救いの神か、それとも・・ 資金繰りを頼った結末は [2008年4月28日08:46更新]

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(08年4月号掲載)

中小企業倒産防止開発機構のHP昨年から続く原油高は、多くの中小企業を直撃している。何とか年度末を乗り切り安堵している経営者も多いことだろう。

「当座の資金繰りをどうしたらいいのか」。悩める経営者の元へ、ある日ダイレクトメールが届く。株式会社中小企業倒産防止開発機構―「日本初の債務保証システム」「総合的な見地から中小企業を支援・救済」。

ワラにもすがる思いで飛びつく経営者。会社を訪ねてみると、立派な構えの応接室と礼儀作法の行き届いた接客が待っている。苦しい立場にある者の心を揺さぶる言葉。「この会社に助けてもらおう」。相手の言う通りコンサルタント契約を結ぶ。その先に待っているのは・・。 



言われるままに・・

「本当に行き詰まっている時でした。『50億円キャンペーン』と書かれたダイレクトメールが来たんです。社名を見て、公的機関かなと」。そう振り返るのはある企業の社長、A氏だ。「それで、とにかくダメモトで審査を受けました」

めでたく審査を通ったA氏と面談した開発機構の担当者は「再出発できるようお手伝いしたい」と語ったという。「それはもう、ばか丁寧な接客態度でしたよ。部屋の調度類も立派。目頭が熱くなるようなことを優しく言われて、感動しました。ここなら信用できる、任せてみようとコンサルタント契約を決めました」。

まず「資金作りのため」と手形を切ることを求められ、A氏は言われるままに数十枚を切った。

さらに担当者はA氏に、「今後手形を切ったら後で困るから」と、開発機構に預けるよう求めたという。社内には貸金庫の部屋があり「疑うことなく手形、通帳、実印を預けました。冷静に考えると、彼らはカギを持っているわけだから自由にできるわけですよね。今になってバカなことをしたと思いますよ」。

だがその後、約束した資金がA氏に渡されることはなかった。「話が違うと抗議すると、調子いいことばかり言ってのらりくらりと逃げるんです。それで、解約するから手形を返せと迫りましたが、いまだに大部分が返ってきてません」

手形の支払い期日が迫る中、不安な日々を過ごしているという。 

おかしいと気付き被害最小限に

「資金繰りに困っていた時、『そういえば…』と思い出したんです。開発機構からのダイレクトメールを」。そう語るのは別の企業の幹部、B氏である。

「一流ホテルのロビーのような部屋に通されて、社員の対応も信じられないほど丁寧。結局審査に通り、いろいろとアドバイスしてくれました。現金の流出を抑えるため手形決済を優先させろとか、非常に的確な指摘だと感じました」。その後、資金を立て替えてもらったりしたという。

「そのうち、会社業務の肩代わりをすると言い出してきて。取引先とのやり取りを直接開発機構が行う、と。それで、おかしいなと思ったんです」。取引先との人間関係を重視するB氏は、長年培ってきた物を奪われるような気がして、頑なに拒絶したという。

「ちょうどそのころ業績が上向き始め、それを機会にきっぱりと縁を切ることが出来ました」。幸いなことに被害は最小限に食い止められた―とB氏は言う。

「たとえば、金を貸すのではなく『支援』、金利ではなく『手数料』。そう表現していましたが、後で思うと出資法などに触れる可能性があるからなんですね。相当優秀なブレーンがいるんだな、と思います。もし私が社長だったら冷静な判断力を失って、今でも信じていたでしょう」

最終的には「自己責任」 自分で身を守る必要

「警察に相談に行ったんですが、開発機構の名前を出すと担当の署員に『あんたもか』という顔をされて・・・。同じ内容の相談が複数あると言ってましたよ。『証拠がないと動けないんだよなあ』とも。これが現実なんだなと、つくづく感じました」。ため息交じりにこう語るのはC氏だ。

ここ数年、詐欺による被害が増えている。景気低迷が続く中、手っ取り早く金を増やしたいと願う「カモ予備軍」の増加がその一因だろう。そのためか、詐欺にあっても「だまされる方も悪い」とする風潮も強まっているように思われる。

「あまり大きな声では言えないが――」。ある捜査関係者は本音を漏らす。「正直、『そんなの自己責任だろう』と言いたくなる例も多々ある。濡れ手で粟の、うまい儲け話に安易に乗った挙句、詐欺だから逮捕してくれと言われてもねえ」

手口もバラエティに富んできた。振り込め詐欺のような単純な物から、絶対確実な投資話をうたった物まで様々。さらに最近は法知識に長けた、巧妙な詐欺師も暗躍している。「詐欺という犯罪は立証が難しい。まずはだまされないようにするしかない」(捜査関係者)。

詐欺にあっても同情もされず、捜査当局も動かない。そうなれば結局、自分で身を守るしかないのだが・・。 

 

本紙HPで何度が報じてきた中小企業倒産防止開発機構。関係者によると、同社では最近、社員がどんどん退社しているという。ほとんどの社員は会社の実態を知らず、最初は使命感を持って仕事をしているのだが、そのうち自分がやっている仕事に疑問を持ち、最終的に離れていくのだ。

一筋の希望を求め、そして裏切られた経営者にとっては、社員らも「共犯者」である。だが、知らないうちに「詐欺の片棒」を担がされていた社員もまた、被害者なのかもしれない。