に揺れる状況では行方が危ぶまれている。

空白の28年間 消えたPCB機器も

一方のPCBの無害化処理も不透明感がつきまとう。前述のようにPCBの毒性が明らかになって、1974年6月から製造や輸入が禁止になった。その時点で国内では約5万4000トンのPCBが使われていた。これらPCBの処理が問題となった。廃棄物処理法によってPCB入りのトランスやコンデンサー、安定器などの機器を保有する企業や事業所は保管と報告が義務づけられた。

しかし、処理方法が確定せず、保管や報告が義務付けられているにも関わらず、多くのトランスやコンデンサーなどが紛失したり、一般産業廃棄物として処理されたり、企業の倒産などで年間数千台の割合で保管状況が不明になったといわれる。

こうした状況を受け、禁止から21年後の01年にやっと「PCB処理法(PCB廃棄物適正処理推進特別措置法)」が制定され、罰則(3年以下の懲役か1000万円以下の罰金)を設けて保管者に処理を義務付けることとなった。

PCBは1100度以上の高温焼却で完全に分解するが、800度以下だと有毒のダイオキシンが発生する。欧米では高温焼却が一般的だが、日本ではダイオキシンの発生を懸念する周辺住民の反対のため、化学反応でPCBから塩素分子を切り離して無害化する化学処理方法がとられた。

しかし、化学処理法は大規模な施設が必要で、費用も高額。環境省は国の全額出資で日本環境安全事業株式会社(JESCO)を設立。全国5カ所(北九州、愛知、東京、大阪、室蘭)の処理工場で高濃度のPCB機器の処理を行い、低濃度機器については民間の処理施設を認可する形で、02年から処理を開始した。

遅れる無害化処理 期限延長も検討

処理が始まった02年段階での保管量は、トランスが約4万9000台、コンデンサーが約154万台、柱上トランスが約186万台、このほか使用中のものがトランス約3000台、コンデンサー約6万4000台、柱上トランス約195万台という膨大な量である。

これが8年後の10年3月でどうなったかというと、トランス約7万台、コンデンサー約195万台、柱上トランス約209万台と、かえって増えている。処理がスムーズに進まず、さらに報告・保管義務に罰則がついたため、その後に報告が相次いだものと思われる。

環境省は当初、処理開始から15年の16年7月にすべての処理を終える予定だった。だが、上記の数字で分かるようにとても無理。そこで同省は今年5月、完了時期を7年程度延長して「23年度中」とする方針を有識者検討委員会に諮った。結論はまだ出ていない。

このように、PCB問題はまだまだ尾を引きそう。さらに、PCB処理法の制定以前に〝消えたPCB機器〟の行方も気になるところだ。