議員リポート 〜沖縄基地問題に見る日本の課題〜日本をどうやって守るのか? [2012年8月1日16:57更新]

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戦後日本は、アメリカとの同盟関係の中で平和と豊かさを享受してきた。しかし、鳩山由紀夫首相(当時)が「最低でも県外に移転」と宣言して以来、沖縄の在日米軍は反対世論の猛抵抗にさらされ、日米同盟の信頼関係にもヒビが入った状態である。日米関係はどうあるべきか?日本はどうやって国を守るのか?重たい課題が山積する中、アメリカ政府により主催された研修プログラムが「IVLP 日米同盟の強化について」である。好運にもこの時宜を得た研修に参加した福岡県議会議員・鬼木誠が、3週間に及んだ研修の成果をレポートする。

アメリカの交流外交

今回私が参加したプログラムはIVLP(International Visitor Leadership Program)と言って、世界各国の若いリーダー候補にアメリカ国務省が声をかけ、アメリカの国費でアメリカ各地を訪問研修させるというものだ。アメリカは60年以上にわたってこのプログラムで世界各国とのパイプを作り、アメリカの理解者を増やしている。イギリスのサッチャー、ブレア、マレーシアのマハティール、日本では海部、細川(以上5人は元首相)など、IVLPはこれまで世界で40人以上の国家元首を輩出している。こうした交流外交(正確な英語の表現ではpublic dip lomacy)にお金をかけることが、アメリカのソフトパワーであり、国力の現れでもある。

さて今回のプログラムは、「日米同盟の強化(Strengthening the U.S-JapanSecurity alliance)」というもので、アジア・太平洋地域の安全保障、とりわけ沖縄の米軍基地問題が主なテーマであった。

平成24年4月21日から5月13日までの3週間の研修で、全米の官民さまざまな分野の方々と意見交換を行った。

日本からの参加者は、沖縄周辺から地方議員や行政職員、新聞記者など4名、松下政経塾から塾生が2名、そして福岡から私、という総勢7名での研修であった。

訪問都市は、ワシントンDC、フロリダ州、ネブラスカ州、カリフォルニア州、ハワイ州、といった5地域。東海岸から南部、中西部、西海岸、ハワイと、アメリカが持つさまざまな顔や広大さを知ることができた。

ワシントンDCではペンタゴン(国防総省)はじめ連邦議会の軍事委員会、外交委員会、シンクタンクとしてはヘリテージ財団(共和党)やブルッキングス研究所(民主党)も訪問。またワシントン以外は、全て基地を持つ都市であった。基地見学の他にもSTRATCOM(戦略司令部)やPACOM(太平洋軍司令部)など、司令部も訪問した。通常入ることさえできないような場所で、アメリカを動かしている実務担当者のブリーフィングの後、意見交換をした。

沖縄基地問題と日米関係

日本とアメリカは、日米安保条約に基づいて防衛上の同盟関係を築いてきた。アメリカは日本に基地を持ち、米軍基地の存在は抑止力としてアジア太平洋地域の安定に役立ってきた。ところが民主党政権で鳩山首相(当時)が沖縄の米軍基地を「最低でも県外に移転」と発言したことから、基地に不満を持つ沖縄県民の声は抑えることができなくなり、辺野古に移転予定だった普天間基地はどこにも行き場がなくなってしまった。沖縄基地の不安定はアジア安全保障の不安定をも意味する。政府間の決め事が一人の首相の思いつきで一瞬にしてひっくり返され、これによって日米関係も不安定な状態に陥ったのだ。

迷走する日本政治へのアメリカの視線は冷たいものであった。日本に対するさまざまなコメントを総合すると、「政府間で何十年もかけて決めた合意が、政権交代があったからといって反故にされる。首相はコロコロ変わるし、日本との決め事は一体誰と交渉すればいいのだ?日本には当事者能力がないのではないか?我々は怒っているのではない。もう疲れてしまったのだ。」と、ほとほとあきれた様子であった。  こうした状況が日本の国際社会での地位低下や、アメリカとの交渉のマイナス要因になっているのは明らかである。未来への道筋を決めることができ、進む道がブレない安定した政治が、今の日本には必要だ。

日本が自分で決めるべきこと

この3週間、私はアメリカで様々な質問をしてきた。中でも衝撃を受けたのは「もし尖閣諸島において他国より侵略行為があったとしたら、同盟国としてアメリカは日本のために戦ってくれるか?」という問いへの答えだった。この質問に対して、「戦う!」と答えたアメリカ人は一人もいなかったのだ。むしろ「中国とは揉めたくない」という雰囲気のほうが強かったくらいである。アメリカ国債を大量に保有し、経済的にもアメリカ最大の貿易国となった中国は、非公式の場においても「仮想敵」と言える存在ではないのだ。

「それじゃ何のための同盟なんだ!」と、怒る人もいるかもしれない。しかし、主権国家として自国の領土を守るべきなのは日本国自身なのだ。日本自身が戦って守る覚悟がない島のために、アメリカにだけ血を流せというのはムシのいい話でしかないのだ。他人に依存する前に、自分の国は自分で守るという意思が、独立国家には必要なのだ。

沖縄に米軍基地は必要か?尖閣諸島はどうやって守るのか?憲法は改正すべきか?自衛隊は軍と規定すべきか?これらの質問は全て、アメリカに質問する以前に日本自身が自分で答えを出すべきことなのである。他者への依存を排して重要な諸問題に主体的に答えを出すことが、日本が真の独立国になる第一歩なのだ。

アメリカから日本を見て私は「日本の政治には今やるべきことがたくさんある…なんとかしなければ」という思いをさらに強くした。