進退窮まった野田佳彦首相 [2012年6月14日18:53更新]

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消費増税法案成立に暗雲
解散も踏み切れず

4月26日、民主党の小沢一郎元代表の政治資金規正法違反事件で無罪判決が出たことで、小沢氏の足元に絡みついていた重しがとれた。野田首相が「政治生命を懸ける」と明言した今国会の消費増税法案成立には暗雲が立ちこめ、首相は進退窮まった。  「奇跡を願ったがダメだった…」。首相周辺からはこんな嘆き節が聞こえる。小沢氏が有罪になっていれば小沢氏の政治生命はほとんど終わり。首相は心置きなく小沢氏排除に踏み切り、自民党との話し合い解散に進むはずだった。

だが、「小沢無罪」で状況は一変した。輿石東幹事長は判決直後から、小沢氏の党員資格停止処分を解除する方針を明言。党内では選挙担当の最高顧問に据えるのでは、という憶測まで飛び、小沢氏の復権は確実だ。

野田首相が政権の目標の第一に消費増税法案成立を置くのに対し、小沢氏の第一目標は「解散阻止」だ。小沢グループの力の源泉は衆参で130人に及ぶ国会議員の「数の力」。だが、選挙基盤の弱い新人衆院議員が大半を占めるのも事実だ。いま、消費増税を争点とした衆院解散・総選挙ともなれば大量落選は確実。なんとしても避けたい。

一方、党内の情勢は複雑なようで簡単だ。党執行部は輿石氏も含め、首相が執念を燃やす消費増税法案の成立に協力する姿勢は表向きみせている。だが、それはあくまでも「解散無し」が前提。だれがどうみても惨敗確実な解散を望む議員は民主党には皆無と言っていい。

解散をせずに、消費増税法案が成立するなら問題はない。だが、参院で野党が多数を占める現状では法案成立には野党の協力が不可欠だ。野党を法案成立に協力させるための「エサ」として、首相が持っている材料は、実は解散しかない。

首相は解散して民主党が惨敗しても、消費増税法案の成立のめどがつけばいい、という決意を固めている。自民党の谷垣禎一総裁もそれに応じる気持ちを持っている。だが、民主党内で、消費増税法案の成立のためなら自分が落選しても良い、などという議員はいない。

つまり、首相が仮に自民党に対して話し合い解散を提案して、自民党がOKしても、民主党から反対の大合唱が起きることは確実だ。最後まで首相を支持するのは岡田克也副総理だけ、と言ってもいいだろう。解散を決める閣議で、閣僚が次々辞表を出すなか、野田首相と岡田副総理がすべて兼務して、それでも解散に踏み切るという決意があるか。

小沢氏の狙いはそこにある。小沢氏の最大目標である「解散阻止」に民主党から集まる人数は、首相の最大目標である「消費増税法案成立」に集まる人数より確実に多い。  消費増税法案の国会審議は遅れており、6月21日の会期までの成立は早くも厳しい状況だ。しかも今年9月には民主党代表選が控えている。このため、まず会期の大幅延長が絶対条件になる。法案が成立しないまま、会期通りに閉会するなら、「話し合い解散」どころではなく、首相には退陣の道しか残されていない。何も出来ないまま9月の代表選に臨んでも敗北は確実だ。

会期延長が出来たとして、首相の選択肢は2つしかない。話し合いであれなんであれ、国会が閉じるまでに解散を強行するか、9月の党代表選で小沢側の候補と戦うかだ。もちろん、解散をせずに、あるいは解散を約束せずに、法案が成立するなら、話は全く違ってくるが、そんな甘い見通しはない。解散をしないなら、会期を延長した上で法案を継続審議にするしかない。その立場で9月の代表選に臨んで小沢側の候補に勝てるか。

民主党の議員はこう考える。「ここで野田に勝たせたら、解散になってしまう」。民主党内中間派の議員は野田首相嫌さに、小沢側の候補に投票する可能性が高い。

こうして見てくると、首相が今国会と9月の代表選を乗り切る見通しはほとんど立たない。いまや野田首相は自民党の谷垣総裁に助けを求めるしかない状況だ。

谷垣氏は同じ財務相出身の野田氏に強いシンパシーを感じているとされる。谷垣氏にしても、9月に自民党総裁選を控えており、解散に持ち込めなければ自分の首が危うくなる立場は野田首相と同じ。政界から「話し合い解散」の芽が消えないのはそのためだ。

だが、谷垣氏も1党を背負う立場。どんどん足場が崩れ、民主党内をまとめることも危うくなっている野田首相に安易に乗ることはできない。そもそも求心力が著しく低下している野田首相は「話し合い解散」を約束できる立場なのか。約束しても実行できるのか。そんな疑問が谷垣氏のなかでどんどん、大きくなっていることは間違いない。

小沢氏はこうした野田、谷垣間の弱さを見抜いている。これから小沢氏が大声を出せばだすほど、谷垣氏は野田首相への疑念を深めていく。党内の解散への懸念も強まっていく。小沢氏はこれからなにをする必要もない。とにかく、消費増税法案の採決に踏み切らせず、時間を稼げば、力関係のてんびんはどんどん、小沢氏側に傾くばかりだ。

現実的には野田首相は会期延長をさせるまでで、消費増税法案も成立させられず、解散にも踏み切れず、力尽きる可能性が高い。結局、9月の党代表選まではたどりつけないだろう。

ずばり、今年8月のお盆前に、野田首相は、文字通りに進退窮まって、内閣総辞職に追い込まれると予想する。その後は、野田後継の位置づけの岡田克也副総理と、小沢氏側の候補が雌雄を決することになるだろう。