市と患者ら溝深まる 巧みな「情報操作」 こども病院問題 [2008年9月4日08:40更新]

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(08年8月号掲載) 

患者らに説明する吉田宏・福岡市長福岡市立こども病院(中央区唐人町)について、市は7月末、人工島(東区)へ移転する方針を決定したことを発表した。

これに先立ち開催された説明会では、患者らが吉田宏市長への不信感をあらわにし、移転の賛否を問う住民投票を求める動きも出ている。

一方、市がコンサルティング会社に委託して算出した、現在地で建て替えた場合の費用試算が、いつのまにか水増しされていたことが明らかに。こうした事実は一部メディアしか報じておらず、正確な情報が市民に伝わっているとはいえないのが現状。

移転案は9月議会に提出される見込みだが、各会派の対応を含め、まだまだ紆余曲折がありそうだ。
(写真=患者らへの説明会で話をする吉田市長)



市長へ向けられた罵声

「ウソだ」「ウソつき」。吉田市長の「人工島事業のために病院を移転する、ということはありません」との発言に、会場に詰め掛けた患者や家族らから一斉に声が上がった。

7月17日、同病院で行われた説明会。吉田市長が初めて出席したが、市長はこれまでの市の言い分をなぞるだけ。

終了後、吉田市長は「方針に変わりはない。みなさんの心情はよくわかる。隔たりを埋めるための策を何とかしたい」と語ったが、すでに一部の患者らは移転の賛否を問う住民投票の実施を求めて署名活動を始めており、両者の溝はますます深まっている。

現地立て替えの費用「水増し」して比較

人工島移転の有力な根拠の1つは、現地で建て替えた場合費用が高くつく、というもの。だが、この数字が「水増し」されていたことが明らかになった。

コンサルティング会社が昨年7月に提出した報告書では、総額約85億5000万円となっていた。だが、同年12月に市が発表した検証・検討報告書では約128億3000万円と5割増しになっている。

市は「ゼネコンの意見を聞き、額を増やした」と説明しているというが、ならば何のために民間の専門業者に試算を依頼したのか。またゼネコンに聞いたという詳細も明らかにされておらず、真相は薮の中だ。

自分達に都合よく数字を操作するのはいわば行政の「得意技」。こうした例は枚挙にいとまがないが、この手の「努力」をすればするほど、逆に「まず人工島ありき」の基本姿勢が浮き彫りとなってくる。

「人工島はあくまで次善の策」と病院長

もう1つの根拠は医師らの要請だ。

現在の病院は設備が古くて狭い。また緊急時のためにヘリポートが必要、だから人工島―というわけだ。こども病院の福重淳一郎院長は「標準的な医療機能を確保するためには広い土地が必要」と説明会などで何度も訴えた。

ある病院関係者は「実は、院長は人工島案に反対だった」と語る。「昨年夏ごろまでははっきりと反対していた。現場の医師の声を伝えてほしいとマスコミの取材も積極的に受け入れていた。しかし年末に市の検証・検討報告書が出される前あたりから、なぜか変わってしまった」

福重院長は「確かに昨年、検証・検討委員会が発足した直後、現地での建て替えを第1に考えるようお願いした。だがこの案は現実的ではないということで、人工島への移転はあくまで次善の策です」と説明する。

別の病院関係者は「人工島はアクセスが悪く不適当というのが、医師の間での共通認識です」と話す。

 

マスコミの報道は・・

福岡市立こども病院(中央区唐人町)首を傾げたくなることが「山盛り」のこども病院移転問題。だがマスコミ報道では、こうしたことはなぜかほとんど報じられない。

例えばヘリポート。ベテラン報道関係者はこう語る。「人工島を空撮する時にヘリを飛ばすのですが、上空が飛行機の進入路に当たるため空港管制塔からの許可がなかなか下りず待機しなければならない。燃料や時間に余裕を持たせて飛ぶ。報道の常識ですよ。そんな場所のヘリポートが使い物になるんでしょうかね」

ある病院関係者はこう打ち明ける。「今年5月、『病院の現状を正確に知ってもらいたい』と、マスコミ各社の記者を集めて病院見学が行われた。市報道課の職員が付きっきりで1日3社、4日間に及びました」

同病院では病院利用者からアンケートを取っているのだが「記者たちは最後に、院長から1枚だけアンケートの回答を渡された。それは『駐車場が狭い』という内容だったそうです」(病院関係者)

ちなみにこの時期、患者らからの「説明会を開いてほしい」との要請を、市は「時間がない」と断り続けていたという。

こうした懐柔策、いや、手厚い報道対応が功を奏したわけでもないだろうが。

利用者らには悲劇

市は7月27日に人工島への移転方針決定を正式発表。論争の舞台は9月議会へと移る。だが、極めて巧みな市の情報操作の中、はたして市議らもどれだけ事実を把握しているだろうか。

一部会派は市の案に反対の意向を示しているが、裏では「密約」の噂が絶えず、議会では市民の利益よりも政治的駆け引きが優先される可能性が高い。

十分な情報・事実を知らされないまま、党利党略によって人工島移転が決まるとすれば、それは、利用者らにとって悲劇以外の何物でもない。

★「こども病院人工島移転の是非を問う住民投票を実現させる会」HPはこちら