(07年6月号掲載) 全国に誇る大きな観光資源であり、市民の憩いの場でもある福岡の屋台。しかし、「博多名物」を取り巻く状況は様々な意味で非常に厳しいのが現実だ。 福岡市中央区の大通り沿いで屋台経営権を持つAさんと娘のBさんらが遭遇した思いもよらぬ事態は、業界が抱えた問題を浮き彫りにする一方、屋台を管理する市と警察当局の本音をも垣間見せている。 Aさんの屋台が道路使用許可を更新するため、関係者が中央署を訪れたのは5月半ばのこと。屋台を経営するには公共の歩道を使用しなければならないため、警察から2カ月に1度、許可を受けることになっているためだ。 その日も従来通り、Aさんの代理の女性が署のカウンターを訪れた。ところが、この日の対応はそれまでと違っていた。顔見知りの署員がカウンター越しに「あんたのところは廃業届が出とろうが」と言ったのだ。 突然のことに驚いた女性は「そんなはずはない」と抗議。しかし署員は「先月に廃業届が出てる」の1点張り。「代理の人間が来てもだめ。使用許可は出さない」と突っぱねる。女性は「営業許可の権限は警察ではなく市役所のはず」と反論したが「営業許可も中央署長が出すったい、あんた知らんとね」と、取り付く島のない状態だった。 代理の女性は早速、AさんとBさんに問い合わせ廃業届など出していないことを確認。しかし、道路使用許可が下りない状況に変わりはなく、そうなると6月からの営業が事実上出来なくなってしまう。 なぜこのような事態になったのか。前回まではちゃんと許可は下りていたし、その時から何も変わっていないのに・・。そう考えると思い当たることがあった。 実はこの3月、道路使用許可申請の際に、営業権の譲渡について中央署に相談したことがあった。Aさんは高齢で昨年から老人ホームに入所しており、そのため娘のBさんに権利を譲りたいと思ったからである。 ところが4月になって中央署にBさんと代理の女性2人が呼び出され、個別にそれぞれ1時間ほど話を聞かれた。「『屋台のどこに焼酎を置いてあるかわかるか』と聞かれ、私は『わからない』と答えました」。中央署側は「屋台指導要綱」に基き、Bさんが実際に屋台に立って営業しているのかどうかを尋ねたかったのである。 屋台の運営や許可については屋台指導要綱で定められており、これは学識経験者からの答申を元に策定されたものである。同要綱では、営業権の譲渡について次のように定められている。 権利義務の承継 屋台営業者の占有許可に係る権利義務は、承継できないものとする。ただし(中略)屋台営業者が死亡し、又は長期療養その他のやむを得ない事由により屋台営業を継続することが困難である場合において、屋台営業による収入により主たる生計を立てている者(原則として当該屋台営業者の配偶者又は直系血族の子である相続人に限る)が自ら屋台営業をおこなうときには、この限りでない。 Bさんは、それまで確かに屋台営業の現場に立っていなかった。だから権利を引き継ぐ資格がなく、営業権譲渡は100%ありえない―というのが警察側の言い分だった。このやりとりが「道路使用不許可」の前提にあったとみられる。 5月末、AさんとBさん親子は中央署に呼ばれた。今回は市の担当職員も立ち会っていた。署員らは高齢のAさんに向かって何度も「あなたは、屋台に立ってお客さんの相手を出来ますか?朝の4時まで仕事が出来ますか?」と尋ねた。 実は、Aさんは10年以上も前に別の男性Cさんに営業権を譲っており、Aさんはあくまで書類上の営業者というのが実態だった。だが要綱の別表「屋台営業者に遵守を求める事項」に次のように定められている。 屋台営業は、屋台営業者が自ら行うこと このためAさん自身が屋台に立たないのは要綱違反―というのだ。 原理原則を適用屋台指導要綱が定められたのは00年3月。その前の94年、県警は「屋台の営業者は一代限り」との方針を打ち出していた。ちょうどそのころに権利を引き継いだCさんは「当時、この措置は一時的なものと捉えていた。落ち着いてから名義変更できると思ってたんです」と話す。 権利譲渡の相談を機に、Aさんの屋台が要綱違反のまま営業していたことを知った当局。「警察は『事情がわかった以上、原理原則を適用しないわけにはいかない』と話していました。そう言われると、何も反論できません」(Bさん)。 最終的にはギリギリになって道路使用が許可された。ただ「Aさんが実際に営業に立つ」という条件付き。市の職員らは「本当にAさんがやっているかどうか見回りに行く」と通告した。 老人ホームに入所している高齢者に対し「朝まで屋台に立って接客しろ」というのは、どう考えても無理がある。要するに「要綱違反は改善されていない」という証拠を押さえ「もはや営業は許可できない」という方向に持って行きたい、それが当局の「真意」だとしか思えない。 福岡の名物として全国に知れ渡っている屋台。しかし、客や通行人とのトラブルは後を絶たない。衛生面の問題や、常識外れに高額な料金を請求され「ぼったくられた」という怒りの声。歩道にテーブルを出して大々的に営業している屋台も多い。 これらの問題について、少なくとも現状では当局は黙認せざるをえないのが実態である。営業権の問題も同様で、いわば「なあなあ」の状態。ある屋台関係者は言う。「書類上の営業権利者が実際には屋台に立っていない例は多い。権利者の高齢化が進む中、それが現実。当局もわかっているはず」 一方、営業に関する許可権を握っている市や警察当局に対し、屋台協会は何も言えない、との声もある。「私たちだって何とかしたいという思いはある。だが、協会に何か提案してもまったく動いてくれない。このままでは屋台が消えるという危機感は強いのに、何も出来ない」 指導要綱は本来、「汚い」「通行のじゃま」といった市民からの批判やトラブルを解決しつつ、「屋台を残して」という声にも応えるために制定されたはずだ。だが、今回のAさんの例で明らかなように、要綱、さらには許可権を楯に廃業を迫るケースが出てきている。「廃業届けが出ている」「営業許可も中央署長」などと嘘をついてまで道路使用許可を出さなかった警察の対応を見ると厄介者の屋台をいずれは「消滅」させたいのが当局の本音―と言ってよかろう。 まずは業界側の自助努力が不可欠である。決め事とはかけ離れているこれまでの営業実態をもう一度見直し、いかに市民の要望や批判に対応するか真剣に検討し実行に移すべきだ。 その上で、営業環境を整備するために、たとえば下水道の整備やトイレの設置など、協会として市当局に要請、連携していくよう対策を取るのも必要だろう。 さもなければ、「当局の本音」がはっきりしている以上、屋台に未来はない。観光客らの声や当局の対応に甘えていると、「博多名物」の姿を見ることが出来なくなる日が、いずれやって来るのは確実だ。
「福岡へ来たらどこへ行ってみたい?」。県外者にそう問うと、多くの人から「屋台!」という答えが返って来る。先日も筆者は、北海道札幌市から初めて九州に来たという客人を希望通り屋台に案内し、大いに満足してもらった。このような経験をもつ市民は多いはずである。
(写真=にぎわいを見せる福岡市・天神の屋台)
当局の本音は「屋台の消滅」 博多名物をめぐる現実 [2007年6月15日17:36更新]
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