永田町リポート 覇気失う野田首相 〜次の目標が見つからないまま「うそつき」よばわり〜 [2012年12月17日15:17更新]

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野田佳彦首相の顔色がさえない。国会答弁ではたびたびろれつが回らなくなり、酒量も増えているとささやかれている。「鈍感力」が売りの首相だが、野党からは自民党の谷垣禎一前総裁との「近いうち」解散の約束を果たすよう迫られ「うそつき」呼ばわりされる始末。内閣支持率の低空飛行が続き、次期衆院選に踏み切れば大敗は必至。衆院の与党過半数割れも目前と八方ふさがりだ。

首相は悲願の消費増税法を成立させた後の「次の目標」がみあたらない。消費増税法成立直後には、憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認などのアドバルーンをあげてみたものの、党内外から袋だたきにあい、たちまちひっこめた。その後は「やるべきこと」がなくなった。

もともと首相は「なれると思ってなった」首相ではない。党内基盤も弱く、様々な党内駆け引きの流れのなかでいわば「棚ぼた」首相だ。

野党時代は「ニッポン丸洗い」がキャッチフレーズで行革がライフワークだった。だが民主党の政権獲得後、財務副大臣、財務相を歴任してすっかり財務省官僚に洗脳されたらしい。いつのまにか、以前は一言も口にしたことのない財政再建、消費増税が「悲願」になっていた。

だから首相の悲願は薄っぺらい。税というのは現在の日本の最大の課題である社会保障をはじめ、国の形の基本を決める基本だ。本来ならば増税を決めただけで終わるはずはない。増税して何をするかが本題のはずだ。しかし、首相にはその「何をするか」が全く見あたらない。

こうなったのは首相個人の問題だけではなく、民主党政権全体の問題がある。09年の政権交代は「何も出来なくなった」自民党政権に国民が愛想をつかした結果だった。ところが鳩山由紀夫元首相は米軍普天間飛行場の県外移転という、出来もしないことを呼号して迷走。次の菅直人前首相は参院選で大敗すると、参院で野党が多数を占めるねじれ国会に対処できなくなった。野田政権となり内閣支持率が低空飛行を始めると、今度は民主党全体が解散恐怖症にかかり、ひたすら解散を先延ばしすることに専念し始めた。「解散を先延ばし、できるだけ与党でいたい」という目標はそれ自体、前向きな意味を何も持たない。いまや政権全体、民主党全体がひたすら後ろ向きな姿勢に徹している。

民主党内では内閣を総辞職させ、若い細野豪志政調会長にすげ替えることで事態を打開しようという案もある。経済対策や補正予算で支持率を回復しようという動きもある。これらはいずれも、自民党の政権末期に実施された案と同じだ。安倍政権も福田政権もしきりに経済対策を強調したし、衆院の任期満了が迫る中での麻生太郎元首相への交代は支持率回復への期待からだった。

その結果どうなったかはみんな知っている。なぜ失敗したのか。それらがいずれも対症療法に過ぎず、政権が何をやるかという本質から遠かったためだ。何かをやるために政権にいるはずなのに、政権にいるために何かをやるという本末転倒なことをいくらやっても国民はだまされない。「殷鑑遠からず」だ。それなのに民主党はまったく同じその過ちを繰り返そうとしている。自民党と同様、民主党も政党としての寿命がつきたとしか言いようがない。

いま、野田政権が描いているのは、いかに整然と自民党に政権を渡すかだ。そのためには第二党の座を維持する必要がある。万が一にも第二党の座を維新の会に明け渡すようなことになれば、政権はいや応なく自民と維新の連立政権となり、民主党はそもそも政党としての存続すら危うくなる。せめて第二党にいることで与党に協力するなり、反対するなりの行動が意味を持たなければ求心力が維持できない。

そのために野田首相が最低限必要と考えているのは、民主、自民、公明の3党合意路線の実質的継続を担保する、特例公債法案の成立。年末の予算編成。さらに来年度予算成立までの政治空白を埋めるために補正予算の成立、この3点だ。

いずれも自民、公明両党の協力が前提だ。特に特例公債法案を巡っては、成立にあたって「予算と一体として処理する」などを内容とした覚え書きのようなものを自公両党と結べば、解散後、政権交代後まで見据えた3党協力の形を残すことができる。こうした形を作ることで、衆院選後の維新の攻勢を今のうちに防ぐ陣営を作っておこうという考えだ。

ただ、衆院議員の任期は来年秋まで。いかに維新の会を恐れようと、先延ばしには限界がある。結局はいかに「美しく」解散するかという課題しか残っていない。

永田町でもっとも可能性が高いとされているのは来年の通常国会の冒頭解散だ。しかし、民主党内では「できれば予算成立まで」という世迷い言も聞かれる。一方で一時取りざたされた来年秋のダブル選挙は「そうなれば衆院も参院も民主党が大敗してどうにもならなくなる」という意見が強く、ありそうもない。

民主党は今や、しょせん、限られた範囲に行うしかない解散の時期さえ決めることが出来ず、右往左往している。