「脳疲労」を癒すのが健康のカギ [2009年8月10日09:37更新]

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快適環境創造フォーラムより 九大名誉教授 藤野武彦氏(09年7月号掲載)

九大名誉教授 藤野武彦氏メタボリック症候群という言葉・概念は、昨年からメタボ健診が義務化されたこともあって、今やすっかりみなさんに定着したと思います。心筋梗塞や脳卒中を予防するために「予備軍」を早期に発見しようというのが健診の狙いです。 

予備軍と診断された場合どのような対策を取ればいいのか、というのが当然ながら問題となってきます。現在主流なのは食事量や飲酒を制限するやり方ですが、実はこれは逆効果で、非常に危険だという研究結果が出ているんです。 



メタボリック症候群の原因は何なのか。どう対応すればいいのか。こういったことについて私の研究、簡単な実践方法を、みなさんにお話したいと思います。 

フィンランド・パラドックス   

糖尿病などの循環器疾患を予防する目的で、フィンランドのヘルシンキ大学において研究が始まったのは1970年代でした。 

肥満などの危険因子を持つ患者さんを、食事や体重コントロール、禁煙の指導を行う集団と何もしない集団に分け、長期に渡って経過観察しました。すると指導を行った集団の方が総死亡数が多かった、という衝撃的な結果が出たのです。 

こんな話をすると、世のズボラなお父さん方に喜ばれそうですが(笑)、研究の結果は厳然たる事実。ですが先ほど述べた通り、いまだに食事などを制限・コントロール方法が世界の主流なのは間違いない。いわばヘルシンキ大の研究を世界規模で行っているようなもので、逆に患者さんの死を早める結果になりかねないのが現状なんです。

脳が疲れている 

どうしてこのような事態になったのか。そもそもメタボリック症候群は何が原因なのか。 

メタボリック症候群は一言で言えば「エネルギー余り病」。そしてその原因は「脳疲労」にある─と私は仮説を立てました。現代人は様々なストレスにさらされています。それらが脳に悪影響を及ぼし、鈍麻・過敏などの五感異常を引き起こす。

これが運動不足・過食などの行動異常につながり、結果的に肥満や糖尿病など生活習慣病となる。こう考えたのです。

現在主流である治療法は、脳疲労を解消するどころかむしろストレスを増大させているのではないか。 

脳疲労という言葉は私の造語。これを解消する方法を考え、ブックス法(BOOCS、脳疲労自己解消法)と名付けました。原則は実に簡単です。

嫌ならするな

(1)たとえ健康に良いこと・食べ物でも嫌であれば決してしない、食べない

(2)たとえ健康に悪いこと・食べ物でも好きなこと、止められないことはとりあえずそのまま続ける

(3)健康に良くて自分が好きなこと・食べ物を1つでもいいから始める、摂る 

これだけです、実にシンプルでしょう?

疲れた脳を癒すことによって、健康の回復を目指す。もちろん、こうした概念だけでは治療法とは呼べませんから、具体的にどう患者さんに適用させるかも確立させました。 

93年に初めて論文を発表して以来、ブックス法を実践し多くの成果を上げてきました。そして素晴らしいことに、この方法が有効なのは肥満や糖尿病だけではないんです。 

例えば不登校や引きこもりといった子どもたちの問題。現代の子どもは疲れています。それは肉体的なものではなくまさに脳疲労と言うべき状態なんです。それからうつ病や神経症といった精神異常も、脳疲労が原因と言えるでしょう。 

飽食、物質充足の社会へと変化する中で新たな問題を抱えた現代人。私のブックス法はいずれ世界で支持されると信じています。

重要なのは事実を素直に受け止めること  

元々私は心臓内科が専門で、患者さんは肥満や糖尿病の方が多かったんです。かつて私のところへ来た患者さんを肥満外来で診てもらったのですが、結局良くならなかった。なぜなのか。治療法が根本的に間違っているのではないか。

これがきっかけで「専門外」の研究に関わることになり、今では医食同源をテーマにした機能食品の研究にも携わっています。 

医者というのは権威に弱く、自分の専門分野に閉じこもりがちです。ですがそれではだめ。先入観や偏見を排除し、大勢に流されることなく事実を素直に受け止めることが大切です。 

医者にとって患者さんは単なる治療対象ではなく、重要な事実を教えてくれる「師匠」です。患者さんを診ることで学ぶことができる。だから現場を離れては生きていけない。それこそが、1科学者としてのあり方だと私は思っています。

★ブックスクリニック福岡のHPはこちら

 

【藤野武彦】<ふじの・たけひこ>
1938年、直方市生(70歳) 九大健康科学センター、 同大病院で心臓内科医として活躍
現在、医療法人社団ブックス理事長、レオロジー機能食品研究所長、NPO法人「こどもの命を守る会」副代表
著書は「BOOCSダイエット」(朝日文庫)など多数

【快適環境創造フォーラム】  
快適な環境づくりを目指し健康産業やデザイナー、建築家など様々な分野の専門家らが参加する交流会。

★本紙があらためて取材、再構成しています〈随時掲載〉