永田町リポート〜金曜日の夜が怖い野田総理〜 どこまで続く デモの波! [2012年8月17日17:43更新]

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原発の再稼働に反対する毎週金曜日夕方の首相官邸前のデモが止まらない。野田佳彦首相もついにデモを主催する団体の代表者と会うことを決断した。こうした抗議行動を受けて首相が面会するのは異例の対応で、実際首相は当初は全くその気はなかった。しかし、誰から動員されたのでもない、会社帰りのサラリーマンや主婦が続々と集まる状態が続き、無視できなくなったのが現状だ。政党のなかにも「脱原発」「反原発」を掲げる政党はあるものの、そうした既成の組織とは無縁の運動で、政党側は対応をしかねている。国会が市民の声をくみ取れなくなっている現状を表しているともいえる。

国会デモが急速に増えたのは関西電力大飯原発(福井県おおい町)の再稼働が決定してからだ。関西で起きたことだが、デモの規模は関西よりもはるかに関東のほうが大きい。一原発の再稼働反対というより、東京電力福島第1原発の事故で大きな影響を受けた関東地方で、原発自体への反発が非常に強くなっていることの現れだ。

デモの参加者の表情は明るい。深刻な問題を訴えているにもかかわらず、悲壮感よりも自由で生き生きとした感覚が広がっている。政治が混迷し、何も決まらない政治が続く中で、いつのまにか原発の再稼働という重大な問題がなんとなく決まっていったことへの違和感と不満が爆発している。「政治は信用できない。だから自分たちに主張させろ」という行動へ踏み切ったことがデモ参加者の「明るさ」につながっている。日本全体に広がる閉塞感を打破したいという気持ちが背景にある。

首相官邸はその強さを完全に見誤っていた。従来、こうしたデモを組織することが多かった労組は今回はほとんど無関係。民主党の最大の支持組織の連合も、傘下に原発推進の電力総連を抱え、態度を明確にしていない。原発デモの参加者は多くが特定の政党を支持していない無党派層とみられ、県議、市議など地方組織の網にもかかっていない人たちだ。いわば日頃は政権とほとんど無縁の人たちだ。国会議員は連日のデモには、ただとまどうばかりで民意を受け止めかねているというのが実情だ。反原発を掲げる共産党や社民党の幹部はデモに参加しているものの、ほとんど存在感はない。党派的な行動をすれば反発を買って逆効果となるため、一参加者としてデモのはしっこで声を上げているのが現状だ。

ただ、無党派層は無関心層ではない。無党派層はどの世論調査でも全体の4、5割を占めるようになっており、見方を変えれば今では政治の行く末を左右する最大の勢力だ。毎週、数万人単位で人を集めるエネルギーの矛先が政権に向けば、間近に迫った次期衆院選にも大きな影響を与えかねない。首相が面会するのもそのためだ。

永田町の一部では「消費税反対よりも反原発のほうが次期衆院選にあたえる影響は大きいのではないか」という見方さえ出てきている。首相も金曜日の夜は世論の批判を恐れ、不要不急の外出を控えている。政治の側もデモをけして軽視しているわけではない。

ただ、このままデモを続けていくほど、課題も浮き彫りになっていく。野田政権はエネルギー環境会議が決定する、将来の日本のエネルギー政策の決定を先延ばしにしている。反原発の世論の反発を恐れているためだ。エネルギー環境会議では2030年の原発依存度について、0%、15%、20〜25%の三つの選択肢を示し、検討している。政権の本音は徐々に「脱原発依存」を進める15%案。しかし、各地の意見聴取会などでは0%が約7割を占めている。

それでも、政権は基本的には当面、原発の再稼働を進める方針を変えるつもりはない。急速な脱原発に踏み切れば国内経済に与える影響が大きく、電気料金の高騰を懸念する経済界の要望も強いためだ。野田佳彦首相は0%となった場合の課題をシュミレーションするよう、関係閣僚に指示しているが、これも「0%にするため」ではなく、「0%にしないため」の言い訳の側面が強い。

政権交代して、自民党が政権をとったとしても基本的な方針は変わらないとみられる。現時点では「反原発」の声を実現する具体的なパイプはない。デモの参加者の切実な声はすれちがったまま、政権には届きそうもない。

やはり、デモの要求を実現するには、この参加者のパワーを票に変え、政党を通じて国会内で訴えるのが早道だ。だが、共産、社民党は頼りない。小沢一郎氏が率いる「国民の生活が第一」は「脱原発」を掲げるものの、小沢氏にまつわる「政治とカネ」の問題には抵抗がある人も多いだろう。やはり最後は容認したものの、大飯原発の再稼働に抵抗した橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」が受け皿になり得る。  実力はまだはっきりしないものの、7月28日に都内で結成総会を開いた脱原発を掲げる日本版「緑の党」も一定の票数を集めるとの観測が出ている。「緑の党」のような構想はこれまで何度も出てきたが、なかなか国会議員を生み出すまでには至らなかった。しかし、今回は日本にも「緑の党」議員が誕生するかもしれない。

それもこれも既成政党がほとんど、「反原発」の民意の受け皿になれていないためだ。新党に期待が集まる構図は何も反原発に限ったことではない。次期総選挙全体が「既成政党対新党」の構図になりつつあるなか、「反原発」も大きな争点になることは間違いない。