九州電力の新たな人事、その舞台裏 川内原発再稼働の可能性は? [2012年3月2日13:46更新]

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九電の殿様体質は、変わるのか

やらせメール問題をめぐる第三者委員会の答申対応で、枝野幸男経済産業相から叱責を受け、再稼働に向け立ち往生してしまっていた九州電力。副社長だった貫正義氏、瓜生道明氏がそれぞれ会長と社長に就任し、次なるラウンドに歩を進めた。この人事は、明らかに川内原発の再稼働に向けた環境整備であり、経済産業省との細かなやり取りの上で決定された。危機的状況にある九州の電力供給安定化に向けて、一歩を踏み出したと言えるが、まだまだ紆余曲折は予想される。



それぞれの思惑は

九電の人事が決定した。10月下旬から外部だけでなく内部からも眞部利應社長に対して辞任を要求する声が出ていたが、社長は続投を宣言。枝野経産相が不快感を示し、再度、暗に辞任を要求するなどしていたが、12月末に眞部社長が「今年度中に辞任する」と表明した。

そもそも第三者委員会の郷原信男元委員長との対立が生じた際に、九電側は事の重大性を自覚できなかった。経産省などの監督官庁ともほぼ話がついていたため、九電は自らの作成した報告書でやらせメール問題の区切りをつけることが出来たと考えていた。それが枝野経産相の登場でぶちこわされたのである。しかし松尾新吾会長はあくまでも既定路線にこだわり事態は泥沼化した。

一度は眞部続投を認めた経産省幹部は、大臣と九電の間の折り合いをつけるため人事を動かさざるを得ないと判断、九電幹部との折衝に入った。一度、口に出したことは余程のことがない限り、変更しないのが松尾会長。11月中の解決を考えたが事は難航。この過程で松尾会長の代理人として経産省との折衝にあたったのが瓜生道明次期社長である。経産省に両論併記での解決などの案を出しながら他方で、松尾会長に東京での九電問題をめぐる困難な状況を説明。粘り強く解決への途を模索した。

九電内部の対立が激化 

一方で人事を巡っては、九電内部の対立が顕在化しはじめた。鎌田迪貞元会長や藤永憲一常務は眞部社長の辞任を要求。「監督官庁と対立することはできない」というのがその理由。藤永常務は役員会で直接、辞任を要求したという。こうして眞部社長を辞任させることを松尾会長も決断。次期社長を誰にするかが問題となった。極秘に入手した情報では第1案は瓜生氏と阪口誠一上席執行役員のコンビ、第2案は藤永氏と小野丈夫上席執行役員のコンビとなっていた。結局、松尾氏が会長を降りることで行き場のなくなる副社長の貫氏を会長として処遇、そのかわりに松尾氏、眞部氏の直系といわれる瓜生氏が新社長に昇格することになったといわれている。

経産省も九電の内部規定の関係で急浮上した別案には難色を示し、松尾会長とのパイプとして汗をかいた瓜生氏が社長になることを了解。瓜生氏が来年度から指揮を執ることになった。

川内原発の再稼働に向けて

この人事が急がれた理由は、やらせメール問題で立ち往生してしまった原発再稼働への道筋をつけることであった。昨年11月提出された関西電力大飯原発でのストレステスト評価が、今後は再稼働を待つ各地の原発に適用される基準となる。そして九電が12月に提出した玄海原発2号機と、川内原発1号機、2号機で実施したストレステストの結果について、再稼働は妥当か否かの評価がこの2月にも出ることから、監督官庁である経産省に配慮した人事であった。岩切秀雄薩摩川内市長は「国の審査結果を待たなければ、先に進まないと思う」と国の判断を慎重に見守る考えを述べた。報告が提出されたことには「(再稼働に向けた)一つの手順がクリアされたのかなと思う」との見方を示し、地元合意はできるとの見通しを示した。

新大分火力発電所の初歩的な事故(2月3日)で、全国の電力6社から240万キロワットの電力融通を余儀なくされた九電は、この問題でも郷原氏から「現在の企業体質で原発の運営などとんでもない」と強い批判を浴びている。たしかに課題は山積している。全国的な反原発、減原発への動きの中で、ストレートに原発再稼働が認められるものではないが、現在の民主党主流派も実は原発推進派。玄海原発とは異なり反対派が少数である川内原発の再稼働は、他原発と比較すれば、近い可能性もある。  これまでの殿様体質から脱却し、九州の電力需要問題の解決に向け、一歩一歩着実に歩み出して欲しいものだ。

(福岡県民新聞 第62号 2012年2月15日 掲載記事 )