民主の「暗部」が表面化 稲富陣営の使途不明金問題 [2009年10月13日09:16更新]

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(09年9月号掲載)

歓喜に沸いた稲富陣営だったが・・(8月30日)事前の予想通り民主党の圧勝に終わった総選挙。その余韻も冷めやらぬ9月4日、稲富修二氏(2区)が県知事選に出馬した際の資金が使途不明になっていることを西日本新聞が報じた。 

稲富氏と当時の陣営幹部が釈明したものの、真相は闇の中。一部の党関係者の間では「選対幹部らが私的に流用したのでは」との疑念が渦巻いている。 

福岡市長選以来、急速に力を伸ばした民主。それだけに「政権与党としての資質が問われる」「今後のためにも“大掃除”すべき」との声も上がっている。 



 

「危惧していたことが現実になった」。ある民主関係者はこう嘆く。「政権与党になる以上、これまでとは比較にならないほど厳しい目にさらされる。少なくとも金の問題だけはきちんとしておけと、前から言っていたのだが・・」 

「知人に預けた」  

稲富氏が知事選に出馬したのは07年4月。報道や選挙運動費用収支報告書によると、この時の選挙運動について、陣営の収入は4011万円、支出は2261万円。この結果生じた余剰金約1900万円の使途が不明のままになっていることが分かった。 

収入のうち4000万円は民主党県連からの推薦料という。県連は国からの政党交付金の配分を受けており事実上、選挙運動にかかった費用のほとんどが公費で賄われたと言える。 

「余剰金は私が預かった。その金はさらに財界人に預けている」。西日本新聞が報じた当日、稲富氏とそろって記者会見した当時の選対本部長K氏は、こう説明した。だがそれを証明するものは一切なく、預けた財界人の名も明らかにしなかった。「こんな話、誰も信じませんよ」(マスコミ記者)。

行方つかめず  

「昨年末、初めてこの件についてメディアから問い合わせがありました。こちらではまったくわからず、K氏に連絡を取り続けた」。こう話すのは稲富陣営関係者だ。「だが稲富本人も含めまったく接触できず、今どこにいるのかすら分からなかった」 

それが、大手マスコミが報じたことで“仕方なく”表に出てきた─というのが真相のようだ。「県知事選の時は、金の管理は彼の妻が担当していた。だから、使い道などは彼らにしか分からないのです」(同)。 

「税金の使い方を変えます」。若さと清廉さを武器に、こう訴え続けて自民ベテラン山崎拓氏に圧勝した稲富氏。そんな彼に突然降りかかってきた、公金の使途をめぐるスキャンダル。キーパーソンがK氏であることは間違いないだろう。

福岡市長選 吉田陣営でも・・  

そもそもこのK氏とは一体何物なのか。 

元県議の経歴を持つK氏は、06年の福岡市長選に出馬した吉田宏現市長の陣営で、知事選と同じく選対本部長を務めた。当時の陣営関係者は「K氏と旧知の仲である吉田氏自らが本部長を依頼した」と話す。 

「K氏の口癖は『オレは選挙の裏も表もできる』。裏はともかく、少なくとも表については公職選挙法もろくに知らず、マニフェスト発表会見をめぐって陣営内でトラブルも起きた。『稲富を落とそうとしている』とまで言われていた」。こう苦笑するのは知事選時の稲富陣営関係者だ。

「使途不明金の話が報じられた時、内輪では『K氏の愛車ベンツに消えたのでは』と。ちなみに福岡市長選の時も、金の管理は彼の妻が一手に引き受けていました」

S県議が送り込む  

K氏についてはかつて本紙で報じたが、このような人物が知事選で陣営を仕切ることになったのはなぜか。 「現職の山崎広太郎氏が有利」との見方が圧倒的だった福岡市長選。「ところが吉田氏が勝利したことで本部長のK氏と、一部の反対をよそに吉田氏擁立で押し切った県連幹部S県議の発言力が一気に強まった」(民主関係者)。

K氏とS県議とは県議初当選が同期という間柄。「勢いに乗ったS県議は、擁立した稲富陣営にK氏を送り込み、選対本部長に据えた。知事選では他の選挙と比べて扱う金額も大きいからね」(同)。 

別の民主関係者はこう語る。「県連内では当時、現職国会議員の数が少なく、福岡・北九州両市長選勝利の立て役者であるS県議を抑えられなかった」 

念願の政権交代を果たした民主。だが福岡においては両政令市長選以降、全国に先駆けてその流れを作っていた。それが結果的にK氏やS県議らを押し上げ、その「ひずみ」が金銭スキャンダルとして表面化したとするならば、期待を込めて1票を投じた人々の思いはどうなるのか。 

「これまでは仕方ない面もあったが、今回の総選挙では擁立した候補10人全員が当選した。今では県連内の“質の悪い部分”を大掃除しなければならないことをあらためて感じている」。ある民主議員は語る。「政権与党として責任を果たし、信頼を勝ち取るためには避けて通れない。来年秋に予定される福岡市長選にも、大きな影響を及ぼすことになるだろう」

★西日本新聞は10月11日付朝刊で、余剰金全額が稲富氏側から民主県連へ返還されたことを報じた