永田町リポート 結局はお友達内閣 〜党は軽く、政府が重く、閣僚の失言が危ぶまれる〜 [2013年2月19日16:51更新]

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12月26日にスタートした第二次安倍内閣。吉田茂元首相以来の再登板となっただけに、前回の第一次内閣の失敗をどのように教訓化して、繰り返さないかが注目されている。前回の特徴はトップにも嫌なことを言ううるさ型や一家言ある若手を遠ざけ、耳に心地よいことだけを言うお友達ばかりを回りに集めたことが最大の失敗の原因だった。散々批判されたにもかかわらず、あまり教訓にはなっていないようだ。  今回、安倍晋三首相は党を軽くし、政府を重くする方針をとった。総務会長に野田聖子氏、政調会長に高市早苗氏と2人の女性を配置。選挙向けにはいいが、野田氏はもともと郵政造反組で小泉純一郎元首相に刺客を立てられた立場。高市氏も安倍氏と親しいとはいえ、党内での実力はほとんどない。ライバルの石破茂幹事長が党側で政府をけん制するような事態になるのを避けるため、あえて軽くし、選挙用のお飾りにしたとみられる。

一方で、閣僚人事は一定の配慮がある。前総裁の谷垣禎一氏を法相。自民党総裁選で争った前幹事長の石原伸晃氏を環境相に配した。

だが、配慮も中途半端。幅のある自民党の人材を十分に生かした布陣とは到底言えない。新藤義孝総務相、下村博文文部科学相、稲田朋美行政改革担当相、山本一太沖縄北方担当相、根本匠復興担当相…。お友達の面々には不安も残る。総務相は日本維新の会の攻撃を受ける立場で夏の参院選に向けては政局の要となる重要ポストなのに、新藤氏は下馬評にもあがらなかったサプライズ。稲田氏はわずか当選3回で、極端な右翼的言動で話題になった程度。いずれも能力に疑問が残り、国会答弁が危ぶまれる。新藤氏とともにサプライズとなったのが外相の岸田文雄氏。入閣は後見人の古賀誠氏に安倍氏が配慮したためとみられるが、派閥の領袖というにはいかんせん影が薄い。

内閣の柱となるのは、麻生太郎副総理と甘利明経済再生担当相だ。経済政策の柱とする狙いがあるとみられるが、2人とももともと安倍氏と近い。イエスマンとまでは言えないとしても、厳しいことを言う立場ではない。

たとえば自民党の中国通の系譜をつぐ高村正彦氏を外相に、野党時代に民主党の野田佳彦前首相や岡田克也前副総理と信頼関係があった大島理森氏を副総理にするなど、自分とは肌合いが違うタイプの人間を思いきって中枢に入れることはできなかったか。総裁選で争った石原氏を入閣させたのはいいが、環境相のような周辺ポストではなく、もっと重要ポストで入閣させるべきだった。

自民党長期政権は、派閥による不毛な権力闘争の弊害も大きかったが、一方で党の政策や手法の幅を広げた。首相は時には「昨日の敵」を取り込んで政権の生き残りを図ったものだ。せっかくの再登板なのに、今回の人事にはそうした配慮が十分ではない。

マスコミは安倍氏が前回、「おなかが痛くなって」政権を投げ出したことを問題にしているが、それは重大な問題ではなく、克服が可能だ。本質はやはり「イエスマンばかりを周囲に集め、耳の痛いことを言う人を遠ざける」という安倍氏の手法にある。名家の二世として結局は周囲から甘やかされて育った欠点が出ている。

前回の退陣も結局は参院選で敗北したにも関わらず、周囲の「辞める必要なんかない」という甘いささやきを鵜呑みにした結果、引き際を誤り、政権運営がにっちもさっちも行かなくなったことが最大の問題点だった。

人は誰でも間違いを犯し、首相も例外ではない。ただ首相が他のすべての政治家、国民と違うのは、間違った時の結果が極めて大きいということだ。だから間違った時に、いかに早く修正が出来る人間が周囲にいるかが重要になる。菅直人元首相の失敗は自分を頼むあまり、周囲の人間の意見を全く聞こうとしなかったことにある。

安倍氏は菅氏とは性格も含め、対極にあるが、過ちを犯した時に修正する能力に不安があるという点では共通している。一方、実は安倍氏自身にもそうした危惧の声は意識している。「参院選までは」としきりに繰り返し、靖国神社参拝や憲法改正などの持論も封印しているのはそのためだ。

しかし、「参院選まで何も起きない」保証はどこにもない。というよりこの経済、国際状況のどれをとっても、波乱要因はやまほどある。むしろ安倍氏が決断を迫られる局面は毎日のようにやってくるだろう。

その際、カギになるのは石破茂幹事長の動向だ。石破氏は今回、入閣を固辞し、幹事長留任を強く主張した。安倍氏が党不在の間に参院選の陣頭指揮を通じて党内に自らの勢力を扶植する狙いとみられる。やや変わり者とみられがちな石破氏が幹事長経験を経てどこまで変われるか。

一方で石破氏が安倍内閣を支える役目に徹すれば、安倍氏とは政策面でも毛色が違う石破氏の力が政権の懐の深さを示す「幅」となりうる可能性もある。