(10年5月号掲載) また、地元経済界に君臨している肥後銀行に対し警察やマスコミもうかつに刃向かえない状況が存在するのも事実である。 「小説・火ノ国銀行」(写真)の初版発行は昨年12月。書店に問い合わせてみると、当初は誰かが(おそらくは肥後銀行関係者だろう)まとめ買いをしたらしく、熊本市民のほとんどが知らなかったようだ。 現在は増刷され書店の売り場に山積みの状態で、他行の幹部など金融関係者だけでなく多くの一般市民も興味を持って読んでいる。それこそ春の阿蘇で行われる野焼きの火のように、小説をめぐる噂は各方面に広がっており、もはや消火などできない事態となっている。 この本を読んで、福岡の地銀トップ、「福岡銀行」(福岡市中央区)で今から30数年ほど前に起きた「クーデター騒動」を思い出した。 かつて福岡には麻生、伊藤、貝島のいわゆる「石炭御三家」が存在し、小さな炭鉱主すらも栄華を極めた時代があった。九州電力などは火力発電に使用する石炭を確保するため、炭鉱関係者を毎晩のように接待した─といったエピソードをよく聞かされたものだ。 だがエネルギー革命によって主役の座を石油に奪われると、あっという間に多くの炭鉱が消えて行った。それまで炭坑関連の融資を一手に引き受けていた福銀も融資先の大半が破綻し、不良債権の山が築かれた。 その後頭取に就任したA氏は経営再建に奔走し大きな成果を上げた。しかし、再婚した夫人が東京から訪れた女性の友人と一緒に日曜日、大宰府へ行く際に公用車を使用したことが運転手の日報から判明。これをきっかけに定例の役員会で緊急動議が出され、出席した取締役全員の賛成で頭取の解任が決まった。 突然の事態に呆然としたA氏は一時連絡が取れなくなり、自殺の可能性を考えた銀行関係者が密かに捜索していたのを思い出す。中興の祖とまで言われ多くの行員から慕われていたA氏だが、この交代劇がなければ今の福銀はなかったと言っても過言ではない。 肥後銀行の場合は、創業者一族でもない元頭取が銀行の私物化を図り、娘婿を頭取に据えて世襲を企てたのが悲劇の始まりのように思われる。 日本列島は今、維新の英雄・坂本竜馬を中心に歴史がブームとなっており、熊本には熊本城をはじめ西南戦争の激戦地・田原坂、郊外には宮本武蔵塚など、偉人にまつわる史跡が多く残っている。だが残念ながら、肥後銀行にサムライはいないようである。 とにかく、久し振りに遭遇した有力銀行のスキャンダル。工務店側はすでに優秀な弁護士と相談しており肥後銀行を相手取って訴訟を起こす模様である。6月には同銀行の株主総会も予定されており、小説の影響も含め、今後の展開から目が離せない。
熊本に対しては九州人の典型、豪放磊落(ごうほうらいらく)といったイメージを持つ方が多いだろう。その一方で、国の出先機関が多いことから「役人が威張っている街」でもあり、非常に閉鎖的な一面も持ち合わせている。
【J氏の独り言 特別編】小説・火ノ国銀行がおもしろい(2) [2010年6月11日09:51更新]
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