フリー記者から知事会見参加要求 – 揺れる鹿児島県政記者クラブ [2012年6月14日18:44更新]

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記者室など県の便宜供与に批判も

記者クラブ。国の各省庁から県や市などの地方自治体、また企業などの取材を行うためのマスコミ記者の任意団体だ。多くは庁舎内に設けられた記者室に常駐し、首長会見を主催し、行政の動きなどを取材している。行政権力を監視し、国民の知る権利を代行する拠点だと胸を張る大手マスコミだが、最近、この記者クラブに対する周囲の視線が厳しくなってきた。首長会見などからクラブ員以外のメディアやフリー記者などを排除するバリアとなっているからだ。行政から提供される無償の記者室などの便宜供与も、公金の公平な運用の観点から、批判の目が向けられている。最近、ネット上で話題になっているフリー記者と鹿児島県政記者クラブとの攻防を糸口に、記者クラブの何が問題なのかを探ってみよう。昨年末、鹿児島在住のフリー記者、Aさんが翌年1月4日に開催される伊藤祐一郎鹿児島県知事の記者会見参加を同県広報課に申し込んだ。Aさんは全国的なネット新聞に寄稿しており、県内の川内原発の再稼働問題で、知事の見解を確かめたいと思ったからだ。

知事会見への参加
フリー記者を拒否

ところが、鹿児島県政記者クラブ(青潮会)の幹事社から「知事会見に記者クラブに所属していない方の出席は認めません」という返事が返ってきた。同県広報課も「青潮会との間で、フリーランスの知事会見出席について協議しているが、結論がでていない。1月4日の知事会見は、県としてもフリーランスの出席は禁止する」とにべもなかった。

青潮会は、大手全国紙、地方紙、通信社、テレビ局の計14社が加盟する任意団体。知事会見は、この青潮会が主催する。このとき、青潮会がとった態度は決して珍しいものではない。実は全国の記者クラブの大半が同じような構成で、首長会見を主催し、クラブ加盟社以外の参加を認めていない。

しかし、これは現状に合っているのだろうか。以前は情報発信に大きな壁があった。新聞や放送、雑誌などで情報発信したり、意見表明を行うことは、資金や人手がかかり、意欲はあっても、個人やグループで行うのはハードルが高かった。しかし、インターネットが普及した現代、意欲さえあれば、個人でも情報発信できる。そのため現在では、多くのネットメディアが誕生し、それぞれ独自の情報発信を競っている。

苦肉の参加規約
排除の論理貫く

Aさんもその一人。その後、Aさんの熱心な知事会見参加要請に対して、青潮会は「青潮会主催の記者会見に関する規約」を作成し、3月末にAさんに通知したという。この規約には、青潮会非加盟の記者であっても、青潮会が決めた条件に該当すれば、オブザーバー参加できるというものだった。だが、この条件が厳しい。日本新聞協会や民間放送連盟、日本雑誌協会などの会員社、日本インターネット報道協会法人会員会員社、およびそれらのメディアに定期的に寄稿し、記者として実績を有する者であった。

これで門戸を広げたつもりかもしれないが、ネット報道を営利的に行うのは難しいため、法人は全体の中ではごく少ない。フリー記者の大半は参加できないことになる。また、参加できたとしても、質問することができず、いわば記者活動は大幅に制限される。

Aさんは何とかこの関門をくぐり抜けて、4月20日に行われた知事会見に参加することができた。しかし、会見場では知事の発言の真意を質すことができず、後日、改めて文書で質問して回答を得た。会見場で聞ければ、何ということのない問題だった。

昨年の3・11原発事故では、政府や東京電力が隠していることをメディアは十分追及しなかった、記者クラブも事故の真実隠しに一役買っているのではないかという不信感が広がった。このように、クラブ以外のメディアに対してバリアをはっていると、行政との癒着を疑われても仕方がないと思われる。

問われる便宜供与
県民が陳情準備

記者クラブについては、無償の記者室使用など行政からの便宜提供の問題がある。電話やファクスは各社の持ち込みで、コピー代なども個々に支払っているケースが多いが、基本的な光熱費は行政持ちだ。以前、東京都の石原知事が都政記者クラブに対して、記者室の使用料約2000万円を支払えと要求したことがあった。結局は石原知事は矛を収めたようだが、それ以後、加盟各社の石原知事に対する追及が弱くなったといわれている。

こうした記者クラブの問題に対して、鹿児島県民の有志が声を上げる準備を進めている。鹿児島県においては、薩摩川内市で進められている産業廃棄物の最終処分場(エコパークかごしま)について、大量の汚泥の違法な搬出や汚水の垂れ流し、また80億円にものぼる工事の入札関連文書が情報公開請求に対して「不存在」との回答を行うなどの疑問が、ネットメディアによって指摘されている。しかし、記者クラブ加盟社によって真剣にとり上げられた形跡がない。また、昨年末から今年にかけ、県民が行った記者室の維持経費の情報公開請求で、無償で使っていることが明らかになったなどの不満があるようだ。

県民有志は、任意団体にすぎない青潮会への便宜供与廃止、知事会見などの県主催化、なんら制限を設けない会見への参加保証などを盛った、県議会議長あての陳情書を準備中で、今週内にも提出する予定。記者クラブ問題に県民がもの申す、全国でも珍しいケースになりそうだ。